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第四話 挽回の方法

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 怒られた次の日から訓練に再度参加するということで話がまとまった。始まる前ジルバルさんが「弁明できずに済まなかった」と謝りに来た。この件についての非は俺にあったためジルバルさんを責める気はない。
 訓練が始まると予想通り訓練に付いていけなかった。体力的にも2週間のブランクがあり武器を短剣に変えたにも関わらず2時間と持たなかった。

「大丈夫?」

 アリアさんが差し出した水筒を受け取り、中の水を飲んだ。水はのどの渇きを潤し体の内から熱を冷ます。

「ありがとうございます」

 礼を言うとアリアさんは俺の顔をじっと見て

「私何処かであなたにあったことなかった?」

 俺はやや驚いた。彼女の性格は何に対しても無機質というか無関心に近いと思っていた。
だが俺はここであることを確信した。小説などでこういうキャラは一度認識してもらわないと個人を個人として認識しない。俗に言う「他のみんなはわからないけど、あなただけは分かるの病」である。
彼女の言う何処かとはおそらくこの訓練のことで俺が思っている夜のベランダのことではない。できる陰キャとは決して勘違いをしないものである。

「以前訓練に出ていたのですが途中で抜けてしまってその時に会いましたよ」

「いやそういう・・・・」

「訓練を再開するぞ」

 と号令がかかり俺は水筒の礼を言い訓練に戻った。

 その日の訓練が終わると俺は倒れ込むようにベッドに寝転んだ。一日訓練に参加して分かったことは時間をかければ訓練に付いていくことはできるが問題はこの俺に対する空気感だ。居心地が悪いなんて生ぬるいものではない。俺に対する視線は日本にいたころのものとは違い嫌悪感に近いものがある。
 これは中学校のあの頃のような孤独感。これはどうにか挽回しなくては・・・

 次の日その日は訓練が休みで各々好きなように過ごしてよい日だった。俺は許可を取り城下町に行くことにした。以外かもしれないが俺たちには給料というか慰謝料みたいなお金が定期的に振り込まれている。日給換算で銀貨二枚程度だ。この世界では銅、銀、金、白金の順で硬貨の価値が上がる。銅が百円程度、銀が一万円程度、金が百万、白金一億と百倍ずつ上がる。つまり俺たちは一日で二万程度稼いでいる。

 しばらく城下町を歩いて、目的の店に入った。看板には『ガテンの武器屋』と書かれていた。中には剣や槍、盾といった武器が置いてある。

「いらっしゃい。お前見ない顔だな。新入りの冒険者か?」

 店の奥からスキンヘッドのまさに職人と言わんばかりのおっさんが出てきた。
 この人が多分ガテンさんだよな。それに冒険者と間違えるということはここによく冒険者が来るのか。

 冒険者、これも講義で習ったものだ。と言ってもほぼラノベの内容と同じだった。ギルドが雇っている者たちの総称で、EからSランクまで存在し様々な依頼をこなすいわゆる何でも屋みたいなものだ。

「いいえ私は冒険者ではありません」

「冒険者じゃないなら何の用でここに来たんだ?」

 俺はにやりと笑い、陰キャというか人間としての尊厳を無くす必殺の一撃を繰り出した。そう土下座である。

「私に鍛冶を教えてください!」

 それは見事な土下座だと自ら自画自賛した。ガテンさんは戸惑ったような様子を見せた。
 そりゃあいきなり来たガキが土下座してきたら俺でも困る。だが俺には今この方法しかない。

「顔を上げろよ。まずは事情を話してくれ」

 ガテンさんの良心に付け込んだようで心が痛むが概ね計画通りに行った。
 俺はある程度の事情を話した。だが流石に訓練をサボってクラスメイトから見捨てられているからその挽回のためとは言えず、皆の役に立ちたいからとアリもしない理由を言った。
 ある映画では嘘を言う時はほんの少し本当を混ぜることと教わったため自分が戦闘面で使い物にならないことは言い、自分が召喚者であることは黙っておいた。こんなお願いしてておこがましいと思っているが見ず知らずのガテンさんを無条件に信じるほどまともな人生を歩んでないのだ。というかまともな人生歩んでたらボッチ陰キャなんてやってない。

「事情は大方理解した。だがもし俺がお前に鍛冶を教えたとして俺に何のメリットがある?」

 来た!ここが最大の正念場!
 もちろん俺を信用できないのはガテンさんも同じでこの提案に利がないと乗ってこないのは分かっていた。そこで    俺が考えたのはコモンスキル『交渉術Ⅰ』を使うことである。
 このスキルはほんの少し交渉がうまくなるというものである。と言っても百円の商品が90円になる程度の効果だ。ズルと言われても言い訳をする気は一切ない。

「ガテンさんは俺に鍛冶を教える。その対価として私は一日に付き銀貨一枚と銅貨三十枚を支払うというのはどうですか」

 どうやら名前は間違えていなかったみたいだな。
 ガテンさんはそのまま腕を組み考えている。
 日本円にして日給一万三千円程度。まず平民の平均日給は約銅貨四十枚。多い日で六十枚程度である。そしておじさんが営んでいる武器屋商品の価格と武器の性能を見たが性能はいいが、価格は銅貨九十枚~銀貨一枚程度。
 つまり俺に教えることで武器を一、二本売ったのと同じ程度のお金が手に入る。さらに収入が不安定な家業を営んでいるガテンさんにとって安定した収入源は利が大きいと思う。
 かなり悩んでいるな。もう一押しか。

「それでは私に教えた際に作った武器は私が買い取ります」

 結果は・・・了承してくれた。交渉術の効果があったかどうかは分からないがこれで鍛冶を学ぶことが出来る。

「それでは詳しい日程ですが・・・」

 その後日程を組んで武器屋を後にした。前金として手持ちの銀貨五枚を置いてきた。
 くくく、俺にかかればこんな交渉朝飯前だぜ。
 なんて息巻いてみたが後に来るのは達成感より罪悪感がデカかった。人の善意に付け込み下に見ているような感覚を交渉中は感じた。
 俺は城に帰る間、暗い気分が拭えることはなかった。
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