いしものがたり

午後野つばな

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 ヒースは朝一番で受付をすませると、時間を潰すため町のほうへと足を向けた。試合は九時からだった。ヒースの出番は二番目だ。シュイの本心を確かめたい、そのためにはどうしてももう一度シュイに会う必要があった。
 考え事をしながら歩いていると、いつの間にか先日の通りのほうまできていた。そういえば前に会ったりんご売りの子どもはどうしているだろう。手の傷はもう治っただろうか。物が崩れる大きな音と共に、悲鳴が聞こえたのはそのときだ。
「誰か……っ、サリムさまを助けてください……っ! お願いです……っ!」
 はっと顔を向けると、フードで顔を隠した女性が路地に倒れ、必死に叫んでいた。その前を二人の男が周囲の人を押しのけ、屋台に並べられていた商品を崩すように、猛烈な勢いでヒースのいるほうへと駆けてくる。一人の男の腕には十歳くらいの子どもが気を失っているのか、ぐったりしたようすで抱えられていた。
「どけどけ、邪魔だ! 邪魔をすると痛い目に遭うぞ!」
 男が握っている大型のナイフを恐れてか、皆子どものようすを気にしつつも遠巻きにして眺めている。ヒースは男たちの進路を塞ぐように立った。
「何だお前、殺されたいのか!」
「殺されたくはないが、この場を動く気はない」
「何?」
 屈強な男たちと比べて、ヒースは頭ひとつ分くらい小さい。男たちの顔に、ヒースを侮るような余裕の笑みが浮かんだ。ナイフを握っている男がいたぶるようにヒースの顔の前に刃先を近づける。それを見ていた観衆から悲鳴が上がった。
「このままじゃあの少年が刺されちまうよ」
「誰か、衛兵を呼んできとくれ」
 顔の前にナイフを突きつけられても、ヒースは動じなかった。周囲の状況を冷静に判断しながら、男たちとの間合いをはかる。
「てめえ……っ」
 ヒースの態度にカッとなった男が、ナイフを振り上げる。周囲から悲鳴が上がった。男が武器も持たず、自分よりも力のなさそうなヒースを見くびっているのは明らかだった。だが、ヒースの目にはろくに稽古もせず、自らの力を過信している男の隙がありありと見えた。
 ヒースは地を蹴ると、逃げるのではなく反対に男との間合いを詰めた。
「な……っ!?」  
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