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笑ってしまう(リズ視点)
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「この服似合う?」
その角のファッションショップではグレーのジャケットを試着して俺に見せてくれた
大きめのジャケットは男にはブカブカで似合わないと言えば不貞腐れ、代わりに着た俺が似合いすぎていてぶつくさ文句を言われた。
道行く女達が俺を見て騒いでいるのを横目に男は不意に腕を絡ませてきて…
嫌だった俺は手を振り払っていた。
男は少し顔を歪めたが、すぐに何時もの顔に戻っていたから気にしなかった。
それから…あのDVDショップだ…
お互いアクション映画が好きだったからよく観にきていた。
店のテレビでたまに予告編なんかを流していて面白そうだな、と話していたものだった。
アクション映画でよくある男と女のラブシーンを真似て誰にも見えない死角の棚でキスをしたこともある
それが2人でした初めてキスだったかもしれない。
初キスは嫌ではなかった
寧ろ心地良くずっとしていたいと…そう思うくらい愛しいもので。
「会いたい…」
自然と口からこぼれた言葉
言うと気持ちが止まらなかった
「あいつに、会いたい…」
俺の運命の相手
死んでしまった…俺だけの運命の相手
居なければ死んでも会いに行くってのも噂だけじゃないらしい。
こんなに苦しいのなら死んだ方がマシな気がした。
脳裏に浮かぶ男の笑顔に会いたい…
好きだ…好きだ…
あいつが好きなのに…
「何故、会えないんだ…」
通りの激しい交差点をゆっくり歩き、渡りきった先…大手電機メーカー店内の大きな薄型テレビがふと目について
昼間のニュース番組を放送しているテレビには見知らぬ女キャスターが真剣な顔で原稿を読み上げていた
『~の事件に尽きましては、被害者である看護士が轢かれたことが…』
映った愛しい男の顔に足が止まった。
数ヶ月前の事件をまたやっていることに疑問を抱きながら見つめる
『…とのことです。どうやら看護士の男のお腹には子供が居たようですが、事故により亡くなってしまったとのことで…』
「……は?」
思わずそんな声を出したのは全く知らされていなかったからだ。
「子供?…あいつ妊娠、していた、のか?」
呟くように出した声は微かに震えていた
男は全く言ってくれなかった
まさか赤ちゃんがいるなんて…
「…何故、伝えてくれなかったんだ…?」
そんなに嫌だったのか、俺との子供が…。
そんなに…
愕然とした
知らされていなかった。
まさかそこまで俺が嫌われていたなんて…
「リズ、君との赤ちゃんが出来たらどうする?」
声がする。
…男の…随分前に話した話題だったことを思い出した
仕事があって急いでいた時の話。
「いるのか?」
「例え話、だよ」
煩わしいと思いながらも答えた俺
「じゃあ、いう。不要だ。」
「…」
黙ってしまった男は悲痛な顔をしていた
「俺はお前との間に子供なんて望んでいない。ただの運命の相手というだけで十分だと思っているからな。従って、不要。…下らない例え話だな」
あれは…きっと子供がいたんだろうな
たとえ話を言ってきたのは俺の反応が怖かったから。
そして俺からの答えは…。
「そうか…悪いのは、俺、か」
だから教えてくれなかった…
子供がいること…
そして事故で子供が死んで1人できっと考え込んでいたんだろうな
「…最低、…だな」
自分、が。
『…容疑者は…刑務所を移動し…』
数秒。
不意に事件が移り変わり、とある男の顔が映った。
平凡な…優しそうな顔をした男だが、子供を殺した…許せないことをした…憎い奴…
「…ああ、そうだ。こいつ…が。こいつさえ…」
キャスターが伝える。
男は刑務所を移動する…、と。
こいつさえ居なければ、あいつはずっと俺のとなりにいてくれたのに。俺とあいつの子供は死なずに済んだのに。こいつさえいなければ…
ああ、憎い。憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い!
「…全てを奪いやがって」
あいつが死んだのは…このジェンって奴の所為なんだ。こいつが居なければ全てうまくいっていたんだ。
なぁ、そうだろ…?
「…殺してやる…」
護身用に持っている小型の銃に触れた。
お前を、俺を陥れたんだ。これくらい許されるだろ?
ニュースで告げていた刑務所に着いた。
男は報道陣に囲まれていた。
無表情をしたジェンという男は何も言わずに道を歩いていく
道路には黒い車が止まっておりジェンはあれに乗っていくつもりなんだろう。
「…」
報道陣が煩い。
騒がしい。
離れた草むらから銃を構えながら舌打ちした
「…」
報道陣が中々邪魔で仕方ない
ギリギリ歯軋りしながらもジェンから目標を変えなかった
そしてジェンが車に乗り込む、瞬間
「…死ね」
パンッ
小さな銃から弾け飛んだ弾は凄い速さでジェンの頭を打ち抜いた
ジェンがゆっくりとした動作で倒れる
飛び散った血が報道陣にかかり女達が悲鳴を上げた
ドサリ、ジェンが地面にたたき落ちると周りはパニックになり、悲鳴が響く。
中には冷静な奴もおり銃声の元を探すものもいたが。
銃先に煙が立ち上るのをただ見た。
笑みがこぼれる
「あぁ」
俺は笑った。
これでいいんだよな
これで…なぁ…
「…お前なら許してくれるだろ?」
お前の敵はいなくなったんだ。
子供を殺した奴がいなくなったんだ
これで俺に会ってくれるだろう?
許してくれるだろう?
「く、ははは…」
思わず出た声。
ああ、早く会いたい。あいつがきっと待っていてくれる。
俺を笑顔で…仕方ないといわん優しい顔で。
俺は自身の眉間に銃を向け、笑う。
「会いたい…愛してる…もうずっと離さない」
パァン。
その角のファッションショップではグレーのジャケットを試着して俺に見せてくれた
大きめのジャケットは男にはブカブカで似合わないと言えば不貞腐れ、代わりに着た俺が似合いすぎていてぶつくさ文句を言われた。
道行く女達が俺を見て騒いでいるのを横目に男は不意に腕を絡ませてきて…
嫌だった俺は手を振り払っていた。
男は少し顔を歪めたが、すぐに何時もの顔に戻っていたから気にしなかった。
それから…あのDVDショップだ…
お互いアクション映画が好きだったからよく観にきていた。
店のテレビでたまに予告編なんかを流していて面白そうだな、と話していたものだった。
アクション映画でよくある男と女のラブシーンを真似て誰にも見えない死角の棚でキスをしたこともある
それが2人でした初めてキスだったかもしれない。
初キスは嫌ではなかった
寧ろ心地良くずっとしていたいと…そう思うくらい愛しいもので。
「会いたい…」
自然と口からこぼれた言葉
言うと気持ちが止まらなかった
「あいつに、会いたい…」
俺の運命の相手
死んでしまった…俺だけの運命の相手
居なければ死んでも会いに行くってのも噂だけじゃないらしい。
こんなに苦しいのなら死んだ方がマシな気がした。
脳裏に浮かぶ男の笑顔に会いたい…
好きだ…好きだ…
あいつが好きなのに…
「何故、会えないんだ…」
通りの激しい交差点をゆっくり歩き、渡りきった先…大手電機メーカー店内の大きな薄型テレビがふと目について
昼間のニュース番組を放送しているテレビには見知らぬ女キャスターが真剣な顔で原稿を読み上げていた
『~の事件に尽きましては、被害者である看護士が轢かれたことが…』
映った愛しい男の顔に足が止まった。
数ヶ月前の事件をまたやっていることに疑問を抱きながら見つめる
『…とのことです。どうやら看護士の男のお腹には子供が居たようですが、事故により亡くなってしまったとのことで…』
「……は?」
思わずそんな声を出したのは全く知らされていなかったからだ。
「子供?…あいつ妊娠、していた、のか?」
呟くように出した声は微かに震えていた
男は全く言ってくれなかった
まさか赤ちゃんがいるなんて…
「…何故、伝えてくれなかったんだ…?」
そんなに嫌だったのか、俺との子供が…。
そんなに…
愕然とした
知らされていなかった。
まさかそこまで俺が嫌われていたなんて…
「リズ、君との赤ちゃんが出来たらどうする?」
声がする。
…男の…随分前に話した話題だったことを思い出した
仕事があって急いでいた時の話。
「いるのか?」
「例え話、だよ」
煩わしいと思いながらも答えた俺
「じゃあ、いう。不要だ。」
「…」
黙ってしまった男は悲痛な顔をしていた
「俺はお前との間に子供なんて望んでいない。ただの運命の相手というだけで十分だと思っているからな。従って、不要。…下らない例え話だな」
あれは…きっと子供がいたんだろうな
たとえ話を言ってきたのは俺の反応が怖かったから。
そして俺からの答えは…。
「そうか…悪いのは、俺、か」
だから教えてくれなかった…
子供がいること…
そして事故で子供が死んで1人できっと考え込んでいたんだろうな
「…最低、…だな」
自分、が。
『…容疑者は…刑務所を移動し…』
数秒。
不意に事件が移り変わり、とある男の顔が映った。
平凡な…優しそうな顔をした男だが、子供を殺した…許せないことをした…憎い奴…
「…ああ、そうだ。こいつ…が。こいつさえ…」
キャスターが伝える。
男は刑務所を移動する…、と。
こいつさえ居なければ、あいつはずっと俺のとなりにいてくれたのに。俺とあいつの子供は死なずに済んだのに。こいつさえいなければ…
ああ、憎い。憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い!
「…全てを奪いやがって」
あいつが死んだのは…このジェンって奴の所為なんだ。こいつが居なければ全てうまくいっていたんだ。
なぁ、そうだろ…?
「…殺してやる…」
護身用に持っている小型の銃に触れた。
お前を、俺を陥れたんだ。これくらい許されるだろ?
ニュースで告げていた刑務所に着いた。
男は報道陣に囲まれていた。
無表情をしたジェンという男は何も言わずに道を歩いていく
道路には黒い車が止まっておりジェンはあれに乗っていくつもりなんだろう。
「…」
報道陣が煩い。
騒がしい。
離れた草むらから銃を構えながら舌打ちした
「…」
報道陣が中々邪魔で仕方ない
ギリギリ歯軋りしながらもジェンから目標を変えなかった
そしてジェンが車に乗り込む、瞬間
「…死ね」
パンッ
小さな銃から弾け飛んだ弾は凄い速さでジェンの頭を打ち抜いた
ジェンがゆっくりとした動作で倒れる
飛び散った血が報道陣にかかり女達が悲鳴を上げた
ドサリ、ジェンが地面にたたき落ちると周りはパニックになり、悲鳴が響く。
中には冷静な奴もおり銃声の元を探すものもいたが。
銃先に煙が立ち上るのをただ見た。
笑みがこぼれる
「あぁ」
俺は笑った。
これでいいんだよな
これで…なぁ…
「…お前なら許してくれるだろ?」
お前の敵はいなくなったんだ。
子供を殺した奴がいなくなったんだ
これで俺に会ってくれるだろう?
許してくれるだろう?
「く、ははは…」
思わず出た声。
ああ、早く会いたい。あいつがきっと待っていてくれる。
俺を笑顔で…仕方ないといわん優しい顔で。
俺は自身の眉間に銃を向け、笑う。
「会いたい…愛してる…もうずっと離さない」
パァン。
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