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「まずはジニアル領に向かっていただきますが、目的地はジニアル領ではありません。このグランビア王国の首都、ヴァレンティナにある、グランビア王国冒険者ギルド本部です。」

イエルクさんの口から驚くような言葉が紡ぎ出された。2時間ほど前に村に辿り着き、たった今冒険者としての仮登録を終えたばかりの人間が、何で王国首都のギルド本部なんかに行かなきゃならんのだ?

「いや、さすがにそれはマズいでしょう。何度も言っていますが、私は私自身が何者なのかも分からず、証し立てることも出来ないのです。そんな人間が、王国首都の冒険者ギルド本部に行くなんて、そんな事ありえませんよ。

と言うか、あってはならない事だと思いますよ。私がまだ解明されていない古代の魔法などで操られていて、王国首都のような重要人物が集まる場所で急に暴れ出して殺戮を始めたり、魔力を暴走させて周囲の人間を巻き込んで自爆したりしたらどうするんですか?責任問題では済まないですよ?もっと慎重に考えるべきです。」

俺が焦りながらそう言うと、イエルクさんはプッと吹き出した。

「イエルクさん?私は真面目な話をしているんですが?今の話の中でどこか笑いのツボにハマるような内容がありましたか?」

イエルクさんは笑いながら尋ねてくる。

「タカさんは首都で暴れたり自爆したりするんですか?」

「する訳が無いじゃありませんか!そうではなく!私がするかしないかではなく、もっと慎重に安全管理するべきだと言っているんです!国王陛下や側近、重鎮の方達にもしもの事があったらどうするのですか!

私のような出自も分からぬような人間を簡単に無害だと判断し、この国にとって重要な場所に出入りさせるのは危険だと言ってるんです!」

こっちは一生懸命説明しているのに、イエルクさんはどこ吹く風で可笑しそうに笑っている。ああもう!セキュリティーリスクというものをもっとしっかりと考えてもらわないと!

「タカさん、タカさんの言いたいことは分かります。ですが、心配はいりません。

まず村や町などに立ち入る際は必ず、魔道具の水晶玉により犯罪歴と悪意の有無を確認します。これによって犯罪者や悪意を持った者が村や町などに入る事を防止します。もちろん冒険者として登録する際も、です。

つまり、タカさんは今日1日で入村時と冒険者登録時の2回、犯罪歴や悪意の有無を確認されて、問題なしと判断されている訳です。短時間に2回も安全である事を証明されている訳ですから、これ以上の信用はありません。

それに、国王陛下や側近、重鎮達には、危険察知と鑑定を持った者が必ず付き従っています。悪意を持った者や明確な攻撃意志を持った者はもちろん、たとえ本人が気付かずに操られている者がいたとしても、危険察知で気づく事ができます。

つまり、タカさんが心配するような事は何も無い、という事です。」

うーん、それなら大丈夫なのか?いや、こんな事を俺が心配してもしょうがないのか。別に俺がセキュリティ担当者な訳じゃないしな。

「はあ、まあ、セキュリティ上問題無いと言うのであれば、それはそれで構いません。それで、具体的にはどのような日程で、どのように移動すれば良いのでしょうか?」

気持ちを改めてイエルクさんに尋ねる。いくらかかる費用は全てギルドが負担してくれると言っても、旅の行程くらい把握しておかなければ居心地が悪い。

「まずはギルド本部に新技能と新職業が発見された事を報告します。緊急通報用の念話装置を使いますので、第一報はすぐに報告できます。

その後、タカさんの登録記録紙の写しをギルド本部に送って確認してもらいます。これはジニアル領からの定期戦を使うか、ギルドから直接チャーター船を出す形になるか、ギルド本部の判断になります。

その後、ギルド本部から迎えが来る形になると思います。本部との連絡や打ち合わせで二週間程かかるかと思います。

移動の日程については今後の打ち合わせで決まりますので、まずは二週間程お時間を頂きたいと思います。その間は村の宿に滞在してください。もちろん宿泊費はこちらで負担します。」

「こちらの宿は食事は付いていますか?」

「いえ、隣の食堂を利用してください。決まったメニューしか無いので、代金も決まってますから。あ、お酒は自己負担でお願いしますね。」

ビールは別料金~ってヤツだな(笑)。

「分かりました。それでは冒険者登録に関しての手続きは一応終了ということで宜しいですか?」

そろそろお暇したいのだが。

「その前に、タカさんの魔道具を見せていただけませんか?どのような物なのか、ギルドとしても把握しておきたいので。」

それはそうだろうな。俺はレミントンM870MCSブリーチャーを取り出してテーブルに置く。

「この先端から稲妻と礫を放ちます。魔力を込めてありますので他の人に触らせることはできません。ご了承ください。」

そう言うと感心しながら舐めるように観察する。

「こんな魔道具は見たことがありません。人の手で作られたとは思えない程の精巧さです。どのように作られたのか想像も出来ませんね。ドワーフの手による物なのか、それとも女神様のお力で作られたのか・・・。」

別の世界の工業製品です、とは言えないよね。

「私もどのような経緯で父がこれを手にしたのかは知りません。もはや知る術も失われてしまいました。」

そう言うと申し訳なさそうな顔をする。

「ありがとうございました。しまって頂いて結構です。」

ブリーチャーを収納する。

「あらためて、以上で宜しいですか?」

「そうですね。登録そのものは終了です。ご協力感謝します。こちらの冒険者タグをお渡しします。あ、紐をつけないといけませんね。受付の方でお渡ししますね。」

そう言ってイエルクさんがソファーの装置を操作すると、シュン、と言う感じで結界が解除されるのを感じた。

操作を終えて立ち上がったので、俺も合わせて立ち上がる。イエルクさんが先に進みドアを開けてくれたので、軽く会釈しながらドアを潜り抜けて受付の前へと進む。

冒険者たちが何人か増えており、遠巻きにこちらを見ていた。イエルクさんは一旦応接室に戻り、直通ドアで事務室に出てきた。

テオさんに声をかけて俺の冒険者タグを渡すと、すぐに革紐を付けてくれた。長い紐に一枚通し、短い紐をつけたもう一枚を長い紐に付ける。地球で使われているドッグタグと一緒だね。

冒険者が死んだときは、短い紐のついた方を引き千切って持ち帰り、後々遺体を回収できたら残してある長い紐の方で照合するんだな。

ぼんやりと眺めていると良い笑顔でテオさんが声をかけてきた。

「タカさん、お待たせしました。こちらがタカさんの冒険者タグです。首に提げて携行してください。

村や街への出入りや依頼を受ける申し込み、依頼完了の報告、獲物の買い取り申し込みなど、頻繁に使いますので無くさないように気をつけてください。

紛失した場合は再発行に棒銀貨1枚かかりますのでご注意ください。

引き続き冒険者について説明させていただいて宜しいですか?」

「はい、宜しくお願いします。」

「ではこちらへお願いします。」

受付カウンターの向かって左端にあるローカウンターへと案内される。お互いに椅子に腰掛けて向かい合う。

「まずは冒険者の身分についてです。

冒険者の身分は冒険者ギルドが保証します。これは犯罪者やならず者では無い、という程度のものですが、冒険者タグ及び冒険者証を掲示する事によって、村や町などに出入りする際の手続きが緩和されます。

ただし、ギルドの支部がある所では、必ず立ち寄って出入りの報告が必要になります。これを怠るとそのギルドでの仕事は受けられませんのでご注意ください。

禁則事項としては、殺人、略奪等をした場合は冒険者ギルドから除名処分となります。また、冒険者同士の私闘は禁止されています。

それから、冒険者が行った行為については冒険者ギルドは一切責任を負いません。また、冒険者のケガ・死亡についても冒険者ギルドは一切責任を負いません。

万一死亡した冒険者を発見した場合は、冒険者タグを持ち帰っていただければギルドから謝礼が出ます。持ち帰っていただいた冒険者タグは特殊な処理をした後、死亡報告も兼ねた遺品として冒険者のご遺族に渡されます。

装備や持ち物は発見者の物となりますが、ご遺族にお渡しすることで謝礼がもらえる場合もありますので、どうするかは発見者の判断に任されます。」

そりゃそうだわな。極道の仁義と一緒で、仕事をするためにはまず地元のギルドに挨拶が必要、と。しかしさすが冒険者、タグや遺品の回収など、命を張った仕事だというのが伝わるね。

「冒険者として登録し、ギルドを介して以来を受け、受けた依頼を完了し、ギルドに完了報告をする事によって報酬が支払われ、ギルドでの貢献値が溜まります。報酬からはギルドの手数料と税が差し引かれて支払われますので、納税の義務はありません。

貢献値が一定まで溜まり、こなした依頼の内容を精査した上でギルドが認めればランクがアップします。

しかし、いくら貢献値を溜めたとしても、薬草採取のみで上位ランクに上がる事はできません。ランクごとの指標依頼が設定されており、それをクリアできなければランクアップできませんので、ランクアップを望む場合は指標依頼を意識して依頼を受けてください。

また、各依頼には推奨ランクが表示されており、自分のランクの一つ上までしか依頼を受け付ける事はできません。

ただし、依頼遂行中のイレギュラーにより上位ランクの依頼を完了してしまった場合は、特例措置として事後受付いたします。その際は貢献値も完了報酬も依頼通りの内容で受け取る事ができます。

もし依頼を失敗した場合は、成功報酬と同額の違約金が発生し、貢献値がマイナスされます。依頼失敗の多くは期日超過ですので、依頼を引き受ける際は充分にご注意ください。

一年間のうちに一度も依頼完了の報告が無い、または一定以上の貢献値が溜まらなかった場合は、冒険者としての資格は失効、もしくはランクが下がる事になります。

失効の場合、冒険者タグと冒険者証は無効となり、使用できなくなります。再度冒険者として活動したい場合は新規で登録し直しになります。

それとは別に一年ごとに冒険者資格の更新があり、更新手数料として棒銀貨1枚をいただきます。」

異世界テンプレだと低ランクの時は1~数ヶ月、高ランクで一年程度の活動猶予があるのが普通だが、ランクに関係無く一年なのね。

「冒険者のランクは10段階となります。低い順から

・ルーキー
・ビギナー
・レギュラー
・エース
・ヴェテラン
・マスター
・グランドマスター
・プロフェッサー
・ブレイブ
・ヒーロー

となります。

冒険者登録は8歳からできますが、10歳までは依頼遂行にかかわらずルーキーのまま、12歳まではビギナーまで、14歳まではレギュラーまでしかランクアップ出来ません。当然受けられる依頼も限定されます。これは若年者保護の為の措置です。

成人の15歳以上なら制限は無く、問題無くランクアップしていく事が可能です。

当出張所ではヴェテランまではランクアップを受付できますが、それ以上はギルド支部以上での受付となります。

また、ヴェテランまでは冒険者タグ及び冒険者証にはランクの表示が追記されていく形になりますが、マスターからは色が変わっていく為、ランクアップ毎に新しいものが交付されます。

タカさんは新規登録ですのでランクはルーキーからスタートです。」

オールドルーキーか。まあこの世界では14歳だけどさ。


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作者は昭和末期から平成初期にテーブルトークRPGという遊びにハマっていました。そのテーブルトークRPGの元祖であり、作者が初めて遊んだシステムが「D&D」というもので、そのシステムの中で使っていたレベル表記システムがこんな感じでした。そんなもんで、単純にアルファベット表記とか色表記とかにしないで、あえてこんな感じにしてみました。

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