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「私も沢山の冒険者と携わってきましたが、飛び級でクラスアップした冒険者は初めてですよ。
しかもタカさんはまだ成人前。これからどこまで登り詰めるのか、楽しみです。」

イエルクさんがニコニコと笑いながらそんな事を言う。いや、こちらはそんな気はさらさら無いんですが(笑)。

「そう言われましても、こちらとしては何とも申し上げられません。私の力が優れているわけではなく、ウォルターと魔道具の力のおかげです。

何より森の恵みが濃いからこそこれだけの結果を出せたのであって、他の冒険者ギルドが管轄する区域で同じだけの働きが出来るかは正直分かりません。それに、今まで以上の大物などもいるでしょう。私は出来る事を出来る範囲でやるだけです。」

そう答えておく。

そう、銃を使って遠距離から一方的に攻撃出来てるから強いのであって、近接戦闘になればどうなるかは分からない。

身体強化や各種技能はあるが、それでどれだけ動けるか、どれだけ戦えるかはやってみないと分からないのだ。

「確かにそうですね。それに人型の魔物などもいます。奴らは我々と同じように武器や防具を使います。クラスが上がればそう言った魔物の討伐も出てきますし、護衛依頼や盗賊討伐などの対人戦闘も避けられません。しっかり経験を積んでいただかなければなりませんね。」

イエルクさんが真面目な顔で言う。

「ですが、このポルカ村ではそれらの依頼が出る事はありませんし、周囲に人型の魔物も存在しません。まずは年齢相応の依頼にジックリと取り組んでください。タカさんならそれだけで充分に食べていけますから。

それに、本部に行けば訓練場があり、自分より高位の冒険者に稽古をつけてもらう事もできます。お金はかかりますけどね。」

イエルクさんがまた笑顔になる。

「分かりました。考えておきます。ところで、本部との連絡はどうなってますか?」

イエルクさんに尋ねる。俺の登録記録の写しを本部に送らなきゃならないはずだ。

「昨夜着いた定期船にタカさんの登録記録の写しと、今日飛び級でクラスアップした事や討伐内容などを認めた手紙を乗せます。これはギルドから冒険者への依頼の形をとり、報酬も出ます。

それをジニアル支部に届け、そこからチャーター船でヴァレンティナ本部へ届けます。

定期船は明日出航、夕方遅くにジニアル領に着きますので、ヴァレンティナへの出発は明後日の朝になります。

途中一泊して港町カールズ到着は4日後、そこから早馬をヴァレンティナへ向かわせて2日、今日を基準にすればちょうど一週間でタカさんの詳しい情報が届く事になります。ここまでは念話装置で打ち合わせ済みです。

その後、本部での確認と話し合いに2日、方針が決まれば、ヴァレンティナへの移動手段についてはおそらく念話装置で連絡が来ます。

定期船を使うのか、チャーター船で直接迎えに来るのか、その辺は連絡が来てみないと分かりませんね。

船は夜の航海はできないので、どうやってもヴァレンティナからジニアル領に向かうには4日かかります。同じ理由でジニアル領からポルコ村までは2日。チャーター船を使えば最短で14日、定期船だともう少し伸びますね。」

結構な日数がかかるな。

「でしたら、その登録記録と手紙を持って、直接私がヴァレンティナに向かえば良いのではないでしょうか?ここで稼がせていただいたので、路銀も充分にあります。なんなら手紙の配達依頼を私自身が受けても構いません。どうでしょう?」

イエルクさんに提案する。

「うーん、それは確かにそうなんですが、手紙の配送依頼は護衛依頼と同等の扱いなので、エース級以上でないと受けられないんですよ。なのでタカさんにお願いする訳にはいかないのですよね。」

イエルクさんが困った顔をする。

確かに俺は飛び級したとは言えレギュラー止まりだ。推奨ランクが付いた依頼なら一つ上まで受けられるが、ランク指定依頼の場合は出来ない。

「ならば、手紙の配送依頼ではなく、私の護衛依頼にしてはどうでしょうか?私が手紙を預かり、その私を護衛してもらう、と言う形なら、私も一緒にヴァレンティナを目指すことができますよね?ここでの滞在費を考えれば、その方が経費は削減できるかと思いますがどうでしょう?」

と提案する。正直、早めに村を出てしまいたいのだ。

ここでこのまま採取や狩りを続けてしまうと、供給過剰になってしまいかねないのだ。現に収納には納品素材が大量に眠っている。さらに採取や狩りを続ければ、素材が溜まる一方で捌ききれなくなる。

だったら大きな町で納品すれば喜ばれるのではないか、と考えたのだ。

「・・・・確かにタカさんの言う通りですね。本部に連絡してみます。タカさんは宿に戻られますか?」

イエルクさんに訊かれる。

「念話装置を使うのなら、それほど時間はかかりませんよね?フロアで待ってますよ。」

そう言いながら立ち上がる。

「ありがとうございます。それでは少々お待ちください。」

イエルクさんはいそいそと席を外す。

俺もフロアに戻り、テーブル席に座ってウォルターの頭を撫でながら待つ。

「ウォルター、もしかしたら明日この村を出るかもしれないよ。」

ウォルターに言うと驚いて頭を上げ、俺の顔を見る。

「主、何か問題でも起きたのですか?」

うん、普通はそう思うよね。

「違うんだ。俺とウォルターの従魔契約に関する技能と職業、モンスターテイムとモンスターテイマーについて詳しく知りたいそうなんだ。なので、グランビア王都ヴァレンティナまで行かなきゃならないんだけど、面倒な連絡のやり取りを省いて直接伺いましょうか?って提案したのさ。

この村はとても良い所だけど、俺たちのペースで狩りや採取をしていたら、素材が溜まる一方で捌き切れなくなる。いくら時間停止、容量無限の収納があっても、捌き切れない程の素材を抱えるのはあまり気分的に良くないからね。命を奪った以上、ちゃんと誰かの役に立って欲しいからさ。」

そう言うとウォルターは納得したようだ。

「我々が必要以上の狩りをしないのと一緒ですね。」

うん、狼は頭が良いね。魔獣だけどね(笑)。

「町に行ったら、ウォルターと一緒に泊まれる部屋があるかなぁ。もしなければ野宿になっちゃうね。ウォルターと別々に泊まるのは嫌だから。」

そう言うと嬉しそうに尻尾を振る。

「私は主が一緒ならどこでも構いません。」

そりゃそうだろ、狼なんだから(笑)。でも可愛いから許す(笑)。

そんなバカップルみたいな会話をしていると、イエルクさんが現れた。

「タカさん、ご提案通り、直接ヴァレンティナに向かっていただくことになりました。つきましては手紙などの準備がありますので、申し訳ありませんが今日は宿へ戻ってお休みください。

明日は朝6時半までに北門の前に来てください。書類はそこでお渡しします。その時に護衛の冒険者の紹介も一緒にさせていただきます。
道中滞在する宿などはジニアル領のギルド支部で手配いたしますので、詳しくはそちらでお願いします。」

イエルクさんから説明を受ける。

「分かりました。それでは道中必要と思われる物を購入しておきますね。明日の朝お会いしましょう。失礼します。」

そう挨拶して、ウォルターを引き連れて出張所を後にする。

とは言え、今から買い足さなきゃならない物はそうそう無い。せいぜい水筒に入れたワインの補充くらいか。

そうだ。水筒を大量に購入して、地球の酒を入れて持ち歩こう。そうすりゃバレない。

「老人と海」を書いたヘミングウェイは、第一次世界大戦に従軍した際、ジンを入れた水筒とヴェルモットを入れた水筒を腰に提げ、戦場でもマティーニを飲んでいたと言う。

そこまでするつもりはないが、御上りさんが都会の酒場をウロついてたら、格好のカモにされてしまう。得意の部屋飲みを楽しもう。

なんなら氷も買っちゃおう。キリッと冷えた酒はこの世界では飲めないからね。

地球のツマミを買うのもありだな。缶詰めはもちろん、チョコレートやポテチや柿の種などのお菓子類や、アタリメやエイヒレなどの乾き物もいいな。

よし、楽しくなってきたぞ(笑)。

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