羅針盤の向こう

一条 しいな

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 真澄ちゃんは笑っていた。爆笑ではなかったが、カラカラと笑っていた。野太い声が笑っているんだから、ちょっとだけたくましい印象だ。
「あんた、圭介ちゃんと私が付き合っているっていうの」
 バシバシと戸井田の肩を叩く。ネールではなく、綺麗にケアされた爪で叩く。ネールされているのが普通なのかなと僕は考えていた。が、違うのかもしれない。
「いや、女子が」
「中学生ではあるまいし、誰が誰と付き合おうとあんたには関係ないでしょう。自分のラブはどうしたのよ。あんた達って暇よね、つくづく」
「こっちは波風を乗り越えているんだ」
「そういえば彼女と喧嘩したのはどうなった」
「謝った」
 うんと僕がいうと「俺が謝ったんだよ」戸井田は叫んだ。歩いている生徒達がこちらを見てギョッとした。僕はどうしてそうなったのかわからなかった。
「訳わかんない」
「どうせ彼女が恋しくなったから、折れたのでしょうね」
「そうなのか」
「うん」
 梨田さんはニヤニヤしているだけでそれ以上言わない。僕はちょっと呆れた。そういう気持ちが伝わっているのだろうか、戸井田は恨めしい顔をしている。
「おまえなんてちょっと顔が良いから、あまい言葉でプレゼント攻撃をすればすぐに彼女の機嫌が直るだろうな」
「八つ当たりかよ」
「いいよな。顔がちょっと良い奴って」
 はいはいと僕は言った。僕が苦笑した。梨田さんは区切りがついたと思ったのかじゃあなと言って立ち去った。
「じゃあ、私これから授業だから。あんた達も早く行きなさいよ」
 戸井田はあーという声を上げた。
「良かったな。真澄ちゃんと付き合わないで」
「えっ」
「だってさ。かわいそうじゃん。あのままさ。真澄ちゃんが好きじゃないのに付き合えよとかさ」
「でもなんでみんな、真澄ちゃんの恋愛に口を挟むんだろう」
「真澄ちゃんがニューハーフだから。後やっぱり物珍しさがあるんじゃないの」
「理解ないな」
「どうしていいか、わからないんだろう」
 わからないからあんな反応になるのかと思う。
「多分さ。テレビとかのイメージが勝手に先行されているんじゃないか。俺、考えたけど真澄ちゃんって精細じゃないかなと思うんだ」
「ん?」
 僕がいうと戸井田は笑った。
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