上 下
13 / 44

第十三話 僕と彼

しおりを挟む
 話を聞いたのは、真部との模擬戦の後だった。王城で働いているメイドがこんな噂を教えてくれた。なんでも夜遅く裏庭に白い靄をまとった目が禍々しいほど赤く光る不気味な姿をした亡霊が出るというものである。
 裏庭では昔、貴族の死刑が行われていたそうで、その亡霊が今になって現世に現れたとのことだった。

 その噂のことはクラスのほとんどが知っており、女子の中では娯楽の一環として裏庭に行き、そこで確かに噂の亡霊を見たと言っている。しかもその亡霊は「違う違う」と喋っていた。もしかしたら本当に貴族の亡霊で未練を残し成仏じゃないかと噂ばかりが大きくなる。

 そこで白羽の矢が立ったのが僕だった。
 僕は皆が寝静まった夜中に、こうして薄暗い裏庭に足を運んでいる。しばらく待ってみるが、一向に亡霊が現れる気配がない。
 そろそろ帰ろうと歩き出すと裏庭の奥から気配を感じ、剣に手をかける。目を凝らし相手が、光の当たる所まで近づくとそこには目立つ銀髪の髪の少女がいた。

「アリアさん・・・・驚かさないでください。ところでなんでこんなところに居たんですか?」

「散歩中」

 相変わらずアリアさんは淡白に答える。しかしこれで噂の正体が判明した。亡霊でもなんでもなくただアリアさんの銀髪の髪が、月明かりに照らされ輝きそれを亡霊だと勘違いした。
だが一つ引っかかるのは赤い目というところである。アリアさんの目は透き通るほど青いきれいな目だ。
 とても禍々しい赤い目に見間違えるとは思えない。だが時に恐怖は勘違いをさせるものだと思い考えるのをやめた。

 次の日、皆には亡霊はいたが害はないと言っておいたが、残念ながら噂は治まらず、遂にはその亡霊は剣を持っておりメイドの一人が襲われたとよくわからない尾ひれまで付き始めた。
 というわけでまた別の日に今度は退治のために裏庭に行かなければならなくなった。だがやることは簡単でアリアさんにここを散歩コースから外してもらうだけで済むのだ。

 裏庭へ行くとメイドたちが言っていた白い靄と確かに赤い目が見えた。それは明らかにアリアさんとは別の気配だった。しかも剣を構えている。
 僕はそれに気が付くと剣を構え、気づかれないうちに退治しようとした。すると何かに引っ張られ建物の影に連れ込まれてしまった。
 僕は剣を構え直し、引っ張った張本人を見た。今度こそアリアさんがいた。アリアさんは口元に人差し指を当て、声を出さないように俺に言う。

 物陰から裏庭を見るとちょうど月明かりが裏庭を照らしていた。そこにいたのは真部だった。
 メイドが勘違いした白い靄とは剣に付魔(エンチャント)を付けた剣のことで、赤い目は彼の茶色い目が白い靄と重なり赤く見えたのだと思った。
 真部が剣を構えている先には、訓練で使う人型の木の人形が立っており離れた位置から剣を振る。すると剣から飛ぶ斬撃(スラッシュ)が飛び出し人形に命中する。

 アリアさんの顔は日ごろ動くことはない。クラスの中でも彼女は笑わない、表情筋が死んでいるなど、その無表情さは有名だ。だが今こうして隠れて彼を見ている表情は、口角が上がり笑っているように見えた。
 以前彼女がここにいたのは恐らく彼の秘密の特訓を影から見るためなのだろう。

 僕は手の平に爪が食い込むほど力強く握った。もちろん自分も飛ぶ斬撃(スラッシュ)はできる。彼よりも高威力なのを出している自信はあるが、この悔しさは何だろうか。
 彼に負けてから毎日のように鍛錬を続けている。最近では必殺技の開発にも力を入れている。劣っているところはないはずなのにあの時以上の敗北感が僕の中に広がる。

「僕は彼に勝てるでしょうか?」

 無意識に出た声に驚き、手で口を塞ぐ。アリアさんは何もかも見透かしたような青い瞳で僕を見る。
 何も言わないでくれ・・・・。
 その答えが怖く、僕は目を瞑ってしまった。ただ彼が時より振る剣の音しかしない。アリアさんは俺の意を汲んでくれたのか答えない。

 亡霊騒動の原因である彼には、彼女が事情を伝えてくれるそうでその日は部屋に戻った。部屋に着くと腰に着けている剣を床に叩きつける。ガシャンと大きな音が鳴る。
 その際鞘から少し剣が抜ける。日頃の鍛錬の所為であっちこっちに傷や凹みがあり、柄は白いものだったが、今では少し黄ばんでいる。
 自分も勇者としてこの世界に来てから人一倍努力してきた自信もある。毎日のように誰も起きてないような朝早くから剣を振り、魔力を操る訓練も欠かしたことはない。

 だが負けた。勇者でもましてや剣士でもない彼に本気で挑んで負けた。あの時彼は僕がスキルを使ってないと言ったが、僕はスキルを使っていた。
 僕のスキルは一つが常時発動型で、もう一つが戦闘開始と同時に発動するものだ。常時型はスキルを止めることはできないが、もう一つのスキルは別だ。僕は明確な意思でそのスキルを使っていた。
 それは時間経過とともに自身の防御が上がるものだ。今の彼の攻撃なら五分もしないうちに盾で受けた衝撃も僕への直接的な攻撃も何もかも効かなくなる。

 それでもあの場ですぐにトドメを刺さなかったのは、力の差を見せつけたかったからだ。彼を突き放したかった。あの目が、僕の目を見て来るあの目を少しでも反らすために。

 けれど結果はスキルを使ってない彼にスキルを使った僕は負けた。

 僕はベッドに倒れ込み目を瞑る。瞼には彼が剣を構え振る姿、僕の剣を弾いた時の姿がこびりついてた。
かっこいい・・・・。
 繰り返されるその姿にこう思ったとき、頬に熱い何かが流れた感覚があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

処理中です...