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しおりを挟む船首で車座になって座る5人と1頭。レイクブリーズの4人は揃って難しい顔をしており、一方俺は状況が飲み込めずキョトンとしていた。
「あー、タカ。聞きたいんだが、何故俺らに手柄を譲ろうとした?」
アントンが苦々しい口調で話し出す。あ、これ、気分を害してしまったか。マズったな。
「アントンさんに説明した通りの理由から、です。」
俺は澄まし顔で言った。
「俺に説明した通りの理由?職業と技能の話か?」
アントンさんが訊いて来る。
「そうです。実は職業と技能の事は詳しくギルド本部に報告されていますが、魔道具については概要だけで、威力などについてはまだ詳しく報告されていないんです。なので適当に誤魔化すつもりでいたのですが、緊急事態だったので大勢の前で使ってしまいました。
このままだと魔道具についても根掘り葉掘り調べられ、挙句に取り上げられてしまうかもしれません。それを防ぐ為に、レイクブリーズの4人に身代わりになっていただきたかったのです。隠れ蓑に利用してしまい、申し訳ありません。」
そう言って深く深く頭を下げる。ここは正直に話した方が良いだろう。そうすりゃ庇ってくれる、と思う。
アントンはガリガリと頭を掻くと、大きな溜息をついた。
「はぁー、あんな強力な武器を持っているのが自分一人だけだったら、そりゃあビビるよなぁ。お前の気持ちは分かったし、お前を責める気もねえよ。もう気にすんな。
お前らもそれで良いよな?」
アントンが残りのパーティーメンバーに声をかける。
「私は怒ってないわよ。まあ、何もしてないのに貢献値と報酬をもらっちゃうのはちょっとバツがわるいけど。」
「でもそうしないとタカが困っちゃうんでしょ?私は平気だよ。臨時収入で装備も充実できるだろうし。」
「そうだね。タカには申し訳ないけど、僕も正直嬉しいよ。予定外の臨時収入で、美味しいものを食べられそうだし。」
概ね納得してもらえたようだ。
「皆さんありがとうございます。助かります。あとはこれ以上は何事も起きずにジニアルに着くように祈るばかりですね。」
そう言うと4人は声を出して笑った。
その後は何事もなく船は進んだ。昼の時間になり、アントン達はそれぞれリンゴを齧っていた。俺もリンゴを取り出して食べる。酸味が強目で硬い果肉は心地良い歯応えで、とても食い応えがあった。
「ウォルターは果物は食えるのかい?」
ウォルターに尋ねる。
「はい主。果物も食べますよ。」
そう答えが返って来たので、ウォルターにリンゴとナシとキウイを出してやる。ワフワフと言いながら美味そうに口の中で噛み砕いていた。
昼飯を終え、あまりののどかさに眠くなってきた。ウォルターによしかかってうたた寝する。
気がつくとレイクブリーズの4人もウォルターにしがみ付いて寝ていた。なんてのどかな風景だ(笑)。
そのまま夕刻を迎え、陽が沈む少し前にジニアル領の港に着いた。上陸してすぐに門があり、そこで冒険者タグを見せ、水晶球での入領検査を受けた。全員問題はなかった。
アントンたちの説明によると、ジニアル領は港を中心とした領都ヘイゼルがあり、内陸に向かって森を開拓して農地と住宅用地を広げているらしい。当然森に住む野生動物や魔物との軋轢があり、冒険者が仕事に困る事はないそうだ。
そんな話をしながら歩いていると、ディラン船長が荷馬車に乗って現れた。御者は別の水夫に任せ、自らは荷台に座っている。
船長は俺たちの姿を認めると、御者に命じて馬車を停めた。
「おいお前ら!これから冒険者ギルドに行くんだろう!?俺もさっきの事後依頼の件で今からギルドに行くんだ!乗れ乗れ!そうすりゃまとめて片付くからな!さっさと片付けて飯に行くぞ!今日は俺の奢りだ!ガーッハッハッハー!」
やっぱり豪快なおっさんだわ(笑)。レイクブリーズの4人は荷馬車に乗せてもらってギルドに向かい、俺はウォルターの背に乗って馬車の後ろを追いかける。歩けば1時間ちょっとかかる道のりが、馬車のおかげで15分でギルドに到着した。
ディラン船長は豪快にギルドの扉を開け、ズカズカとカウンターへ向けて歩いていく。
その勢いにフロアに屯していた冒険者たちがビビっている。きっとこの町では有名なんだろうなぁ(笑)。全員でおずおずと船長に続き中に入る。俺もウォルターから滑り降り、ウォルターを隣に従えて前へ進む。
ディラン船長はカウンターまで辿り着くと大声で話し出す。
「おうルイーズ!フランカ村とポルカ村からの荷だ!とりあえず魔石だけ先に納めに来た!納品書と確認しろ!
それとテレサ!途中でカワシャチに襲われかけたが、たまたま乗り合わせた冒険者たちが撃退してくれた!事後依頼を出すからさっさと書類を出せ!」
あ、ここは綺麗どころが受付嬢やってるのね。うん、スタイルも抜群。パパイヤ、パパイヤ、パパイヤって感じだ(笑)。
しかし、ディラン船長みたいな強面が大声で話しても、怯みもせずニコニコしてるけど、ディラン船長が有名なのか、受付嬢たちのキモが座ってるのか、それとも両方なのか?いずれにしろ、さすが領都って感じだな。
「やれやれ、船長が来るといつも賑やかだ。もう少しお静かに願えませんかね?ほら、うちの新人たちが震えあがってるじゃないですか。勘弁してくださいよ。」
そう言いながら優男が1人階段を降りてきた。スラリと背が高く、いわゆる細マッチョ的な体型。優しげな微笑みをたたえた顔は冒険者ギルドには相応しくない感じだ。
「何を言ってやがるジョナサン!お前が大人しすぎるんだよ!仮にもギルマスなんだからもっと威厳を持て威厳を!若いのに舐められるぞ!」
え?この優男がギルマス?いやいや、どう見ても荒くれ者の冒険者たちを束ねられる様には見えないんですけど。魔法使いなのかな?
「別に貴方に言われなくても威厳は示してますし、冒険者たちもちゃんと従ってくれてるんですからこれで良いんですよ。どうやったって貴方の様なガタイにはなれないんですから。」
溜め息をつきながら優雅に歩み寄る。まるでダンスのステップの様だ。
「で?事後依頼とはどういう事です?カワシャチがどうとか聞こえましたが?」
あ、雰囲気が変わった。顔は笑ってるけど目が笑ってない。その目でこっち見ないでほしいなぁ。オッカナイっしょ。
「おう!カワシャチが10頭ほど群れで出てな!船を引くカワイルカたちが怯えて暴れたんだ!あのままじゃヤバかったんだが、ここにいるレイクブリーズの4人とソロのタカが撃退してくれてな!おかげで大助かりよ!金貨2枚で事後依頼と完了報告を出すから、こいつらに払ってやってくれ!」
あ、ギルマスがこっち見た。目が光ってる。だからその目はオッカナイって。ほら、クラーラとメリナが震えてるじゃん。アントンとマーフィーも圧倒されて動けないよ。
「それは興味深い話ですね。船長とレイクブリーズの皆さん、それとタカさんでしたか?少しお話を伺いましょうか。」
うわー目をつけられちゃったよ。勘弁してよマジで。
「おいジョナサン!こいつらはジニアルに着いたばかりなんだぞ!これから俺が飯を奢ってやる約束なんだ!話なんか明日にしろ明日に!」
船長ナイス!あ、でも俺はそういう訳には行かないんだった。ええい、直接話しちゃえ。それが一番早い。
俺はカウンターへ向かい、ギルマスの前へ進み出て一礼する。
「突然この様なご挨拶をさせていただくご無礼をお許しください。ジニアル領冒険者ギルド、ヘイゼル支部ギルドマスター、ジョナサン様、とお聞きしました。私、ポルカ村から参りましたレギュラー級冒険者、タカと申します。
この度はグランビア王国王都ヴァレンティナに御座います、冒険者ギルドグランビア王国本部からの要請で罷り越しました。冒険者ギルドポルカ出張所のイエルク様より書状を賜っております。どうぞご確認ください。」
収納からヘイゼル支部宛と書いてある封筒を取り出し、頭を下げてカウンターの上で両手で捧げ持った。
「へえ、君、随分と礼儀正しいんだね。どこかの貴族なのかな?」
ギルドマスターが楽しげな声を出す。俺は頭を下げたまま返事をする。
「そう言った事情も認めてあるものと思われます。どうかこちらを。」
そう言うと手から手紙が消える。
「うん、分かったよ。とりあえず頭を上げてくれるかな?
ロミー、皆さんを応接室へ、人数分のお茶とお菓子をお出ししてね。僕は手紙の内容を確認してから行くよ。」
「畏まりましたギルドマスター。皆様、恐れ入りますがこちらへお願いします。」
顔を上げると、ショートヘアが良く似合う美人のお姉さんが、通路の奥を指し示している。
「おいおいロミー!さっきも言った様に俺たちゃ飯もまだなんだよ!面倒はよしてくれや!」
船長が怒鳴るが、ロミーさんはまったく意に介さずに船長を見る。
「船長がご協力くださればすぐに済みますよ。さ、こちらへどうぞ。」
有無を言わさぬその態度に、さすがの船長もぐむむ、と口ごもると、書類を持ったままロミーさんの案内に従い廊下を歩き出した。俺は溜め息を一つついて、ウォルターと共に後を追う。そしてレイクブリーズの4人が慌てて走ってきた。
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