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しおりを挟むピシャ……ンと、水の音が聞こえた。どこかに汚水がたまっているのだろう、ひどい臭いがした。だかそれもしばらくすると鼻が麻痺し、汚水の臭いなのかそれとも自分から臭っているのかわからなくなった。
最後に痛めつけられたときにできた傷口が化膿し、熱を持っていた。激しい悪寒に全身を震わせながら、ヒースは必死に意識を保とうとする。
あれからどれくらい時間が経っただろう。もうずっと長い間こうしている気も、反対にまだそれほど経っていない気もした。時間の感覚がおかしい。
ヒースがこの牢に捕らえられ、しばらくのうちはましだった。どんな脅迫も説得もシュイには効かず、彼が新しい貴石を生み出すことは一度もなかった。次第に王都側に焦りの色が浮かびはじめたのはそれからだ。元よりヒースのことなどはどうでもよかったのだろう。ヒースに与えられる拷問は次第に熾烈さを増した。
声は枯れ、その日が終わると治療を施された。古い傷が癒える間もなく、またすぐに新たな拷問が加えられる。いっそのこと殺してくれと願いたくなるほど、それは永遠と続くまさに地獄だった。
しかしある日を境にようすが変わった。それまで一日と置かず拷問が加えられていたのに、ふつりとなくなったのだ。一日に一度、ほんの気持ちばかりの水と食料が与えられるだけで、ヒースが捕らえられているこの牢には誰も近寄らなくなった。はじめのころは何度もヒースの元へ訪れたシュイも、ここ数日姿を見ていない。
こんなことをしても無駄だと、王都側が諦めたのならいい。だけどもしそうじゃないとしたら……。不安がヒースの胸をしめつけ、嫌なことばかりを想像してしまう。
シュイ……。シュイは無事だろうか。俺がこうなったことを、自分のせいだと責めていないだろうか。
最後に拷問を受けたときに、ヒースはひどい傷を負っていた。そのときできた傷に菌が入り、おそらくあまりよくない状態になっている。
寒い……。
ヒースは熱で朦朧としながら、鎖に繋がれたままの状態でうなだれている。そのとき、声が聞こえた。
――ヒース。
ヒースが振り返ると、そこには懐かしい我が家があった。
母さん……?
母の隣で幼い妹が料理の手伝いをしている。祖父の横で、父が道具の手入れをしていた。
父さん、じいちゃん……。
じわりと涙が滲んだ。そんなヒースを見て、母は驚いた顔をすると、その手がやさしくヒースに触れた。導かれるまま、ヒースは家族の団欒に混じる。
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