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本編

2.聖女召喚

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僕ーー速水 莉人はやみ りひとは10歳年下の、今日で16歳になる妹ーー茉莉まりの誕生日を祝いに実家へ戻っていた。

「誕生日おめでとう、茉莉」

「ありがとう!」

バースデーケーキを持つ妹の茉莉を両親と囲み、写真を撮る。
その後は、プレゼントを渡し、夕食をとるのが恒例。今年もそうなるはずだった。

僕からのプレゼントを渡した瞬間、床に魔法陣みたいなものが浮かび上がった。

「な、何これ?!」

魔法陣から発生した青白い光が茉莉を包み込む。
茉莉は魔法陣から出ようとしているが、足が動かないと困惑している。
伸ばした手が茉莉に届くと同時に光は大きくなり僕も包み込んだ。 

「お兄ちゃん、これって……」

「茉莉」

光に阻まれ、隣に立つ妹以外、何も見えなくなった。魔法陣に吸い込まれるように床にが沈んでいく。
離れ離れにならないように茉莉の手をしっかりと握る。

「手、離しちゃダメだよ」

「分かった。でも、お兄ちゃん、これきっと」

茉莉が何かを言いかけた時、光が弾け、足元に衝撃が走った。意識が遠のく。

ぼんやりとした意識の中、誰かに名前を呼ばれた。
ゆっくりと目を開けると、光に溶けるような銀髪の小さな男の子が見えた。
とても懐かしく暖かい想いが溢れ出す。

きみはだれ?

声は音にならなかった。男の子はにっこり笑って手を振っている。

ーーもう時期会えるよ……

鈴が鳴るような愛らしい声が響く。

ーー目を覚まして。彼が待ってる。

男の子がそういうと、再び意識が薄れて行く。

待って、きみはだれなの?

問いかけに答えが返ることはなかった。



ざわざわとした声に目を覚ますと、どこか知らない場所ーー神殿のようなところで大勢の外国人に遠巻きに囲まれていた。

怖くなって後ずさると、茉莉がすぐ後ろで寝ていた。脈を取り、口に手を翳す。気を失っているだけのようだ。

「茉莉、茉莉。起きて」

「んー、もう少し寝る……」

「茉莉、ここはベッドじゃないよ。起きて」

必死に呼びかけたが、寝惚けるばかりで目を覚さない。昔から寝起きの悪い子だったけど、こんな時まで寝るなんて。

どうしようかと思っていると、一人の男性が進み出て来た。
咄嗟に妹を背に隠す。

歩み寄って来た男は僕の前に膝をつき、目線を合わせた。
長い銀髪に縁取られ美しい相貌は恐ろしいほど整っている。特にこちらを面白そうに見つめる濃紺の瞳は吸い込まれそうなほどに深い。

夜空のような美しい瞳に見惚れていると、男はそっと僕の手を取り、指先に口を寄せた。

「あの……」

驚く僕をさっと縦抱きにし、男はにこりと笑った。

「行くぞ」

「ま、待って。茉莉が……! 茉莉!!」

妹の名を叫ぶ僕の背を男は撫でる。

「安心しろ。聖女には専属がつく。不自由はさせない」

「聖女って……」

「行くぞ」

有無を言わせない口調で言い切ると、男は背後をちらりと振り返った。

「聖女さまは無事に召喚された。そちらで寝ておられる。丁重にもてなせ。私はこちらをもらって行く」

周囲にそう宣言すると、男は僕を抱えたまま歩き出した。何人かの年配の男たちが追い縋って来る。

「お待ち下さい、殿下」

「役目はもう果たした。私はしばらく籠る」

素気無く答え、歩みは止めない。

「どちらへ?!」

出入り口の扉まで来たところで、僕を抱えた男は立ち止まった。
扉の先には長い廊下が続いている。廊下の終わりは見えない。

男は周囲の者たちを鋭い視線で一蹴する。

「どちらだと? 言ったところでお前たちには入れない。安心しろ。一月もすれば顔を出す。兄上にもそう伝えておけ」

追ってきた者たちにそう命令すると、男は僕を抱えたまま、扉を潜る。



扉の外は廊下ではなく、薔薇が咲き誇る庭園だった。

「ここは……」

「ここはお前の終の住処ーー薔薇の離宮だ」





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