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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話
5 保健室のミントグリーン
しおりを挟む「右手は使えないだろうから、左手でしっかり捕まっててくれよ」
「ハイィ(泣)」
結局俺は、泣く泣くおんぶを選んだ。
「おんぶして、連れて行って……ください、」
抱っことペロペロよりはマシだと思ったからだ。
悔しさと気持ち悪さで吐きそうになりながらも声を絞り出すと、奴は満足げに白い歯を見せて笑い、顔の左横側に表示されているハートのゲージがほんのり赤く色づいたかと思うと、巨大な字幕付きの付箋?と共にふっと消えた。
選択終了すると消える仕様なのね。
あとハートのゲージは好感度に比例しているんだろうか。だとしたらさっきの選択で、あいつの俺に対する好感度、上がったん? うわあ……。
呪いのような強制力のあるクソ選択肢のお陰で、俺は今、件の変態男におんぶをされている。
怪我したのは手だから歩けるし、学校の生徒だろうか、俺と同じ服を着てるギャラリーも増えてきたし、で、鋭い視線と生暖かい視線を半々くらいで浴びてるし……。誰か、今だけでいいから俺に子泣きジジィの能力を授けてくれないかな?
暫くすると、俺はついに子泣きジジィの能力に目覚める事のないまま、変態男と共に『保健室』に到着したようだった。
何故ここが保健室だと判ったかというと、室名札に『ホケンシツ』と異国語で書かれているのが、脳内で勝手にカタカナに変換されて読めたからだ。
さっきの字幕は漢字やカタカナも混ざった日本語だったけど、これは日本語じゃないんだな。
変態男がドアをノックして「失礼します」と声を掛けると、
「はい、どうぞ」
ドアの向こうから優しげなイケボが聞こえてきた。
変態男におんぶされたまま中に入ると、そこにはミントグリーン色の長髪をサイドに束ね、医者みたいな白衣を着た保険医っぽい眼鏡の男が机に向かっていた。
「今日はどうしましたか?」
男が顔を上げてふわりと笑うと、先ほどとは少し色が違う、既視感のあるキラキラエフェクトが見えた。
あ、こいつも関わったらいけない奴だ。
髪の色派手だし、背景がキラキラしてるし、間違いない。
「ヘンリー先生、先ほど彼とぶつかって怪我をさせてしまいました。彼の右手を診てやって下さい」
俺はやっと変態男によるおんぶ地獄から解放されると、右手を差し出すように促された。
今は痛みを感じないが、応急処置と言われていたし、このヘンリー先生とかいう保険医に治してもらった方がいいんだろう。
保険医は俺の右手を見ると、
「綺麗に止血されていますけど、酷い切創ですね。
……エドワード君、これは君がやったのですか?」
眉間に皺を寄せて、変態男に視線を移した。
そうです‼︎
と声を大にして言ってやりたかったが、俺がこいつに故意に傷つけられた記憶はない。それにこいつは自称王太子だ。発言次第では俺が粛清されるかもしれないから、ここはひとつ、最大限に奴を庇っとこう。
「これは、」
「俺が王太子サマとぶつかって、すっ転んだ拍子に手に持ってた瓶を割っちゃって、それが刺さってこうなったんです。
むしろこの人が怪我した手と、……あと、頭のタンコブの応急処置をしてくれたんですよ」
変態男と話が被っちゃったけど……ここまでフォローすれば、流石に粛清されないよね?
「このハゲ……」
変態男がなぜか頬を染めながら、俺を罵倒した。
……いや、俺の名前を言っただけだった。奴にとっての俺は、『このハゲ』なのだ。
「そうでしたか」
保険医は俺の発言をカルテのようなものに書き留めると、
「ではエドワード君、付き添いありがとうございました。君はもう教室に戻って下さい」
と言って、エドワードに軽く頭を下げた。
「しかし……」
「君には生徒会長としての仕事もありましたよね、そちらはもう片付いたのですか?」
二人の会話の内容からすると、変態男は生徒会長でもあるらしい。
奴は拳をぐっと握りしめると、
「わかりました……。では、失礼します」
と言って、苦々しい表情で保健室を後にした。
変態男がログアウトしたのはいいが、保健室には俺と保険医の二人きりになった。
保険医もおそらく攻略対象である以上、状況が好転したのか悪化したのか、全くわからない。
保険医は俺の手を包み込むように握ると、こう言った。
「では、治療を始めてみましょうか」
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