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第六話 野外訓練

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 ガテンさんのところに通い始めて半月が過ぎたころ、訓練中に珍しく全員集められ野外訓練についての説明があった。
 内容は二泊三日で王都近くにあるクゼの森と呼ばれるところに行き、実際に魔物を相手に戦うというものだ。もちろん訓練には騎士団が護衛として付くのでそこまで危険性は高くない。実施は今から二週間後とのことだった。最後にジルバルさんが全員に呼び掛けた。

「この訓練は今までの訓練と違い相手は魔物だ。やつらは本気で命を狙ってくる。この二週間で十分に準備をしておくように」

 とのことだった。
 その日も訓練の終わりにガテンさんのところに行き、俺は二週間後の三日間来ないことを伝えるとやや悲しげな顔になり一言「気を付けろよ」と言われ魔法の布袋を渡された。効果は袋の大きさ以上に物が入ることと中のものが腐りにくいといったものだ。
 それから二週間は訓練への準備をした。まずは情報収集。店に来た冒険者にクゼの森に出る魔物や生えている植物、気を付けるべきことなどできる限りの情報を集めた。

 次にアイテムを考えた。近場とは言えアイテムも持っていくものは限られる。
 とりあえず市場で買った回復薬と砥石、ハンマーを入れ予備武器として鉄の片手剣を入れておくことにした。

 そして二週間が経ち馬車に乗ってクゼの森へ向かった。馬車の中には八人ずつに分かれ計六台の馬車がクゼの森へと向かった。当然馬車の雰囲気俺がいる所為で最悪。馬車の中では誰一人として喋ることはなかった。
 二時間ほど馬車に揺られクゼの森についた。

「今から三〇分後森に入る。各自準備を行うように」

 ジルバルさんの号令で全員がそれぞれ装備を着用し始めた。それに合わせ俺も装備を付ける。

鉄の短剣
「攻撃力」20/20 「耐久度」66/66
「重量」4
「特殊効果」なし
鉄の小盾
「防御力」35/35 「耐久度」50/50
「重量」4
「特殊効果」なし
支給された皮の防具
「防御力」29/29 「耐久度」100/100
「重量」3
「特殊効果」なし

 選んだ武器はここ数か月訓練で慣れている短剣で攻撃力が低いが耐久度の高いものを選んだ。装備はガテンさんのところに通い始めたころ短剣を持ってきた冒険者を参考にし、なるべく軽い装備で防御力を上げてくれるものを重点的に選んだ。
 準備が完了するといよいよ森の中へと入って行った。
 俺のパーティーの構成は前衛二人、後衛二人、回復担当一人、鍛冶師一人計六人に騎士団から一人護衛で入っている。
森の中は木々が生い茂り、そのせいで日光が入らず薄暗い。さらに一昨日の雨の所為か地面もぬかるんでおり最悪のコンディションと言えるだろう。

「・・・大丈夫かな?」

眼鏡をかけた三つ編みの女子が一言呟いた。彼女は東方桜(とうほうさくら)。俺と同じクラスの隅にいるのが落ち着くタイプの娘だ。そして桐山の一言で戦う側になってしまった娘でもある。

「東方さん、大丈夫ですか?」

「・・・・」

・・・・無視された。

 俺はガテンさんに鍛冶を習っているとはいえ、現状それをみんなの前で見せておらず、俺の立ち位置は以前変わらないと言いたいが、時間が問題を解決してくれることはなく悪化しているばかりである。
 そのため俺から話しかけようものなら無視を決められるか、舌打ちをされるかの危機的状況である。

 ガサ、奥の方で草が動く音と同時に前衛の二人が武器を構えた。後衛もいつでも魔法を撃てるように準備をしている。草むらから出てきたのは角の生えた兎だった。
 それを見て一瞬パーティーの緊張が途切れた。その瞬間兎は、その脚力をフルに生かし小学校の頃に飼育していた兎とは比べ物にならないほど飛び上がり前衛の一人の肩に角を突き刺した。
 角は肩にしっかりと刺さっており、刺された前衛は兎を捕まえようとするが、兎は両足で前衛の肩を蹴り、角を抜き離れた。兎は前衛に向かって威嚇するように叫ぶ。声は小動物らしく小さいものだがその目にはしっかりと殺気が籠っている。

 その瞬間パーティー全体は恐怖に染まり、前衛は尻もちをついて動かなくなり、後衛は魔法を乱射してしまい状況は最悪。護衛の人が落ち着くように呼び掛けるが全く聞こえていない。
 兎は乱射される魔法の間をうまく避け、徐々に距離を詰めて来る。さっきと同様に頭の角を東方さんに刺そうと飛び掛かった。俺はその間に割り込み装備していた小盾を構え防いだ。
 兎は一歩下がり俺に対して威嚇した。しばらくにらみ合い、先に動き出したのは兎だった。攻撃を読まれないように俺の周りを走り回っている。次の瞬間、兎は飛び跳ね必殺の一突きを繰り出した。俺は角が小盾に当たった途端に盾で攻撃を払い、無防備に開いた腹部目掛けて短剣を刺した。ゲームであるジャストガードからのカウンターである。俺たちの初戦はこうして終了した。

「倒した魔物は消えたりしないのか」

 兎の死骸はゲームとは違い消えることなく傷口からは血が出ている。
 俺は生まれてこの方、明確に殺意を持って生物を殺したことはなかった。いざ相手も殺しにかかっていると思うと案外恐怖心は感じなかった。

 俺は兎に手を合わせ血抜きをする。恐らく後ろのクラスメイトには引かれているだろうが、奪った命は奪った本人が責任をもつ必要がある。このまま放置して、もし強い魔物をおびき寄せるよりこっちの方がいい。
 血抜きを終わらせるとガテンさんがくれた袋の中に入れた。
 俺は別にクラス全員のスキルを把握しているわけではないがアイテムボックスを誰かが使っているところを見たことがない。そのため今はまだアイテムボックスの存在を隠しておいた方がいいと判断した。

 刺された前衛の治療を待つ間俺は周辺の探索をしていた。もちろんみんなから見える範囲である。ここで単独行動するほど自分が強いなんて奢っていない。さっきのジャスガもたまたま成功したに過ぎない。もう一回同じ事をしろと言われれば失敗すると確信している。

 周辺を探索するとコリナ草を見つけた。これは回復薬の原材料の一つである。冒険者から聞いていた使える薬草の一つであり、さっきの魔物の情報も冒険者から聞いていた。

 さっきの兎はニードルラビットという魔物で本来は人間に襲い掛かるような魔物ではないという話だったが普通に襲ってきてしかも強かった。これが魔王の復活の予兆として発生している魔物の活性化なのかもしれない。
 五つほどコリナ草を取ると治療が済んだようで再出発することになった。

 初日は五班がそれぞれ別々の場所からスタートし中央の安全地帯まで行くというのが目的だ。時間的には午後二時ぐらいだろうか、当初の目的時間よりもかなり遅れていた。
 それもさっきの戦闘でパーティー全体の腰が引けてしまっている。護衛の騎士も急かすべきか迷っていた。

「もう少し急いだほうがいいじゃないのか?このままじゃ日の入り前に目的地まで着けないぞ」

「うるさい!鍛冶師ごときが口を出すな!」

 ダメだなこりゃあ。警戒しすぎで先のことを考えられなくなっている。

 クゼの森は比較的安全なマップではある。しかしそれは昼間の間だけだ。夜になると木々により月明かりが完全に遮断され真っ暗になる。そうなると魔物の奇襲に気が付かず全滅なんてケースも少なくない。目的となっている場所はヒカリゴケと呼ばれる発光する苔のおかげで夜でもそれなりに明るいとのこと。
 最悪なのは日没までに目的地に着けないことである。ここは無理やりにでも動かす以外方法はない。

「もういいよ。お前ら遅すぎ。俺が先頭になるからお前ら下がってろよ」

「は?鍛冶師ごときが粋がんなよ!」

「その鍛冶師ごときが勝てた魔物に負けたのはどこの誰だよ!」

 その一言にパーティー全体が静まり返った。俺は先頭に立ちその後ろから他のやつらが着いて来ている。
 結局その後魔物に襲われることなく目的地に着いた。その間俺は魔物よりも後ろにいる前衛のやつにいつ刺されないかと気が気ではなかった。
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