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掃除ロボットは大きく目を瞠った。違う、とあの人に告げたいのに、声を出すことができない。
「それとも、お前も仲間に入りたいのか?」
明らかな挑発にも、あの人は乗らなかった。あの人が何も答えないからだろう、男たちに苛立ちが見え始めた。
「おい、黙ってないで何とか言えよ!」
あの人は視線をそらすと、その場から立ち去ろうとした。
――ああ……。
掃除ロボットの胸に絶望が広がる。
「へへ、ざまあねえな」
突然、大きな鳥が視界を横切るように、黒いコートの裾がふわりと舞い降りた。ぎゃっ、と短い悲鳴が聞こえて、掃除ロボットを拘束していた男が地面に転がる。
「てめえ! 何しやがる!」
仲間の一人が取り出したナイフを、あの人の足が蹴り上げた。別の男の攻撃にも、あの人は腰を屈めてひょいっと避けると、その頬に拳を入れた。男たちが地面に倒れると、あの人は着ていたコートを脱ぎ、放心する掃除ロボットの肩に羽織らせてくれた。コートの襟元からはあの人の匂いがした。包み込まれるような安心感に満たされる。
「歩けるか?」
こくりと頷いたけれど、うまく足に力が入らなかった。そのまま置いていかれたらどうしようと焦る掃除ロボットの気持ちを見透かしたように、力強い手が肩を支えてくれた。なぜだか胸の奥が締め付けられるような切ない気持ちになる。
「いくぞ」
あの人はどこへ、とは言わなかった。けれどどこへだって構わない。たとえわずかな時間でもあの人と一緒にいられるのなら……。
借りたコートが暖かかった。とくとくと鼓動が音を立てる。掃除ロボットはあの人に気づかれないよう、コートの胸元をぎゅっと引き寄せた。
「それとも、お前も仲間に入りたいのか?」
明らかな挑発にも、あの人は乗らなかった。あの人が何も答えないからだろう、男たちに苛立ちが見え始めた。
「おい、黙ってないで何とか言えよ!」
あの人は視線をそらすと、その場から立ち去ろうとした。
――ああ……。
掃除ロボットの胸に絶望が広がる。
「へへ、ざまあねえな」
突然、大きな鳥が視界を横切るように、黒いコートの裾がふわりと舞い降りた。ぎゃっ、と短い悲鳴が聞こえて、掃除ロボットを拘束していた男が地面に転がる。
「てめえ! 何しやがる!」
仲間の一人が取り出したナイフを、あの人の足が蹴り上げた。別の男の攻撃にも、あの人は腰を屈めてひょいっと避けると、その頬に拳を入れた。男たちが地面に倒れると、あの人は着ていたコートを脱ぎ、放心する掃除ロボットの肩に羽織らせてくれた。コートの襟元からはあの人の匂いがした。包み込まれるような安心感に満たされる。
「歩けるか?」
こくりと頷いたけれど、うまく足に力が入らなかった。そのまま置いていかれたらどうしようと焦る掃除ロボットの気持ちを見透かしたように、力強い手が肩を支えてくれた。なぜだか胸の奥が締め付けられるような切ない気持ちになる。
「いくぞ」
あの人はどこへ、とは言わなかった。けれどどこへだって構わない。たとえわずかな時間でもあの人と一緒にいられるのなら……。
借りたコートが暖かかった。とくとくと鼓動が音を立てる。掃除ロボットはあの人に気づかれないよう、コートの胸元をぎゅっと引き寄せた。
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