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事実、ヒースがこうなったのは誰のせいでもない、すべて自分の軽はずみな行動が招いたことだった。ヒースの思いが届いたように、シュイは微かに息を呑んだ。黙っているときは冷たく無表情にも見えるその顔が強ばり、水色の瞳が迷うように揺れるのがヒースにはわかった。
「こんなところまでわざわざお越しいただき申し訳ありませぬ。どうしても石さまに、早急にご覧になっていただきたい者がおりまして」
メトゥス王がつくったような笑みを顔に張りつけ、シュイに告げる。シュイが何も答えないと、王は気分を害したように片方の眉を上げた。
「石さまは元々あまりお話しするのが得意ではありません」
マーリーン公がささやくと、王は気を取り直したように「まあよい」と告げた。マーリーン公は無言で立つシュイに話しかけた。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。この者が暴れて手がつけられず、仕方なしにこうしている始末で……」
「嘘をつくな! お前たちがいきなり襲ってきたんじゃないか!」
ヒースが暴れると、手首に繋がれた鎖ががしゃがしゃと鳴った。
「こいつ! おとなしくしてろ!」
こめかみを殴打され、ヒースはうっ、と呻いた。マーリーン公は怒りに燃えるヒースを一瞥すると、口元に淡い笑みを浮かべた。
「ご覧の通りです。石さまの大事なご友人の方に手荒な真似はしたくないのですが、仕方ありませんね。衛兵――」
「はっ」
マーリーン公に命じられた兵士が、ヒースの口に布を噛ませた。
「うー……っ! うぅー……、うー……っ!」
獣のような唸り声を上げながら、ヒースは必死に抵抗する。暴れるヒースの頭が、兵士の頬骨のあたりをかすめた。
「くそっ、こいつ……っ!」
兵士がヒースの胸ぐらをつかみ、殴ろうとしたそのときだ。ヒースの胸元から、首から下げていた袋がぽろりと零れ出た。その袋にマーリーン公が目をとめた。
「待て。その者が身につけている袋の中身を見せてみろ」
ヒースははっとなった。マーリーン公に命じられた兵士がヒースの袋を奪おうとする。抵抗して逃げようとしても、両手を鎖に繋がれた身ではどうすることもできない。
やめろ、シュイの石に触るな……っ!
「うぅー、うー……っ、うー!」
「これは……!」
袋の中から零れ出たシュイの石が、マーリーン公の手のひらで光を放つようにきらめく。マーリーン公は矯めつ眇めつ石を眺めると、その顔に純粋な驚きを浮かべた。
「間違いありません。貴石です」
「おお……っ!」
メトゥス王はマーリーン公から石を受け取ると、かっと目を見開いた。その目は食い入るように石を凝視し、顔には紛れもない喜色が浮かんでいる。
「貴石だ! なぜこの者が貴石を持っておる!」
「こんなところまでわざわざお越しいただき申し訳ありませぬ。どうしても石さまに、早急にご覧になっていただきたい者がおりまして」
メトゥス王がつくったような笑みを顔に張りつけ、シュイに告げる。シュイが何も答えないと、王は気分を害したように片方の眉を上げた。
「石さまは元々あまりお話しするのが得意ではありません」
マーリーン公がささやくと、王は気を取り直したように「まあよい」と告げた。マーリーン公は無言で立つシュイに話しかけた。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。この者が暴れて手がつけられず、仕方なしにこうしている始末で……」
「嘘をつくな! お前たちがいきなり襲ってきたんじゃないか!」
ヒースが暴れると、手首に繋がれた鎖ががしゃがしゃと鳴った。
「こいつ! おとなしくしてろ!」
こめかみを殴打され、ヒースはうっ、と呻いた。マーリーン公は怒りに燃えるヒースを一瞥すると、口元に淡い笑みを浮かべた。
「ご覧の通りです。石さまの大事なご友人の方に手荒な真似はしたくないのですが、仕方ありませんね。衛兵――」
「はっ」
マーリーン公に命じられた兵士が、ヒースの口に布を噛ませた。
「うー……っ! うぅー……、うー……っ!」
獣のような唸り声を上げながら、ヒースは必死に抵抗する。暴れるヒースの頭が、兵士の頬骨のあたりをかすめた。
「くそっ、こいつ……っ!」
兵士がヒースの胸ぐらをつかみ、殴ろうとしたそのときだ。ヒースの胸元から、首から下げていた袋がぽろりと零れ出た。その袋にマーリーン公が目をとめた。
「待て。その者が身につけている袋の中身を見せてみろ」
ヒースははっとなった。マーリーン公に命じられた兵士がヒースの袋を奪おうとする。抵抗して逃げようとしても、両手を鎖に繋がれた身ではどうすることもできない。
やめろ、シュイの石に触るな……っ!
「うぅー、うー……っ、うー!」
「これは……!」
袋の中から零れ出たシュイの石が、マーリーン公の手のひらで光を放つようにきらめく。マーリーン公は矯めつ眇めつ石を眺めると、その顔に純粋な驚きを浮かべた。
「間違いありません。貴石です」
「おお……っ!」
メトゥス王はマーリーン公から石を受け取ると、かっと目を見開いた。その目は食い入るように石を凝視し、顔には紛れもない喜色が浮かんでいる。
「貴石だ! なぜこの者が貴石を持っておる!」
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