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その話はオースティンに聞いて、すでに知っていた。だがなぜマーリーン公がいまその話をするのかわからない。
ヒースに驚いたようすがないことに、マーリーン公は少しだけ意外そうな表情を浮かべた。思いがけない話の成り行きに、緊張を滲ませる兵士を振り返ると、「少しだけこの者と二人きりにしてもらえますか」と告げる。
「しかし、それはあまりに危険です……!」
「大丈夫です。逃げるつもりならいくらでも機会はあったはず。我が国の存続に関わる話――、そう、あなたの大切な石さまにも関わる話だと言ったら、あなたは聞かずにはいられないはずです。そうでしょう?」
シュイに関わる話と言われ、ヒースはそれ以上無視することもできずにこくりとうなずいた。
兵士がその場からいなくなり、マーリーン公と二人きりになると、ヒースは警戒するようにじっと見た。いったいマーリーン公が何を話すつもりなのか見当もつかない。
「あなたにひとつ提案があります。あなたにとっても悪くない話だと思うのですが」
「提案……?」
「その前に、あなたはなぜ人々がそれほどまでに石さまを尊ぶのだと思いますか」
「シュイが石を生むからか……? 幸福の象徴なんだろう?」
「ええ。幸福の象徴であることは紛れもない事実です。確かに貴石を生み出す石さまは貴重です。国内のみならず、それは同時に他国への牽制にもなる」
マーリーン公の言いたいことがわからず、ヒースは警戒を強める。そんなヒースに、マーリーン公はふっと口元に笑みを浮かべた。
「ご存じの通り、我が国の石さまは長い間貴石を生んでいません。モンド村の生き残りであるあなたがいたらひょっとしてと思ったのですが、どうやらそれも期待はずれだったようです。石さまにとってあなたはそれほどの存在じゃなかったのでしょう」
ひどいことを言われている自覚はあったが、ヒースは腹が立たなかった。それよりもいまは話の続きが気になる。
「もし仮に、我が国に新しい石さまを誕生させることができたとしたら、あなたはどう思いますか?」
「新しい石? そんなことが可能なのか?」
はじめて聞く話に、ヒースは驚きを持ってマーリーン公を見つめる。新しい石さまを誕生させる? もしそんなことが本当に可能だとしたら、王都側がシュイにこだわる理由はなくなる。だが、そんな簡単な話だろうか?
微かな希望と不安に揺れるヒースを笑うように、マーリーン公が告げたのは思ってもみないようなとんでもない話だった。
「貴石を生み出せなくなった石さまの血で、生まれたばかりの赤ん坊を満たすのだそうですよ。その中で相性のよいものだけが、石さまとして生まれ変わるのだそうです。もちろん成功するとは限りませんし、実際に確かめた者はいないので真偽のほどは定かではありません。万が一失敗したら肝心の石さまがいなくなってしまいますからね、そう簡単に試せるものではありません。できれば我々としてもそんなことはしたくはありません。――ですが……」
マーリーン公はすっかり血の気の引いたヒースを見ると、悪魔のような笑みを浮かべた。
「思いませんか? 役立たずの石さまなどがいて、何の意味があるのかと」
ヒースに驚いたようすがないことに、マーリーン公は少しだけ意外そうな表情を浮かべた。思いがけない話の成り行きに、緊張を滲ませる兵士を振り返ると、「少しだけこの者と二人きりにしてもらえますか」と告げる。
「しかし、それはあまりに危険です……!」
「大丈夫です。逃げるつもりならいくらでも機会はあったはず。我が国の存続に関わる話――、そう、あなたの大切な石さまにも関わる話だと言ったら、あなたは聞かずにはいられないはずです。そうでしょう?」
シュイに関わる話と言われ、ヒースはそれ以上無視することもできずにこくりとうなずいた。
兵士がその場からいなくなり、マーリーン公と二人きりになると、ヒースは警戒するようにじっと見た。いったいマーリーン公が何を話すつもりなのか見当もつかない。
「あなたにひとつ提案があります。あなたにとっても悪くない話だと思うのですが」
「提案……?」
「その前に、あなたはなぜ人々がそれほどまでに石さまを尊ぶのだと思いますか」
「シュイが石を生むからか……? 幸福の象徴なんだろう?」
「ええ。幸福の象徴であることは紛れもない事実です。確かに貴石を生み出す石さまは貴重です。国内のみならず、それは同時に他国への牽制にもなる」
マーリーン公の言いたいことがわからず、ヒースは警戒を強める。そんなヒースに、マーリーン公はふっと口元に笑みを浮かべた。
「ご存じの通り、我が国の石さまは長い間貴石を生んでいません。モンド村の生き残りであるあなたがいたらひょっとしてと思ったのですが、どうやらそれも期待はずれだったようです。石さまにとってあなたはそれほどの存在じゃなかったのでしょう」
ひどいことを言われている自覚はあったが、ヒースは腹が立たなかった。それよりもいまは話の続きが気になる。
「もし仮に、我が国に新しい石さまを誕生させることができたとしたら、あなたはどう思いますか?」
「新しい石? そんなことが可能なのか?」
はじめて聞く話に、ヒースは驚きを持ってマーリーン公を見つめる。新しい石さまを誕生させる? もしそんなことが本当に可能だとしたら、王都側がシュイにこだわる理由はなくなる。だが、そんな簡単な話だろうか?
微かな希望と不安に揺れるヒースを笑うように、マーリーン公が告げたのは思ってもみないようなとんでもない話だった。
「貴石を生み出せなくなった石さまの血で、生まれたばかりの赤ん坊を満たすのだそうですよ。その中で相性のよいものだけが、石さまとして生まれ変わるのだそうです。もちろん成功するとは限りませんし、実際に確かめた者はいないので真偽のほどは定かではありません。万が一失敗したら肝心の石さまがいなくなってしまいますからね、そう簡単に試せるものではありません。できれば我々としてもそんなことはしたくはありません。――ですが……」
マーリーン公はすっかり血の気の引いたヒースを見ると、悪魔のような笑みを浮かべた。
「思いませんか? 役立たずの石さまなどがいて、何の意味があるのかと」
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