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しおりを挟む試合が行われる円形の野外闘技場は多くの人でごった返していた。近くで見ると、建物の大きさに圧倒される。中央の舞台をぐるりと囲むように、観覧席が配置されている。
「さあさ、誰に賭ける? 一番人気は前回の優勝者、オースティンだよ」
ハンドベルを鳴らしながら、ダフ屋が優勝者の賭を呼びかけている。皆少しでもいい席で見ようと必死で、中には専門の業者からリザーブ席のチケットを買っている者までいた。パンやオリーブ、プラムなどの軽食を販売する売り子もいて、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
「俺はオースティンに賭けるね」
「今年はイーハンだろ」
「いやいや、やっぱりオースティンには適わないね」
一番人気は前回の優勝者、オースティンという名の選手のようだ。前に進むのも苦労するほどの賑わいに、ヒースは唖然となった。いったいどれほどの人がこの会場に集まっているのだろう。
広場には、ほとんどの出場者たちがすでに集まっていた。肌の色が異なる異国の者や、まるで岩のような筋肉隆々の身体をした大男もいる。皆腕には覚えがあるようで、自分の力を見せつけるように相手を牽制する者もいれば、黙々と武器の手入れをしている者もいた。参加者たちの中では、ヒースが最年少のようだった。見るからに体格のいい男たちに囲まれて、どうしてお前のような者がここにと訝しむ視線にも構わず、ヒースは冷静に周囲のようすを窺う。試合場が最もよく見えるテラス上の貴賓席はいまは空席で、シュイの姿は見えない。そのとき、ヒースの行く手を塞ぐ者があった。
「お嬢ちゃん、いる場所を間違えてないか。観覧席はあっちだぜ」
ヒースの胴ほどの腕をした男が、ばかにしたように笑った。
「間違いじゃない。俺も出場者だ」
「そんな細っこいなりでか? やめとけ、時間の無駄だ。けがする前にさっさと帰ったほうがいい」
「けがをするとは限らない」
真面目な顔で答えたヒースに、男は面白い冗談でも聞いたかのような表情を浮かべた。
「こいつぁいい。このかわいいお嬢ちゃんは俺たちに勝つつもりのようだぜ」
男の言葉に、周囲の男たちがどっと笑った。ヒースは声をかけてきた男を冷静に見た。
「見た目で判断するのは愚かだとは思わないのか」
「何!?」
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