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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話

31 ヘラルドの葛藤

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 クルスの魔法に任せきりにしてしまっていたヘラルドだが、今度は俺自身で攻略対象外になるようにしていかなければならない。
 間に合ってますを選びたいところだが、攻略本を見る限り、意外と塩対応が最適解な事が多いんだよな……コイツ。ドSなプレイをするという触れ込みの癖に、メンタルはドMかよ。
 
「ヘラルド、自分の教室に戻らなくていいのか?
 クラスメイトが心配するだろ」

 教室のドアを開け放ち、にっこりと天使のような悪魔の笑みを浮かべるヘラルドに、ダメ元で選択肢を選ばずに思ったままを言ってみた。
 最初の頃、エドワードに選択肢を提示された時は、確か答えるまで解放してもらえなかったが、ヘラルドもそうなのだろうか。


「……ボクの心配なんて、する奴なんかいないよ」


 …………お? 
 なんか普通に答えてくれたが、ヘラルドから笑顔が消えた。
 ついでに、選択肢も消えた。

「何言ってんだよ、いるだろ?」
「いない」
「少なくとも俺は心配だ」

 ヘラルドがいぶかしげに俺を見た。
 や、マジで心配だからね?だって確かこの時間って、皆で出し物の準備をする時間だろ?

「仕方ねーな。このハゲパイセンが教室まで送ってやるよ」
「それより、二人で抜け出してどっか行こうよ」
「サボるつもりなら天下のエドワード王太子殿下様を呼んで、言うこと聞かない弟のお尻をペンペンしてもらうぞ?」
 
「……おまえもボクの事、『エドワードあいつの弟』って思ってんのか」
「だって兄弟だろ、お前ら」
「…………」

 ヘラルドが下を向いて、押し黙った。
 あろ……俺、地雷でも踏んだか?
 これは何か、訳アリか?

「……よし、ヘラルド。ちょっくら抜けるか」
 
 俺はヘラルドの手を掴むと、「ヘラルド具合悪いみたいから保健室連れてくー」と適当な言い訳を近くのモブに伝えて、ヘラルドが全開にした教室のドアから一緒に廊下に出た。
 
「えっ、あ、おい、このハゲ⁉︎」
「抜け出そうって最初に言ったの、お前だろ?
 まあ、いいからついてこいよ」
 
 直感だが、こいつの考えている事に心当たりがあった。

 俺は保健室……ではなく、学園の最上階までヘラルドを連れ出すと、自販機の前で立ち止まった。

「飲み物」
「は?」
「この中から飲みたいやつ選んで。奢ったる」
 
 俺が自販機を指し示すと、ヘラルドが目を丸くした。
 
自販機ここで飲み物を買った事がないから、わからない」
「あっそ。じゃあ俺のおすすめでいい?」

 俺は自販機に、有事に備えて取っておいたなけなしのコインを投入すると、『なし牛乳』と書かれた紙パックの真下にあるボタンを押した。
 これで、今月の俺が自由に使える金が完全にゼロになった。

 近くの階段に座りこんでいるヘラルドに、先ほど買った『なし牛乳』を渡す。
 
「ほい」
「……これ、飲めるのか?」
「俺が何回か飲んでて今生きてるんだから、大丈夫だと思うよ」

 ヘラルドは疑いの眼差しを『なし牛乳』に注ぎながら、ストローを紙パックに挿した。
 そして一口飲むと「おいし……」と驚いた声を上げて、再度、紙パックを見つめた。

「うまいっしょ、それ。
「……しゃくに障る呼び方だな、このハゲ」
「だろうね。俺もよく『』って言われてたから、わかるよ。
 あ、さらさって俺の姉……お前んちで言うところのエドワードみたいな感じ。
 出来のいい兄弟を持つと、色々と比べられたり……お前も覚えがあるんじゃないか?
 出来ない事に対して怒られているうちはまだいいんだけど、同じ水準を勝手に期待されて、それがクリア出来ないと幻滅されてさ。
 次第に関心すら持たれなくなって……つらいよな。

 『エドワードの弟』じゃなくて、ヘラルドはヘラルドなのにさ。

 ……って、自分で言ってて意味わかんなくなってきた!その前に勘違いだったらごめ――」


 ヘラルドを見ると、下唇を噛んで、両目いっぱいに涙を浮かべていた。




 
 
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