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しおりを挟む翌朝もいつも通り5時頃に目覚める。歯磨き洗顔トイレを済ませ、ポーションを作成する。ポーションも大分溜まってきたな。どこかで薬師にポーションの作成を教えてもらわないと売る事もできないしな。何か良い方法を考えよう。
ベルが鳴りドアを開けると、ボーイではない声が隣の部屋の入り口からからかけられた。エレナだ。
「おはようございますタカさん。あの、良ければ朝食もご一緒させていただけませんか?」
上目遣いでモジモジしながら聞いてくる。そんな可愛い顔をされたら断れるはずないだろうに。
「構いませんよ。じゃあ私の部屋に運んでもらいましょう。すいません、お願いします。」
ボーイに頼んで俺の部屋に2人分の朝食を運び込んでもらう。エレナも笑顔でやってきた。
このジャムは美味しいとか、生野菜のサラダが気に入ったとか、取り留めのない話をしながら食べ進める。今日はタッパを出すわけにはいかないので、タップリとパンに塗りつけて食べる。
お腹がいっぱいになったら余ったパンとフルーツを収納し、のんびりとお茶を飲む。
しばらくするとベルが鳴り、ドアを開けるとボーイがギルドからの迎えが来たと伝えてくれた。
エレナに迎えが来たことを伝えると、装備を整えるために一旦自分の部屋に戻って行った。
俺も収納から取り出した装備を身につけて支度する。
部屋を出るとエレナはまだ出ていないようだったので、廊下で待つ。
ほどなくして装備を整えたエレナが出てきた。
使い込まれた革のジャケットとチャップスを身に着け、弓と矢筒を背負い、腰にはショートソードを佩き、大きなヒップバッグを腰に着けている。手にはリリーの入ったバスケットを持っている。
「すいません、お待たせしてしまいました。」
そう言って頭を下げる。革ジャケットのせいで谷間が見れないのが残念だ、なんてね。
「大丈夫ですよ。行きましょう。」
そう声をかけてウォルターと連れ立って歩き出すと、ちょこちょこと後を追うように歩いてくる。ああ、手を繋いでやりたい(笑)。
階段を降りてフロントに鍵を預け、ロビーに向かうとエヴリンさんが待っていた。
「タカさん、エレナさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。うん、こちらも可愛いね。
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。」
「私も、よろしくお願いします。」
挨拶を交わして馬車に乗り込む。今日もエヴリンさんとエレナは盛り上がっていた。
エレナはコーヒーに興味があるらしいが、値段を聞いてビックリしていた。そりゃそうよね。
エヴリンさんが俺と一緒にコーヒーを飲みに行った話を羨ましそうに聞いている。ひと段落ついたら連れて行ってあげよう。
ギルドに着いたらギルドマスターの部屋に直行する。挨拶を交わして練兵場へと向かう。今日はリリーの身体能力の確認だ。
一角ウサギはその角を武器に突進して戦う。前足での引っ掻きや後ろ足の蹴りもある。大きくなればそれなりに戦えるだろうが、今はまだ小さいのでそこまでの攻撃力は無い。
なので、実際にどれくらい意思疎通ができるのか、どれくらい連携が取れるのかの確認だ。
エレナがリリーに指示を出し、リリーがそれに従う。前進、後退、右へ、左へ、伏せて、飛んで、など指示を出し、リリーは全ての指示に正確に従う。声を出さずに念話での指示も確認する。ギルドマスターの言った通りにエレナが念話で指示をしてリリーを従わせる。これも完璧にこなした。
一通り指示と連携が確立しているのを確認して調査は終了する。
「こいつはスゲえ能力だな。特に声を出さずに指示を出せるのが素晴らしい。狩りの時に絶大な力を発揮するぞ。」
ギルドマスターの感心した声にカタリナさんも頷く。
「そうですね。これからもモンスターテイマーが増えれば、冒険者の戦い方が大きく変わるかもしれませんね。従魔に斥候をしてもらったり、獲物を引きつけてもらったり、逆に自分が戦っている時に背後から攻撃させたり、様々な連携が取れます。パーティーメンバーとして引く手数多になるかも知れませんね。」
カタリナさんの言葉にエレナは嬉しそうに微笑んだ。可愛いねぇ。
「よし、お前たちの能力については充分に分かった。後はテイムについてだが、こればっかりは実際に獲物と相対して出来るかどうかを確認しなきゃならんだろう。
タカ、一度従魔契約をしたら解除は出来ないのか?」
ギルドマスターに質問される。
「やったことがないので分かりません。もし解除や再従属ができなかったら困るので、試す事も出来ませんね。」
そう答えるとギルドマスターが渋い顔をする。
「そうだな、タカの言う通りだ。モンスターテイムの技能を持っていて、まだ従魔を従えていない冒険者が現れるのを待つしかないか。」
そう言うとガリガリと頭を掻く。
「アイ、従魔契約は解除できるのかな?」
アイに尋ねる。
「はい、可能です。ですが、一度心を通じ合わせるわけですから、あまり好ましくはないでしょう。」
そりゃそうだよね。
「テイマーの命令で違う人間に従わせる事は可能なのかな?」
「そうですね、この人の命令に従え、という形で指示する事はできますが、あくまでも従魔契約はモンスターテイマーとの間でなされるものです。」
そうか。ならば、例えばエレナに一角鹿みたいな騎乗用の従魔をテイムしてもらうのが一番早いか。
「エレナさん、騎乗用の従魔を従える気はありませんか?」
エレナに尋ねる。
「え?私が騎乗用の従魔を、ですか?」
キョトンとして答える。
「そうです。リリーは大きくなってもあなたを乗せることはできないでしょう?ですから、例えば一角鹿あたりをテイムすれば、騎乗して移動することが出来るようになります。これから狩りなどで森に入るにも随分と便利になりますよ。どうですか?」
そう提案する。エレナは少し考えてから口を開いた。
「そうですね。もし可能なら騎乗用の従魔を従えてみたいと思います。でも私、狩りは出来ますが魔獣との戦闘とかはした事がないのでどうすれば良いか・・・。」
そうね、そうだよね。冒険者になったばかりだもんね。
「では私と一緒に森に入りましょう。私とウォルターで獲物を追い詰めて、エレナさんに従魔契約してもらうんです。それならいけると思います。どうですか?」
そう言うとエレナは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。よし、善は急げだ。早速森に向かう事にしよう。
「ギルドマスター、エレナさんと森に向かいます。上手く従魔を従えて帰ってこれるように祈っててください。」
そう言うとギルドマスターが笑顔になる。
「ああ、分かった。よろしく頼む。」
うし、ちゃっちゃと行ってくるべ。
「エレナさん、私と一緒にウォルターの背に乗ってください。」
そう言ってウォルターの背に跨って手招きする。エレナはおずおずと近寄ってくる。
俺はエレナを強引に引っ張り上げ、俺の前に横座りで座らせた。おそらくエレナは身体強化は持っていない。なので、後ろに乗って俺にしがみついての移動は無理だと判断したのだ。
俺に抱きしめられる形になったエレナは首まで真っ赤になる。でもこうしないと移動できないのよ。
「では行ってきます。ウォルター、頼む。」
ギルドマスターに一礼し、ウォルターを速歩で歩かせる。あまり視線に晒されるのは良くないだろうからね。
北門に辿り着き、衛兵に冒険者タグを渡す。
「今日は魔獣狩りです。仲間も一緒に行動します。」
そう告げると、衛兵はニヤニヤしながらタグを返してくれる。
「おう、頑張って彼女に格好良い所を見せてやんな。気をつけてな。」
この姿勢だとそう誤解されるのも無理はないか。適当に相槌を打っておく。エレナは茹でダコのように真っ赤だ。漫画のように頭から湯気が出そうな感じだ。
街から出る時間が遅かったので、道は空いている。このまま真っ直ぐ森まで走ってもらおう。
「ウォルター、道が空いてるからこのまま真っ直ぐ走って森へ向かって。エレナさんは怖かったら目を瞑っていても構いません。後ろから私が支えますから安心してください。ウォルター、行こう。最初はゆっくり、少しずつスピードを上げて。」
「かしこまりました主。参ります。」
そう言ってウォルターは走り出し、徐々にスピードを上げていく。エレナは俺にしがみついて身を預け、目を固く閉じている。俺はエレナを両手で抱きかかえるようにしながらウォルターに掴まる。うん、役得(笑)。
俺たちはあっという間に畑を通り抜け、草原も走り抜けて森へ入った。一気に奥へと向かってもらう。
徒歩なら3日はかかるであろう場所に小高い丘がある。一角鹿はそこの土を食べに集まるらしい。ふむ、ミネラルの補給か。
気配察知と索敵を使って丘を調べると、15頭ほどの群れを発見した。よし、ここで狩ろう。
「ウォルター、丘に15頭ほどの群れがいる。一番大きなヤツを殺さずに捕まえたい。他は無視して構わない。足止めは俺がするから、上手くここまで追い込めるか?」
ウォルターに確認する。
「加減が難しいですがやってみます。」
ウォルターが答える。
「ごめんねウォルター。大変だろうけどお願いね。」
エレナがウォルターに話しかける。俺たちは全員オープンチャンネルで念話を交わせるのだ。これもモンスターテイマーという職業のおかげか。
「ウォルターがんばってね!リリーもおうえんしてるからね!」
リリーから可愛らしい檄が飛ぶ。
「はい、頑張ります。それでは主、麓で別れましょう。反対側に回ってこちらに追い込みます。手加減はしますがぽーしょんの準備をお願いします。」
ウォルターはそう言って麓で俺たちを降ろし、あっという間に消え去った。俺はレミントンM870MCSブリーチャーを取り出す。足元に撃ち込んでやれば音と光で動きを止められるだろう。
「ピュイイイイイイイイイイイ!」
甲高い鳴き声が響く。ウォルターが仕掛けたのだろう。索敵を使うと散り散りに散っていく反応の中で、大きめの反応がこちらに向かってくる。魔法を飛ばして左右に逃げられなくしてるのか?一直線にこちらに向かってくる。
ジャキンッ!フォアエンドを操作して弾を込める。
「エレナ、耳を塞いで。」
エレナに声をかける。索敵が示す方向に銃口を向ける。大きくジャンプしながら一角鹿が向かってくる。
俺はジャンプした一角鹿が着地するタイミングを見計らい、着地地点と思われる辺りに一発撃ち込んだ。
ドゴォォォォォォォォォォン!
一角鹿は着地地点付近の土が撥ね飛び、大きな音と眩い光が放たれたのを見てバランスを崩した。すかさずウォルターが飛びかかって、首を咥えて動きを止めてから覆いかぶさって押さえ込む。捕獲成功だ。
「ウォルター、良くやった。お疲れ様。」
ウォルターを労ってエレナを手招きする。エレナは慌てて駆け寄ってくる。
「エレナ、仲間になれば助けてやるって一角鹿に話しかけて。そして従魔契約を結んで。」
そう声をかけると大きく頷き、一角鹿に話しかけはじめた。
「ねえあなた、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
エレナが話しかけると驚いたように顔をこちらに向ける。
「あなたは何者なの?何故私と話すことができるの?」
あ、この一角鹿は雌なのか。まあエレナのパートナーとしてならちょうど良いか。
「私はエレナ。モンスターテイマーというお仕事をしているの。あなたたちみたいな魔獣と仲良くして、森で狩りをしたり森の恵みを集めたりしているの。この子も私の仲間なのよ。」
エレナはそう言うとリリーをバスケットから出して抱きしめる。
「おおきなおともだち、こんにちは!リリーはリリーっていうの!リリーはエレナとなかよしでいつもいっしょなんだよ!おおきなおともだちもリリーといっしょにエレナのじゅうま?になろう!」
リリーが一角鹿に話しかける。
「私が人間と仲良くする?一緒に森で狩りをしたり森の恵みを集めたりする?そんな事出来るはずないじゃない。すぐに人間に殺されるわ。」
一角鹿がそう答える。当然の反応だよね。エレナは諦めずに説得を続ける。
「ねえ聞いて。もし私があなたを殺すつもりなら、とっくにその狼に噛み殺されているわよ?どうして殺さずにこうして押さえ込んでいるか分かる?あなたと仲良くしたい、あなたに仲間になって欲しい、そう思って殺さないで捕まえてくれるようにお願いしたの。
私はあなたを信じている。きっと仲間になって私たちを助けてくれるって思ってる。だからあなたも、私の事を信じてくれない?仲間になってくれないかな?」
エレナがそう言うと、一角鹿はエレナの顔をじっと見つめる。
「酷い事したりしない?一緒にいるのが嫌になったりしない?捨てたり殺したりしない?」
一角鹿がエレナに問いかける。エレナは頷いて答える。
「そんな事しないよ。リリーを見れば分かるでしょ?私の仲間になって、私を助けて。お願い。」
「あのね、あのね、リリーもおねがい!リリーはまだちいさいからエレナのおてつだいをうまくできないの!だからリリーのこともたすけてほしいの!おねがいおおきなおともだち、いっしょにいこう!」
リリーも一緒にお願いする。可愛いのう。
「・・・・分かったわ。貴女の仲間になってあげる。」
一角鹿が仲間になる事を認めた。後は名前を与えるだけだ。
「エレナ、彼女に名前を与えてあげて。それで従魔契約を結べるはずです。」
そう声をかけるとエレナは笑顔で頷いた。
「ありがとう。じゃあ仲間の印にあなたに名前を付けるね。あなたは今日からイスラ、私たちの大切な仲間よ。よろしくねイスラ。」
エレナがそう言うと一角鹿が光に包まれた。思わず目を庇う。光が収まるとウォルターが一角鹿から降りる。一角鹿はすっくと立ち上がった。
「我が名はイスラ。今この時から命ある限り主に忠誠を誓います。」
そう言ってエレナに向かって頭を垂れる。ウォルターと従魔契約を結んだ時とは違い、肉体的な進化などはないようだ。
「ありがとうイスラ。今日からよろしくね。」
エレナはそう言うとイスラを抱きしめた。
「イスラ、きょうからエレナとリリーとずっといっしょだよ!なかよくしようね!」
リリーも飛び跳ねながら嬉しそうに言った。
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