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本編

18.偽りのない気持ち

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お腹が満たされたアルフォンスは抱いているうちに眠ってしまった。
以前ウィリアムにアルフォンスの寝顔が僕にそっくりだと言われたことがある。
でも、僕には眠っていても小さなウィリアムにしか見えない。

背中をぽんぽんされるのが大好きな可愛くて愛しい我が子。
ウィリアムそっくりの額に口付けをおくる。

「おやすみ、アルくん」

ベッドに寝かせるとウサギが寄って来て、アルフォンスに添い寝するようにそばについた。

「アルくんをよろしくね、ウサギさん」

ウサギは頷いて手を振った。任せてくれということらしい。アルフォンスの世話はウサギに任せておけば大丈夫だろう。
僕はこちらを黙って観察していた茉莉にようやく向き直った。

「少し話をしようか」

「……うん」



ソファに座った僕はアルフォンスを起こさないように小さな声で隣に座る茉莉に異世界に来てからのことを話した。
出来るだけ感情を交えないように淡々と事実だけを伝える。
話しているうちにウィリアムへの感情で混沌としていた気持ちが徐々に落ち着き、整理されていった。

僕はウィリアムをどう思っているんだろう。
3年の間にウィリアムは何度も僕に愛を伝えてくれた。無理矢理身体を暴かれたのは、最初だけでウィリアムによって感情を操られ、従順になってからは真綿に包まれるように何の不自由もなく優しさだけで満たされ続けた。
偽りの日々にあったのは、本当に偽りの感情だけだったんだろうか。
もしも、ウィリアムによって記憶を封じられ、感情に干渉されていなければ僕は彼に心を預けなかっただろうか。

凌辱された時、こんなことをするウィリアムが怖くて仕方がなかった。あの時、ウィリアムのもとから逃げ出したくて泣きながら耐え続けたのだ。
ウィリアムにされたことは絶対に許せないし、今後も彼の罪が消えることはない。

でも、それでもやっぱり僕はウィリアムをーー

「茉莉、会いに来てくれてありがとう。記憶を取り戻してくれて、僕を正気に戻してくれてありがとう」

「私も会いたかったよ。お兄ちゃんが元に戻ってくれて嬉しい。これからは私がお兄ちゃんを守る。あんなヤツにはもう渡さない。もう2度とお兄ちゃんに近付けないから……ッ」

泣き出した茉莉が僕に抱きついて来た。ウィリアムへの怒りに震える背を撫でる。

「茉莉の気持ちはとても嬉しい。ずっと僕のために頑張ってくれたんだな」

「……うぅ……にぃ、ちゃ……」

「ごめん、ごめんな。茉莉……気持ちはすごく嬉しい。でも、僕は……」

「お、にいちゃん……?」

茉莉が顔を上げ、涙に濡れた瞳で不思議そうに僕を見た。こんなに泣かせてしまって、茉莉には申し訳ないけど。
それでもちゃんと気持ちを伝えないと。

「僕はウィリアムに会わないといけない。このまま、ウィリアムと離れたくないんだ」

「どうして?」

信じられないものを見るように茉莉の眉間に皺が寄った。理解してもらえるとは思えないけど、正直な気持ちを話す。

「ウィリアムのことは許せないし、憎いよ」

「だったら」

「でも、それだけじゃない。憎いだけじゃないんだ。だから、ウィリアムに会いたい。ウィリアムに会って気持ちを確かめたいんだ」

胸に燻り続けるこの気持ちが本物なのかどうか。

「そんな……なんで、酷いことされたんでしょ?」

「そうだよ……それは本当」

「あの子のため? 子どもがいるから」

茉莉がきつい目で眠るアルフォンスを睨んだ。僕は茉莉から息子を隠すように背で視界を遮る。

「それは違う。アルフォンスは関係ないよ。アルフォンスのためじゃない。僕は僕のために、ウィリアムに会いたい」

「また私から離れるの?」

「今度はそうならないようにするよ」

同じ過ちをウィリアムに繰り返させない。僕ももう前とは違う。

「大丈夫だから。お願い、ウィリアムに会わせて」

ウィリアムに会いたくて堪らないんだーー
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