上 下
63 / 63
番外編

EX3-3 慣れとは恐ろしいものだ ※微

しおりを挟む

「せっかくのご馳走が……全然食べられなかった」
「自業自得だな」
 
 結婚式が終わり、自宅に戻った後もクルスは不機嫌なままだった。

 いつもは一緒に風呂に入り、洗いっこ♡(や、たまにそれ以上の事)をして寝支度をするのだが、今日はクルスが一人でさっさと風呂に入ってしまった。
 後から入る勇気もなく、アンティーク調の二人掛けのソファーに座って様子を見守っていると、風呂から出て、寝支度を終えたクルスがパジャマ姿でクイーンサイズのベッドに腰掛けた。

 寝ないのだろうか。引き続き観察するようにクルスを見ていると、クルスからじっ……と見つめ返された。
 俺が「隣、いい?」と訊くと、ふいっと目を逸らされた。拒絶されたらまたどけばいいかと思い、隣に腰掛けた。
 初夏でそこそこ暑いはずなのに、沈黙の間に流れる空気が、刺さるようにひんやりと冷たく感じる。
 
「クルス……今日は、ごめん」

 このままでは埒があかないので、今日のところずっと受け取ってもらえていない謝罪の言葉を再び口にすると、

「お前、とりあえず謝ればいいと思ってるだろ。
 何に対して"ごめん"なのか、ちゃんと聞けるまで許さない」

 と言われてしまった。
 クルスが怒り始めたタイミングを考えると、

「ヘラルドの事、見てたから……?」
「…………」

 否定はされなかった。もしかして……勘違いだったら恥ずかしいと思いながらも、俺はクルスに訊ねた。

「……あの、もしかしてあの時、嫉妬、した……のか?」

 クルスはバッと顔を上げると、眉をつりあげて俺を睨んだ。

「いやごめんなさい、自惚れました」
「そうだよ‼︎」

 乱暴に言い放ったクルスを見ると、普段は雪のように白い頬を、真っ赤に染めていた。

「ヘラルド……確かに綺麗だったよな。しげるが見惚れるのもわかるんだ。……僕には白無垢なんて絶対似合わないし。
 でも、あの時……僕だけが知っていればいいと思っていた表情かおを、お前がヘラルドに向けていたから……。
 しげるのバカ。この、……ハゲ」

 下を向いて吐き捨てるように「このハゲ」と余裕なくなじったクルスに、堪らなく愛おしさがこみ上げてきた。

「クルス……。確かに俺はあの時ヘラルドの事、綺麗だなって思って少しドキッとしたけど、それは……あー、なんて言えばいいのかな。
 例えば……ほら、今日行った大聖堂のでっかいステンドグラス。あれ、うわーっスゲェ‼︎、って気持ちがブワー!ってならなかった?それと同じような感じでさ。
 嫌な気持ちにさせてしまったのは、ごめん。でも、うまく言えないんだけど……これは恋とはまた、違う感情なんだよ。
 
 だって、……俺が揺さぶられて、ストン、って恋に落ちているのは、お前だけなんだから」
「しげる……」

 クルスの纏っていた空気が、微かに柔らかくなった。
 
「それに、『白無垢なんて絶対似合わない』なんて言ってたけどさ、そんな事ないよ。
 お前、普段から黒い服ばっか好んで着てるけど、他の色も似合うと思うんだよね。
 ……特に、白。聖夜祭の日も、マーガレットの花、よく似合ってたし。
 ヘラルドも着こなしてたけど、きっとお前が着たらもっと、こう……真っ白な綿帽子の陰から黒い瞳が覗いて、それで目が合ったりなんかしたら、俺、もう……」

 ……堪んねえなぁ。妄想を膨らませて思わずニヤつくと、

「……その顔」
「へ?」
「……その顔は、今度こそ絶対他の奴に見せるなよ」

 クルスがむくれ顔で、ベッドの淵に添えていた俺の手に、自分の手を重ねてきた。

「見せる機会、ないと思うけどな………ンむぅ…!」

 俺が緩み切った顔で答えると、唇を重ねてきたクルスにそのまま勢いよくベッドへと押し倒された。

「クルス、ちょっと待って、俺風呂入ってない」
「魔法で綺麗にしてやるから」

 実に手際よく衣服を剥かれると、全身に浄化もどきの殺菌系魔法を掛けられ、なぜか今日付けていたネクタイだけを再び巻き直された。
 
「え、なんでネクタイ…………ぐぁ、」

 訊き終わらないうちにネクタイの剣先をクルスに引っ張られ、呻き声が漏れた。

「どうやら僕にはの気もあるみたいで……。
 あの時のしげるは腹立たしかったけど、それと同時に興奮もしていたんだ。
 ……ほら、僕だけにもっと見せて。苦痛と快楽が混ざってぐちゃぐちゃになる、しげるの可愛い顔を」

 クルスが歪んだ笑顔を俺に向けると、首を絞められているのに情けなくも反応してしまっている俺のチンコを扱きはじめた。
 
「……ぐっ、悪役令息転生おじさんめ……」
「それ、今言う?」
「いいい痛い‼︎ ごめんなさい許して」
「いいよ。……この後、苦しみながら善がる姿をいっぱい見せてくれたらね」
「……いやあああぁあァ‼︎」




 
 ――こうして、俺だけが一方的に苦しいネクタイプレイを経て、無事仲直りをしたわけだが。

 それ以来、『目覚め』てしまったクルスから定期的にネクタイプレイをされるようになってしまい、俺もそれが満更でもなくなってしまっているのだから……慣れとは本当に、恐ろしいものだ。

 

 番外編3 おしまい
 


 ここまで読んでくださって、ありがとうございます♡
 ただいま別作品を準備中です。
 まだ未消化のネタが2つほどあるので、また余裕ができた時にアップ致します!
 
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

チョココロネ

めちゃくちゃ面白かったです!!!
ずっとハゲ呼ばわりされてるのも面白かったし、○夢ネタが出る度にニヤニヤしてしまいました、、!
みんな幸せになれて良かった!!♡♡

ういの
2024.11.24 ういの

チョココロネ様
 
返事が遅くなってしまい、申し訳ございません!
この度は拙作をお読み頂き、めちゃくちゃ嬉しい感想までありがとうございます(˃̵ᴗ˂̵♡)
淫○ネタ(違ってたら恥ずかしいやつ)にも気付いて頂けて、すごく…嬉しいです…www
書ききれてないエピソードがたくさんありますが、ひとまずみんな幸せになってます!
また更新したいと思っておりますので、その時は是非再び見に来て下さるのをお待ちしております♪

解除
よしりん
2024.11.06 よしりん

素敵なお話をありがとうございます。
番外編、ますます楽しい展開になっていますね!
他の登場人物達のその後も気になりますが、みんな幸せになってくれていたら嬉しいです♡♡

番外編3も楽しみにしております♪︎

ういの
2024.11.06 ういの


よしりん様
こちらこそ、素敵な感想をありがとうございます!
番外編、楽しんで頂けてとても嬉しいです♡
攻略対象達はみんなハッピーエンドを迎えているので、みんな幸せになっております✌︎('ω'✌︎ )
番外編3はさらっと書いて終わる予定でしたが、メインの二人以外放ったらかしだったなあと思い直して加筆中です。なるべく早くアップいたしますので、お待ち頂けると嬉しいです╰(*´︶`*)╯♡

解除
さち
2024.11.01 さち

完結、おめでとうございます。毎日楽しみにしていたので、少し寂しいのですが、番外編を心待にしたいと思います。コノハ.ゲーという名前が本当に秀逸でした。

ういの
2024.11.01 ういの

さち様

この度は最後までお読みいただき、ありがとうございます!
毎日楽しみにして頂いていたという、とーっても嬉しいお言葉に感極まっております。゚(゚´ω`゚)゚。
登場人物の名前考えるのが好きなので、秀逸と言って頂けたこのふざけたハンドルネームもきっと喜んでいると思います(笑)
番外編も近日中にアップしますので、ぜひそちらも楽しんで頂けたら嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。