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*
しおりを挟む劇的な変化はまだ起こった。その日、俺は寝不足で、遅刻ギリギリに教室に滑り込んだから、事件の現場に居合わす事ができなかったのだ。俺を寝不足にした張本人はというと、俺を置いてとっとと登校しやがった。本人曰く、「俺は一声かけた」らしいが、んなもん俺が気づかなきゃ意味ないんだよ。
ということで、俺はご立腹で席に着いた。だから、クラスに怪しいざわめきが広がっていることに、しばらく気が付かなかったのだ。
「すごかったね~さっきの」
「ああ、めちゃくちゃ興奮した」
何となく近隣が騒がしいことに気づき、俺は辺りをキョロキョロ見回して、鷹木がいないことに気がついた。あの野郎、俺を置いていったくせにサボりか?実際、鷹木が授業をサボったことなどないのだが、俺は何にでも腹を立てていた。
「まさか副会長様が来られるなんて…!僕、もう感激だよ!とっても格好良かったなあ……」
ん?副会長がわざわざBクラスにまで来たのか?そりゃまた何で。
「まさか、副会長様直々に、鷹木くんを生徒会にスカウトしにいらっしゃるなんて……………!信じられない…!」
は?
「ビックリだよなあ!鷹木くんがあの有名企業の跡継ぎだったなんて!」
「まあ僕は薄々勘づいてたけどね!寡黙なところが、上品だなあと前から思ってたんだ」
その後の話はもう耳を素通りしていった。スカウト?有名企業の跡継ぎ?は?頭がついていかない。確かに、Sクラス在籍の条件は、学力と実家の経済力だ。いやでも。生徒会役員、しかも副会長直々に、スカウトだなんて、聞いた事がない。
「そのはなしっ……」
「おーし、席つけー!授業始めるぞー」
身を乗り出した瞬間、ドアが開いて、担任が入ってきた。ざわめいていた教室は一度に静まり、各々が着席していく。俺も倣って、座るしかない。
こうして、俺は今日もモヤモヤしたまま授業を受ける羽目になったのだ。
2.5
結論から言うと、クラスメイトが話していたことは全て本当だった。鷹木は俺でも聞いたことがあるような大企業の跡継ぎで、「生徒会に入らないか?」とスカウトされたらしい。こんなことは異例中の異例だ。対する鷹木が何と応じたのか、それは定かではない。噂では、「引き受けた」だとか「断った」とか、情報が錯綜しすぎていて、真実が分からない。何が本当かは定かではないが、鷹木が多忙になったことだけは確かだ。
鷹木は、授業に出る回数が減った。何をしているのか分からないし、知りたくもない。噂では、生徒会に加入するための諸々の手続きをしているとか、なんとか。生徒会にはSクラスしか入れないので、鷹木をSクラスに戻すため、生徒会役員が奔走してるという話も聞いた。それが本当なら、もう鷹木と接する機会は無くなるだろう。部屋も同じじゃなくなる。驚くことに、鷹木の親衛隊もすでにできそうらしい。手が早くて何よりだ。
生徒会役員とただの一般生徒が関わりを持つことは殆ど無い。この間まで、傍にいたのが嘘みたいに、鷹木は遠い存在になってしまった。
夜一人、がらんとした部屋にいると、頭がぼーっとする。ここ最近は、更に忙しいのか、部屋に帰ってくることすら無くなった。もう、新しい部屋が決まっているのかもしれない。一人部屋で、だだ広い、Sクラスのためだけの部屋。鷹木は清々してるだろうな。こんな狭い部屋より、一人の空間の方が良いに決まっている。オナニーだって、し放題だしな。そうだよ、あいつだって俺の目を気にせずシコれるし、なんなら、男だって連れ込める。最高じゃん、はは。
どうしてか、心が穏やかではいられない。気が立って、些細なことにもイライラしてしまう。俺はおかしくなってしまったのだろうか。俺には、一人の部屋は寂しすぎた。
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