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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話
34 教室を抜けた後始末
しおりを挟む教室に戻ると、クルスが仁王立ちで俺を待ち構えていた。
「おいハゲ。皆が忙しくしている中、ヘラルドと一緒にどこで油を売ってたんだ」
俺は顔の前で手を合わせて、クルスに謝罪した。
「ごめん。油は売ってないけど、一緒にジュース売ろうかとは誘われた」
「……は? ジュース??」
放課後、俺は勝手にヘラルドのお悩み相談に乗った事(さすがに内容は伏せた)や、ヒロというヘラルドと同じクラスの風紀委員がやって来て、意味深なセリフを言い残していった事など、教室を抜けてた時に起こった出来事をクルスに話した。
「ヒロ・イシズミ……ね。確か彼は魔法無力化能力の持ち主のはずだ。
特段ヘラルドと仲が良い印象はなかったけれど……」
劇で着る衣装の修繕を行いながら、クルスが俺に話しかけた。
俺は教室に戻ってきてからクラスメイトに謝罪したが、途中で抜けた罰として他のモブ達が置いていった小道具係の仕事の後処理を居残りで一人でする事になった。それを、説教を垂れつつもクルスが手伝ってくれているのだ。
クルス、ありがとう……もうマジでチョコプリン買うお金ないけど。
というかこの世界のモブはゲームの影響か、はたまた俺が密かによく思われていないせいか、基本俺が話しかけても無視なのだ。だから、協力して何かやろうにも、会話が成立しないからうまくいかない。トビーの彼氏にも話しかけてみたけど、無言でフリーズされた。
この世界でまともに会話ができるのは、授業中の先生と、食堂のオバチャンと、選択画面が出てない時の攻略対象と……更に言うなら、どんな時でも会話が成立するのは目の前にいるクルスだけだった。
だからヒロくんにはなぜか敵対視?されているようだけれど、見た目が俺と同じようなモブっぽいのに、普通に会話ができたのはかなり嬉しかった。
そして、魔法無力化能力の持ち主と聞いて、ヘラルドを容易く回収していった理由も腑に落ちた。
「魔法無力化かあ。
魔法使える奴を生身の人間と同じ状態に出来るって事だよな? そいつは凄いや」
「その代わり、魔法無力化は常に発動状態だから、お前の使う治癒魔法が効かなかったりといったデメリットもあるよ……あ!」
突如、クルスが思い出したように叫んだ。
「ヘラルドが持っていた闇魔法無効化のブレスレット……もしかしてそのヒロって奴が作ったんじゃないかな。
ハゲ、まだあのブレスレット持ってるか?」
「ああね」
そういえば引きちぎったきり、ヘラルドに返してなかった。今日返せばよかったな。
ブレスレットは制服の上着のポケットに、謎の砂粒と一緒に入ってた。俺はそれをクルスに見せた。
「はい、これ」
「なんかブレスレット以外のものもあるな……。
これ、どんな術式が掛けられているか確認したいから、預かってもいいか?」
「いいけど、いつかはヘラルドに返そうと思うから確認が終わったら俺かヘラルドに寄越して」
そう言って俺がクルスにブレスレット(と砂粒)をクルスに差し出すと「わかった」と言ってブレスレットを摘むようにして受け取った。俺の手には砂粒だけが残った。
仕事の後処理が終わる頃には、空が真っ暗になり、激しい雨が降り出していた。どさくさに紛れて大道具の奴らが絵の具やらパネルやらを置いていってたままだったから、それも片付けた。
大道具の奴らめ……明日会ったら文句を言ってやる。無視されるんだろうけど。
「悪いな、クルス。
こんな遅くまで手伝って貰っちゃって」
「お前一人じゃ片付け終わらないだろうと思ったからな。結局二人がかりでも結構時間掛かったし」
クルスが手元の懐中時計を眺めながら、ふう、と溜め息をついた。
「来月のお金入ったら、真っ先にチョコプリン奢ります。ほんと助かった」
俺がクルスに最敬礼すると、照れたように「とっ、友達なんだからいいって」と言ってそっぽを向いた。愛い奴め。
すっかり遅くなってしまったが、俺はいつものように食堂で持ち帰り容器に入れてもらったパスタを持ちながら、クルスと二人で寮の廊下を歩いていた。
すると突然、窓の外が一瞬激しく光り、轟音が鳴り響いたかと思うと、辺り一帯の電気が消えて真っ暗になった。
「……雷だ」
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