運命の相手

黒猫鈴

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消えてしまいたい

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「調子はどうですか?」

僕が聞けば男はとてもいいですよ、と愛おしいという表情をして大きなお腹を撫でている
その表情は本当に幸せそうで…。

僕はそれを羨ましく思うと同時に妬ましく思ってしまう。
僕も運命の相手がいるのに…何故こんなにも違うのか。

元々同性同士の妊娠は非常に難しい
セックスをしても妊娠する確率は2割を満たない。
同性の運命の相手と結ばれるも妊娠の可能性は低いのが現状だ。
だからリズとのセックスで…避妊道具をつけていなくても僕は妊娠しないのだろう。
別に子供がほしいとは思わないけれど、形がほしいだけ。
愛されている証みたいなものが。

そしたら、この人みたいに幸せな顔を出来るだろうか。

「何処に……、おい、ハカリ!」

大きな声がしたので2人して振り返ると面前の男…ハカリの運命の相手…ヨシュがいた。
ヨシュは背が高く、短い髪の毛にパーマがきいた黒人な出で立ち。
風貌は強面だが優しい男でハカリが大好きな裏切られる性格をしていた。

「ヨシュ、病院だから静かに」
ハカリが注意するとヨシュが口を手で覆い困ったように眉を下げた

「ハカリすまない…ああ、看護士さんもすみませんでした」
「いいえ、大丈夫ですよ。ハカリさんが病室にいなくて心配したんですよね」

笑みを浮かべた僕に苦笑いをしたヨシュはさり気なくハカリの隣にいき腰を抱く
妊娠中、お腹の重り故腰を痛くする者も少なくない。
その負担を減らすためのことだろう。
何気のない優しさにハカリは嬉しそうに笑った。

「ありがとう、ヨシュ」
「いや、少しでも手助けをしたいから」
「助かるよ、嬉しい」

2人が微笑みあい、頭を下げ病室へと戻っていくのをただ見つめる

あぁ、なんて幸せそうなんだろうか
いいなぁ、いいなぁ、と心が叫ぶ。
心中で叫んだところで、リズを独り占め出来るわけではないけれど。
大抵の運命の相手は出会った瞬間に惹かれあい愛し合う
運命の相手じゃなきゃならないという具合に、相手しか愛せなくなるのが普通なのに昔からの幼なじみだから、そんな感情はリズにはないのかもしれない。

でも時々愛してほしい、僕だけ好きだと言ってほしいときだってあるのだ…。
体だけの関係だけじゃなくて。

「ぅ…」

どうしよう気持ち悪い
頭の中にいきなり流れてきた感情の嵐に参ったのだろうか。
口元を押さえ近くにあったトイレに駆け込む

便器中に液体を吐いた。





「おめでとうございます」

言われまさかとお腹に手を置いた
まさか…

「妊娠してますよ」

本当に?
本当に、妊娠を?


気持ち悪い、体調不良が落ち着かず、仕事を途中に帰宅。冗談混じりに寄った産婦人科で妊娠の告知を受けた。
優しそうに医師の好々爺は笑っており、信じられずもう一度聞き返した


「…いる、んですか?」
「勿論ですよ、おめでとうございます」
「そう…ですか」


どうしよう
嬉しい
お腹を撫でる手が優しくなる
まだ大きくないこのお腹に僕達の子がいるなんて、甚だ信じられないけれど。


…リズに言ったらなんて言うだろうか。
喜んでくれるだろうか。
幸せだと言ってくれるだろうか。
僕との愛の形を認めてくれるだろうか。

「…子供…か」

お腹を撫でる。
きっと、認めてくれる…そうだろう?



急ぎ足で自宅を目指す。
早く、早く報告したい。
赤ちゃんがいる、知ってくれたらきっと僕だけを愛してくれるかもしれない。

交差点の信号が点滅し、歩行者の信号が青になる途端に歩き始める人の波に並んで歩く。
今日知ったお腹の存在を守るように背を丸めながら歩いた。
沢山の人に押されそうになりながら、渡りきると人々が好きな場所へと動き出し疎らになる。
疎らの人々を足早に追い越し自宅まで急いだ。



見知った家の前。
リズは帰ってきているだろうか
社長という特殊な職についているリズは日々を忙しそうにしている。
いつ何時も仕事中なのだ。

まぁ女に会っている場合もあるみたいだけれど。

「ただいま」

開いていた玄関扉を開き言う。
奥から物音とリズの声。

「おかえり」

そう忙しそうな声だけど聞こえ、口元が上がる。
靴をそろえ上がり、リビングを覗くと難しそうな顔で電話しているリズがいた。
仕事の電話だろうか。

何時もは邪魔しないように自室に戻るなりキッチンに入るなりするんだけれど今日は聞きたいことがあったので大人しくリズの近くに座る
電話相手のことで気に入らないことがあったのか口調が荒くなるリズを眺めた
暫くの間そうしていると不意にリズが目だけを此方に向け

は・や・かっ・た・な

口パクで言う
口の動きを見切った僕は「まぁ、…電話の後少し良い?」と小声で言う

用事があると分かったリズは要件だけを述べ、手早く電話を切ると、いつものだらしさは何処へやらスーツを決め、

「なんだ?俺は今から出掛ける」
「ああ、うん。少しだけでいいから…」
「?、ああ」

リズがネクタイをいじりながら僕を見つめる
僕は息を吐き出し、何と言っていいか考えた。

最初は冗談っぽく言ってみようか
リズの反応が気になる。

「…もし、僕に、」
「……もし?例えの話か?」
「うん。…リズ、君との赤ちゃんが出来たらどうする?」
「いるのか?」
「例え話、だよ」

リズは、そうか、と言って立ち上がる
それに合わせ僕の目線も自然と上に向く

「じゃあ、いう。不要だ。」
「…」
「俺はお前との間に子供なんて望んでいない。ただの運命の相手というだけで十分だ。運命に従ってセックスしてればいい話だろ…下らない例え話だな」
「…あ、ああ、うん、下らない話して悪かったよ…邪魔して悪かった」
「…もう行って良いか、大事な会議がある」
「ああ…いってらっしゃい、気をつけて」

にこり、笑みを向けるけどその前に玄関へと行ってしまったリズには、この顔はバレていないだろう。
こんな酷い顔、バレたら笑われてしまう。



「…いらないんだってさ、君」
先程まで愛おしいと撫でていたお腹の存在に言う。

「僕もそのうち彼からいらないって言われるのかな…」

だとしたら、悲しい…
すごく悲しい…

笑みが消えた気がしてお腹を守るように抱き締めた
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