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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話

47 イベント成功の『鍵』

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 クルスは高級感のあるおしゃれな私服(全身真っ黒)に着替えて、いよいよ準備万端だ。
 コイツいっつも真っ黒だよな……なんか差し色とかあった方がいいんじゃね?と思ったが、別にファッショニスタでもない俺に指摘される筋合もあるまい、そのあたりはスルーした。
 
「よし、じゃあチョコレートも準備できた事だし、気を付けて行ってこい。
 クルス、エドワードから貰った鍵、ちゃんと持ったか?」

 クルスに訊ねると、なぜか奴は目を逸らして押し黙ってしまった。

「……なに、どうしたの。緊張でお腹痛くなった?」
「いや……その、」

 俺が首を傾げると、クルスが気まずそうに口を開いた。

「実は……エドワードの好感度を思うように上げられていなかったみたいで、貰ってないんだ……鍵」
「なにィ⁉︎」

 あまりの衝撃的な出来事に、思わず俺はキャ○テン翼になった。
 俺が把握している限りでは、クルスはちゃんとエドワードに最適解で応じていたはずだ。それなのに……。
 もしかして、主人公攻略する側がクルスに変わった影響で、質問やその最適解も変わってしまっていたのか……?

「どーすんだよ!チョコまで作ったのに‼︎
 どうして今日の今日まで鍵を貰ってない事を黙ってた⁉︎」
「……ごめん」

 思わず気持ちをぶつけてしまったが、今更クルスを責めたところで状況が好転する訳ではない。
 ここ最近クルスの様子が明らかにおかしかったのに、大丈夫という言葉を信じてクルスに任せっきりにした俺にも責任がある。他に、鍵がなくとも『攻略』可能な方法はないのだろうか?
 
「……例えばお前の魔法で、別邸の鍵をピッキング出来たりしねーの?」
「出来ないよ……仮に出来たとしても、王家に仇なす者と見做され厳罰に処されるだろう」

 
 沈黙が流れる。俺が両手で顔を押さえると、やけに冷静なクルスの声が降ってきた。

「……ここまで色々、力を貸してくれてありがとう、コノハ。
 僕はもうエドワードの事は諦め」
「駄目だ!そんなの。
 クルス……お前、何のために今日まで頑張ってきたんだよ! まだ諦めるな‼︎ なんとか突破口を探すぞ」

 俺はエプロンと三角巾を外して攻略ガイドを手に取ると、最初のページから順番に隅々まで見ていった。それはもう、俺と同じ見た目の奴があんな事やこんな事になっていて、見るに堪えない画像スチルにもだ。
 
 そして最後のページに近い、ヘラルドのバレンタインイベント攻略ページに『ブルジャイン家別邸の鍵』として、見覚えのある白いカードが載っているのを発見した。

 俺は制服の胸ポケットからヘラルドに貰った白いカードを取り出すと、攻略ガイドに載っているそれと見比べた。全く同じものかは攻略ガイドの画像が粗くて判別がつかないが、非常によく似ている。

「……クルス、『ブルジャイン家の別邸』って、いくつある?」

 クルスは一瞬「え?」という顔をしたが、すぐに

「僕が知っている限りは、一つしかないけれど」

 と答えた。

 エドワードの攻略ページに載っていたのは青いカードだったが、『ブルジャイン家の別邸』が一つしかないなら、ヘラルドの鍵でも入れるはずだ――彼もまた、ブルジャイン家の人間なのだから。
 しかもカードをよく見ると、右下の方にご丁寧に『別邸』と非常に小さな文字で書かれている。なんで今まで気が付かなかったんだ。


『――絶対を使う時が来る。
 それまで大事に持っとけ、このハゲ』


 その瞬間、ヘラルドの言葉が脳裏に蘇った。

「わああああっ!ヘラルド‼︎
 お前っ、こうなる事を見越してたのか⁉︎」
「えっ、なんでヘラルド……?」
「これ‼︎」

 俺はクルスに、ヘラルドから貰ったカードを手渡した。

「これは……ヘラルドに貰ったカード?」
「ここ、見て。文字」
「べってい……? って、これ……‼︎ まさか」

 こちらを見たクルスに、俺は頷いた。

 「ほぼ間違いなくブルジャイン家別邸の鍵だ。ヘラルドが言ってた『使』、今しかないだろ」

 俺はクルスの手に自分の手を重ねて、鍵を握らせた。

「クルス、今すぐエドワードの元に行くんだ。
 ……たとえ今、思うように好感度が上がってなくても、いっぱい心を尽くしてきたじゃないか。
 チョコレートと一緒に、ありったけの想いを伝えれば、きっとエドワードにも届くはずだ。

 あと、これ……俺はもう使わないから、持ってけ」

 俺は、攻略ガイドをクルスに手渡した。

「日本語読めるなら、困った時に見ろ。
 ……まあ見てる余裕ないかもしれないけど」
「……コノハ」
「まあうまくいかなかったら、その時はまたその時で対策を考えようぜ。後夜祭の時も何とかなったわけだし。

 ……頑張ってこいよ、クルス」

 クルスは『やおい書店』と書かれたぼろぼろのカバーの本に目を落とすと、口の両端を微かに上げた。

「ありがとう」
「いいって事よ」

 俺は親指を突き立て、クルスの肩をポン、と叩くとそのまま「早く行ってこい」とドアの方に向かわせた。

「……じゃあ、行ってくる」
「おう、健闘を祈ってる。週明けにでも報告よろ」

 クルスは小さく頷くと、ピーコートのポケットに攻略ガイドを仕舞い、ドアノブを回してそのまま部屋を出ていった。

「さて、俺も部屋に戻るか……って、あれ……?」

 
 どうしてだ。
 右目からぽろりと、涙が頬を伝っていた。


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