運命の相手

黒猫鈴

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消えてしまいたい

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看護士一年目のネイルは廊下を足早に歩く。
圧底の靴は歩く度にカツカツと音を立てている。
周りを歩く患者は時折迷惑そうに彼女を見るけれどネイルは特に気にしなかった。
目的の部屋についたのかネイルはノックをして横引きの扉を開いた

「巡視です。失礼しますね…調子は…」

ネイルの言葉が切れたのはベッドにいる筈の患者のカーテンが血塗れだった為だ。

「…あ、あぁ」

震える手でカーテンを開けると、カーテンを濡らした主がベッドを血で染め上げている。
見てわかる。致死量の血が流れており、患者の顔色も死人のそれ。
患者の手にあるナイフは血で濡れ、多分自殺したものだとわかる。

一年目の看護士として、考えを巡らせるも分からないことだらけで…ネイルは急いでナースコールを押した。

どうしました?と上司である看護士の声がした所でネイルは声を上げる

「208号室の患者が…!」








「っち」

舌打ちがもれた。
これも全部あいつの所為だ
事故の知らせを聞いて仕事を途中にして行ってみればキブスは巻いているものの元気そうだった。
大切な仕事の最中だったのに、ともう一度舌打ちし病院前に停められた高級車に乗り込んだ。
俺が乗り込むと同時に運転手が車を出す。
仕事の次の予定確認の為に携帯を出し秘書に電話を掛ける
プルル、と呼び出し音を聞きながら遠くなる病院を眺める

プチ、

電話の呼び出し音が切れた。
と同時に何か…別なものも切れた気がした。
何か…大切なものが。

ポッカリ、何かが無くなった穴が出来た…気がした。

「社長、どうしましたか?」

優秀な秘書の声が耳から抜けていく。
わからない…
ただ何かよくないことが起こった。

息が苦しくなった。
でも死ぬほどではなく、精神的なもの。
大切な何かを無くして…生きていけないと心が叫び声を上げていた。


「っ」

画面を見れば非通知から電話があり、秘書の心配そうな声を切り非通知に切り替えた。

それは先程までいた病院からで

「…死、んだ?…自殺…?」

あいつが?
死んだ?自殺した?
わからない。
…何故?
何故?
何故自殺した?

なぜおれをおいていった?


俺を、見限ったのか?

喪失感にぎゅう、と胸が酷く痛む
はっ、笑おうとした唇は下がった
スルリと携帯が手から落ちても気にせず、俺は背もたれに寄りかかった。

「…運命の、相手…」

一生で出会えることが稀な存在…
それなのになんの偶然か、出会ってしまった俺は、それが至極当たり前のように思っていたのだ。

なんて傲慢な…

「なぁ…」

運命の相手が突然いなくなったら…どうしたらいいんだ?

「なぁ…」

誰か教えてくれ

胸が酷く傷んで、視界が涙で歪んだ
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