中島と暮らした10日間

だんご

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36 中島10日目。呆気なく

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 今日、定時で上がらせて貰った。
 薫からのメールは無いが、何も買わなくて良いのだろうか?
 カレーだけで十分だったのか?
 まぁ、買い出しに出ればいいな。

 ん?
 家の電気がついてないけど?
 ……まさか、そのまま寮に戻ったのか?
 中島を迎えに来ず?
 おいおいおいおい。
 週末までの、お取り置きじゃなかろうな?
 いや、爆睡している場合もあるな。
 山越え後の早朝飛行機だし。
 んじゃメール返せないよな。
 なら、葉っぱ取って入るか。
 二度手間回避だな。

 ん?
 玄関に、薫の靴ないぞ?
 ……真っ直ぐ大学パターンか。
 まぁ中島に葉っぱやってから、ゆっくり電話するか……

 「ただいま、中島。いるか?」

 …………

 「中島?」

 …………


 「出たのか……?中島……」

 最後だって思って油断してたか?
 朝、蓋閉めたよな?
 ……閉めたよな?
 足元を確認しながら、居間の電気を着ける。

 「へっ?中島……?」

 食卓の上にあったはずの中島ケースがないぞ?
 ……落ちてもいない。
 とりあえず、カーテンを閉めて……
 台所へ。

 「……洗ってけよ」

 妹が食べたであろうカレー皿とスプーンが、水に浸けられた状態で残されていた……

 どうやら、キチンと中島は回収されて行ったようだ。
 コレ、一言以上物申させて貰おうか?
 まったく。
 部屋着に替えて薫に電話をする。

 『もしも~し。兄ちゃん、カレーご馳走さま☆』

 「メールでも入れといてくれよ。中島がいなくてビックリしたぞ?」

 『ほら、でも私がいた痕跡残ってたでしょ?』

 「いや、皿くらい洗ってけよ」

 『いやぁ~電話の充電切れちゃってさ?今、充電しながら電話してる所だよ?』

 「今ってことは、電話切れてるの今気付いたって事だろ?」

 『ビンポ~ン!大正解!!』

 「まったく……お前に数日電話通じなくてコッチは心配だったんだからな?」

 『ごめんね?兄ちゃん。京都から東京行くまで、ヒッチハイクしてたから、充電できなくてさぁ』

 「はっ?東京?! 車で越えてたの?」

 『いや、バイク』

 「はぁ?! バイクぅ?!」

 『そうそう。気のイイおじさんのバイク集団がいてさ、乗っけて貰ってたの』

 「集団って、オマエ……」

 『結構楽しかったよ?野営して移動してたから』

 「野営……」

 『野草とかで料理したりねぇ。ただ到着が遅れちゃってさぁ』

 「野草……」

 『だからまぁ低コストで帰って来れたんだ。お土産は廊下の冷凍庫の上にあるよ☆』

 「おみや……それより、中島の葉っぱは?あんのか?」

 『大丈夫だよ?さっき丁寧に食べさせてあげたから』

 中島……
 ……可哀想に……ホロリ。

 「中島をちゃんと大事にしろよ?」

 『勿論だよっ!』

 「この時期だからな。ちゃんと越冬させてやれよ?」

 『うん。私の部屋、ストーブないから大丈夫だよ!バッチリ寒いから、越冬できるよ!』

 「それはそれでどうなの?ストーブ買ってやるか?」

 『大丈夫だよ~。談話室にはあるから』

 「良くないよ?風邪引くぞ?凍死するぞ?」

 『大丈夫、大丈夫。死人は出た事ないって』

 「ソレ、大丈夫の基準じゃないからなっ?!」

 『あははははは☆あっ、充電また切れそうだわ。何か音し始めた』

 「ちょっ、まだ言い足りない事が何個も、」

 『じゃ兄ちゃん。ありがとうねぇ~。おやすみ☆』

 「あっ、コラ、薫!!」
 
 ……ここ数日分の損害賠償を請求したい。
 まさか京都から東京までヒッチハイクに挑んでたなんて……
 まさかバイクで野営しながらなんて……
 ……怖ぇよ薫ぃ~……
 よく無事で帰って来たなぁ……
 ほんと、マジで。
 兄ちゃん、今、心臓がおかしな動きしてるぞ?
 はぁ……
 たくましいってんだか、なんて言うか……
 ……恐ろしい子。

 ……土産は○つ橋かぁ。
 コレ兄ちゃんのお金で買ったヤツよね?
 はぁ……
 こんな土産なんていいから、安全に帰って来いよ……まったく。
 足りなければ、言えば良かったのに。
 兄ちゃん、ほんとの、本当に心配だったんだからな?
 熊やイノシシに遭遇してないか?とか。
 変質者に捕まってないか?とか。
 殺人事件に巻き込まれていないか?とか。
 向こうの山で野人になってないか?とか。
 はぁ……
 まぁ無事だったからいいよ。
 うん。
 それでいいよ。
 ……カレー食べよ。



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