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しおりを挟むそれから更に長いときが過ぎた。日の光が届かない地下牢にいると、一日が果てしなく長く、時間の感覚が曖昧になっていく。
フレデリックは自分の頼みを聞いてくれただろうか。たとえ専属護衛とはいえ、フレデリックはもともと王都側の人間だ。その彼が自らの身を危険に晒してまで、シュイを守ってくれるだろうか。
きりきりと心臓が痛んだ。こんなところで鎖に繋がれたまま、何もできない自分をヒースは呪った。
「くそ……っ」
牢の中を、ネズミが走る。ネズミは冷たい石牢に横たわるヒースの顔のすぐ前までくると、黒い瞳でじっと見た。
「……お前、俺を食う気か……?」
掠れた声で呟いたとたん、ヒースは咳き込んだ。胸に刺すような痛みが走る。ネズミはぱっと身を翻して逃げていった。
冷たく固い石の床は、消耗したヒースの身体の熱を確実に奪い取ってゆく。薄い毛布に包まってがたがたと震えながら、ヒースは少しでも体力を温存しようとする。シュイの治療のおかげで化膿していた傷は治ったが、ひどく具合が悪かった。熱のせいなのか、それとも別の理由があるのか、咳をするたびに頭ががんがんと痛んだ。
このままここで自分が死んだら、シュイがきっと悲しむ。そして自分のせいだと責めるだろう。そんなシュイは見たくない。だけど――。
自分はここで死ぬかもしれない……。
ヒースの脳裏に、少しずつ死というものが身近に迫りつつあった。できることならばもう一度外の新鮮な空気が吸いたい……。
突如ヒースの中に、死にたくなんかないという強い思いが沸き上がる。このまま何もできず死んでいくのは嫌だ……! せめて、シュイだけは何としてでも助けたい……!
からからと小石が転がる音が聞こえた。誰かがヒースのいるこの牢に近づいてくる。
誰だ……?
顔をうつむけながら、ヒースは全身でその人物を探ろうとする。ヒースははじめ、ついにそのときがきたのかと思った。その人物は牢に近づくと、がちゃがちゃと扉の鍵を外す音が聞こえた。それから鉄の扉がキィと軋む音も。その人物は、牢の中にまで入ってくる。
……?
ヒースは顔を上げた。朦朧とする意識の中、懸命にピントを合わせようとしたヒースの視界がようやく焦点を結ぶ。それは牢番でも王室専用の兵士でもなく、この場にいるはずのない人物だった。その人物はヒースのすぐ側まで近づくと、ぴたりと立ち止まった。感情がいっさい窺えない緑青色の瞳が、冷たくヒースを見下ろしている。
「……アルド?」
ここへくるまで当然見張りの兵士がいたはずだ。いったいどうやって……?
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