上 下
54 / 90

054

しおりを挟む

港に着くと、双胴型の船が待っていた。客室はそこそこの広さがあるだろう。20人くらいは乗れそうだ。カワイルカ6頭で引くようだ。

船頭は1人、水夫は3人。水夫の1人は馬車でいう御者の役割で、残りの水夫はカワイルカの世話役と船体の維持管理が役割のようだ。

アニカさんが船頭に書類を渡して確認させている。これも依頼の形なので、カールズに到着したらサインをする必要があるのだろう。

アニカさんが手招きするので近づいていく。船頭に依頼主として紹介されるのだろう。

「こちらが今回運んでいただくタカさんです。あの大きな狼がウォルターさん。タカさんの仲間です。

他の方たちはギルドが着けた護衛の冒険者です。おかしなことはないと思いますが、万が一の際はタカさんとウォルターさんの安全を最優先にお願いします。

カールズに到着したら、タカさんから依頼完了のサインを頂いてください。よろしくお願いします。」

俺も一緒に挨拶する。

「はじめまして。レギュラー級冒険者のタカです。こちらは私の家族で仲間のウォルターです。この度はお世話になります。どうぞよろしくお願いします。」

頭を下げる。

「船頭のガルムだ。安心して任せてくれ。あんたらが大丈夫ならすぐ出せるが?」

さすが海の男(川だけど。)、話が早い。

「はい、私たちは大丈夫ですのでお願いします。」

そう告げると船長は桟橋を歩いていく。

「皆さん、すぐに出発するそうです。船に乗ってください。」

アニカさんがフェローズに声をかける。

「アニカさん、お世話になりました。ありがとうございました。」

礼を言って船頭の元へ向かう。船頭は船室のドアを開けて待っている。おや、紳士なのね。

俺とウォルターが乗り込み、すぐにフェローズの全員が乗り込む。

船頭は窓から顔を出し、御者役の水夫に声をかける。

「よし、出していいぞ。」

「アイサー。」

御者役が返事をし、手綱を操ると船はスイーっと走り出した。

カワイルカに引かれているのでスピードは速い。時速40kmくらい出ているのではないだろうか。揺れもそれなりにあるが、思ったほどではない。

「トイレは船室の後ろの角にある。今日は男だけしか乗ってないからどちらでも自由に使ってくれ。分かってると思うが食事と水は自前だ。

今日はミルドと言う村で一泊する。到着は3時くらいだ。船酔いが酷いようなら船内で物は食わずに水だけにしておいてくれ。吐く時はトイレで頼む。

何か異常があれば知らせる。ゆっくりくつろいでくれ。」

それだけ言うと船首を向いた椅子へ座り、前方を眺める。

船室はだだっ広いフロアになっていて、イスなどは用意されていない。揺れる船ならイスなどに座っていると逆に危険だもんね。

右手を開けておきたいので左舷側の壁により、よしかかりながら腰を下ろす。ウォルターは俺の隣で伏せる。

俺たちが左舷側に座ったので、フェローズの面々は右舷に座った。中には毛布を敷いて寝転んでいる人もいる。スペースがあるから構わんか。

リーダーのアルヴィンさんは何か話したそうにしていたが、ギルド本部に向かうことについて詮索されると面倒なので、ウォルターに凭れて早々と寝たフリをする。

「ウォルター、このまま寝たフリをするからウォルターもおとなしくしててね。」

そう念話を飛ばす。

「主、いっそ本当に寝てしまいましょう。朝しっかりと食べてきたので、昼抜きで大丈夫ですから。」

うん、それもそうだね。

「分かった。このまま寝ちゃおう。おやすみウォルター。」

「おやすみなさい主。」

念話をかわして眠りについた。






「あと30分ほどで村に着く。下船に備えて荷物などの準備をしてくれ。」

船頭の呼びかけで目を覚ました。すっかり寝込んでしまった。喉が渇いていたので水筒とカップ小、盥を出す。自分のカップに水を注ぎ、残りを全て盥に注ぐ。

「ウォルター、足りなかったら後であげるから、今はこれで我慢して。」

ウォルターに念話を飛ばす。

「大丈夫ですよ主。これだけあれば充分です。」

そう言ってガフガフと水を飲み始める。俺もカップの水を口に含み、軽く口をゆすぐようにしながら飲んでいく。

「食料と水だけでも大変だな。」

アルヴィンさんが話しかけてくる。

「はい。収納持ちで良かったです。」

簡潔に返事をする。

「その狼を連れて旅することができるくらいだ、さぞ容量が大きいんだろうな。

いや、すまん。詮索しているわけではないんだ。単純に羨ましくてな。採取でも狩猟でも、それだけ稼げるわけだからな。」

そりゃそうよね。収納は一般的な能力とは言えど、誰もが持っているわけではない。

しかも容量は千差万別、個人個人の能力によって差がある。

未成年のレギュラー級冒険者が大容量の収納を持っていれば、羨ましくもなるだろうし、あわよくばパーティーメンバーとして勧誘を、ともなるか。

「そうですね。飲食物だけなら私とウォルターの40日分くらいは収納できます。それが精一杯ですね。

ただ、飲食物だけでなく他の道具なども収納しているので、実際には10日分が限度でしょうかね?」

大体200L位をイメージして告げておく。自分たちの荷物で精一杯で、他人の面倒までは見られないよ、と牽制しておくのだ。

「そうか、それでリュックすら持っていないのか。なるほど。君たちは君たちでスタイルが完成されているんだな。」

その通りです。だから余計なコナかけてきたりしないでね(笑)。

「そうですね。ずっとウォルターと一緒にやってきましたから。それはこれからも変わりませんし、変えるつもりもありません。」

ダメ押しで牽制しておく。これだけ言っておけば勧誘してきたりはしないだろう。

「そうだな。君たちはそれで良いんだろう。頑張れよ。」

アルヴィンさんは頷きながらそう言った。

「ありがとうございます。頑張ります。」

そう言って軽く頭を下げると、船が今までとは違う挙動をした。

外を見ると、水夫の二人が船の前後に分かれてそれぞれロープを引いている。どうやら投げ縄で桟橋と船をつなぎ、引っ張って接岸させるようだ。

さほどかからずに無事に接岸し、太い舫い綱で繋留する。

「到着だ。下船してくれ。明日は8時に出る。遅れないようにな。」

御者役が外から出入り口を開けてくれたので、礼を言って外へ出る。

ポルカ村の港に似た雰囲気だ。桟橋を渡り地上へと向かう。

少し歩くと頑丈そうな柵の中に門があり、門の傍らに木造の小さな小屋が建っていた。言うなれば関所だね。

俺は冒険者タグを引きずり出して首から外し、詰所の衛兵に渡す。

「はじめまして。ポルカ村のレギュラー級冒険者、タカと申します。カールズへ向かう途中です。今日はここで一泊させていただきたいです。入村を許可願えますか?」

そう言うと、タグを確認した見張りに水晶玉を示される。いつも通り水晶玉に触れる。もちろん何の問題もない。

「そっちの狼型の魔獣は君の連れかい?」

見張りに尋ねられる。

「そうです。私の家族で仲間のウォルターと言います。きちんと躾けてあるので、ご迷惑をおかけすることは無いです。こいつも一緒に入村を許可願います。」

そう言うとウォルターは、俺の隣でお座りして尻尾を振る。僕お利口さんだよ、とでも言っているようだ。

「デカいけどちゃんと躾けてあるんだな。良いだろう。入村を許可する。ようこそミルド村へ。歓迎するよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

異世界に転移す万国旗

あずき
ファンタジー
202X年、震度3ほどの地震と共に海底ケーブルが寸断された。 日本政府はアメリカ政府と協力し、情報収集を開始した。 ワシントンD.Cから出港した米艦隊が日本海に現れたことで、 アメリカ大陸が日本の西に移動していることが判明。 さらに横須賀から出発した護衛艦隊がグレートブリテン島を発見。 このことから、世界中の国々が位置や向きを変え、 違う惑星、もしくは世界に転移していることが判明した。

処理中です...