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男たちのやり取りを耳にしながら、ヒースはきょうこれからのことを考えると、気が引きしまる思いがした。村から出てもずっと稽古は続けていた。しかし、ヒースに実戦の経験はほとんどない。自分の腕がどの程度まで通用するかはわからない。
「だけど何でそんな大会に出たいんだ? 前に言っていた”石さま”に会うためか?」
気がつけば、アルドがじっとヒースを見ていた。その顔には人好きのする笑みが浮かんでいる。
そうだ、と答えたヒースに、アルドはふっと真顔になると、何を考えているのかわからない表情で「へえ……」と呟いた。男の目が一瞬だけひどく冷たくなった気がして、ヒースは思わず手を止めた。よく知っているはずの仕事仲間の顔をじっと見る。するとその視線に気づいたアルドが、ヒースを見てにやっと笑った。
「そうか、それは会えるといいなあ」
「ああ……」
一瞬自分が何か違うものを目にした気がして、ヒースは瞬きする。気のせいか……?
「大会で優勝したら褒美がたんまりもらえるんだろう。万が一優勝したら、俺たちにもわけてくれよな」
「いいぜ、好きなだけご馳走してやるよ」
アルドの軽口に、場が盛り上がる。アルドはどういうつもりかわからないが、誰も本気でヒースが優勝を狙っているとは思っていないようすだった。
男たちのやり取りを眺めながら、ヒースは先ほど自分が感じた違和感について考える。
あらためて考えてみれば、アルドはよくわからないやつだった。気がつけばその場にいて、誰とでもすぐに打ち解けるように思える反面、相手の心の奥底まで見透かすような、ひどく冷静で冷めた目をしていることがあった。
こいつは誰の紹介だっただろう。確かヒースが王都へきて、ほぼ同時期にやってきたのだと思う。特別何か問題があるわけではない。逆にその愛想のよさでどこの現場でもすぐにとけ込んでしまう。だけどヒースの直感が、こいつはどこか信用ができないと告げている。もちろんただの思い過ごしかもしれないが……。
――おれのことはわすれて。ヒースが知るおれはもういない。
ふいにシュイの言葉が蘇り、ヒースは顔を曇らせる。
あの日自分が目にしたものは、果たしてシュイの本心だったのだろうか。ヒースにはどうしてもそうは思えなかった。ひょっとしたら見間違いであることも考えたが、誰よりもシュイのことを知る自分が、よりによって彼の言葉を読み違えるはずがない。
シュイ、もう一度会って、お前の本心を確かめる。
ヒースは胸元の袋をぎゅっと握りしめると、固く決意した。
「だけど何でそんな大会に出たいんだ? 前に言っていた”石さま”に会うためか?」
気がつけば、アルドがじっとヒースを見ていた。その顔には人好きのする笑みが浮かんでいる。
そうだ、と答えたヒースに、アルドはふっと真顔になると、何を考えているのかわからない表情で「へえ……」と呟いた。男の目が一瞬だけひどく冷たくなった気がして、ヒースは思わず手を止めた。よく知っているはずの仕事仲間の顔をじっと見る。するとその視線に気づいたアルドが、ヒースを見てにやっと笑った。
「そうか、それは会えるといいなあ」
「ああ……」
一瞬自分が何か違うものを目にした気がして、ヒースは瞬きする。気のせいか……?
「大会で優勝したら褒美がたんまりもらえるんだろう。万が一優勝したら、俺たちにもわけてくれよな」
「いいぜ、好きなだけご馳走してやるよ」
アルドの軽口に、場が盛り上がる。アルドはどういうつもりかわからないが、誰も本気でヒースが優勝を狙っているとは思っていないようすだった。
男たちのやり取りを眺めながら、ヒースは先ほど自分が感じた違和感について考える。
あらためて考えてみれば、アルドはよくわからないやつだった。気がつけばその場にいて、誰とでもすぐに打ち解けるように思える反面、相手の心の奥底まで見透かすような、ひどく冷静で冷めた目をしていることがあった。
こいつは誰の紹介だっただろう。確かヒースが王都へきて、ほぼ同時期にやってきたのだと思う。特別何か問題があるわけではない。逆にその愛想のよさでどこの現場でもすぐにとけ込んでしまう。だけどヒースの直感が、こいつはどこか信用ができないと告げている。もちろんただの思い過ごしかもしれないが……。
――おれのことはわすれて。ヒースが知るおれはもういない。
ふいにシュイの言葉が蘇り、ヒースは顔を曇らせる。
あの日自分が目にしたものは、果たしてシュイの本心だったのだろうか。ヒースにはどうしてもそうは思えなかった。ひょっとしたら見間違いであることも考えたが、誰よりもシュイのことを知る自分が、よりによって彼の言葉を読み違えるはずがない。
シュイ、もう一度会って、お前の本心を確かめる。
ヒースは胸元の袋をぎゅっと握りしめると、固く決意した。
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