6 / 108
1
1-4
しおりを挟む
――ヒースとシュイはまるでジュンシとダーチみたいだ。いいなあ……。
幸いヒースのけがは捻挫程度ですんだが、大人たちに怒られているヒースを見て、タイシはどこかうらやましそうな顔で呟いた。
双子のジュンシとダーチはいつも一緒で、言葉にしなくても互いの気持ちがわかるようなところがあった。それだけではない、まるで魂の一部を共有するかのように通じ合っているように思えた。実際ジュンシのほうがけがをしたのに、なぜかしばらくしてダーチも同じ場所をけがするなんてこともあった。
血はつながっていないが、幼いころから一緒に育ったということならヒースとシュイも同じだ。シュイがどこからきたのかなんて関係ない。ヒースにとって、シュイは大切な家族も同然だった。
ヒースはそうだ、と思い出した。
「この間きのこが多く自生している場所を見つけたんだ。今度シュイを連れていくよ」
ヒースがシュイと並んで話をしている背後から、あーあ、とため息を吐くような声が聞こえてきた。ヒースが何だ、と思って振り返ると、先ほどまで村祭りの話で盛り上がっていた少年たちがヒースたちを見て、納得するような表情でうなずき合っていた。
「村で一番人気のナンサが今年は誰かから花を受け取るかもしれないって盛り上がってるのに、肝心のヒースの関心事といったらきのこ汁のこととシュイのことだもんなあ」
「仕方ないよ、ヒースとシュイは昔からいつも一緒だもの」
「ヒースにはシュイがいるからナンサの出番はないかあ」
「だとしたら、ほかのやつにもチャンスがあるかもな」
いったい何を言われているのかわからないヒースとシュイは、顔を見合わせる。
「何言ってんだ、誰もきのこ汁の話なんかしてないぞ」
真面目な顔で問い返したヒースに、少年たちは毒気を抜かれたように吹き出した。
「お腹が空いた。早く村に戻ろうぜ」
「お前がきのこ汁の話なんかするからだろう」
「ヒース、次は絶対に負けないからな!」
少年たちが話をしているのを、隣を歩くシュイがにこにこしながら聞いている。おとなしくて気持ちのやさしいシュイは、普段は育て親でもある老婆の仕事を手伝っている。ヒースたちのように稽古に励んで、いつか守り人になりたいという気持ちもないようだ。
日が暮れはじめた山の空気は澄んで、一気に氷のようになる。濃紺の空に星が瞬いていた。村へ近づくにつれ、ヒースは普段は静かな村のようすがいつもと違うことに気がついた。
「あれ、村長たちだ。一緒にいるのは誰だろう」
タイシの声に、ジュンシとダーチが顔を見合わせる。
幸いヒースのけがは捻挫程度ですんだが、大人たちに怒られているヒースを見て、タイシはどこかうらやましそうな顔で呟いた。
双子のジュンシとダーチはいつも一緒で、言葉にしなくても互いの気持ちがわかるようなところがあった。それだけではない、まるで魂の一部を共有するかのように通じ合っているように思えた。実際ジュンシのほうがけがをしたのに、なぜかしばらくしてダーチも同じ場所をけがするなんてこともあった。
血はつながっていないが、幼いころから一緒に育ったということならヒースとシュイも同じだ。シュイがどこからきたのかなんて関係ない。ヒースにとって、シュイは大切な家族も同然だった。
ヒースはそうだ、と思い出した。
「この間きのこが多く自生している場所を見つけたんだ。今度シュイを連れていくよ」
ヒースがシュイと並んで話をしている背後から、あーあ、とため息を吐くような声が聞こえてきた。ヒースが何だ、と思って振り返ると、先ほどまで村祭りの話で盛り上がっていた少年たちがヒースたちを見て、納得するような表情でうなずき合っていた。
「村で一番人気のナンサが今年は誰かから花を受け取るかもしれないって盛り上がってるのに、肝心のヒースの関心事といったらきのこ汁のこととシュイのことだもんなあ」
「仕方ないよ、ヒースとシュイは昔からいつも一緒だもの」
「ヒースにはシュイがいるからナンサの出番はないかあ」
「だとしたら、ほかのやつにもチャンスがあるかもな」
いったい何を言われているのかわからないヒースとシュイは、顔を見合わせる。
「何言ってんだ、誰もきのこ汁の話なんかしてないぞ」
真面目な顔で問い返したヒースに、少年たちは毒気を抜かれたように吹き出した。
「お腹が空いた。早く村に戻ろうぜ」
「お前がきのこ汁の話なんかするからだろう」
「ヒース、次は絶対に負けないからな!」
少年たちが話をしているのを、隣を歩くシュイがにこにこしながら聞いている。おとなしくて気持ちのやさしいシュイは、普段は育て親でもある老婆の仕事を手伝っている。ヒースたちのように稽古に励んで、いつか守り人になりたいという気持ちもないようだ。
日が暮れはじめた山の空気は澄んで、一気に氷のようになる。濃紺の空に星が瞬いていた。村へ近づくにつれ、ヒースは普段は静かな村のようすがいつもと違うことに気がついた。
「あれ、村長たちだ。一緒にいるのは誰だろう」
タイシの声に、ジュンシとダーチが顔を見合わせる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
恋愛
第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
転生者はめぐりあう(チートスキルで危機に陥ることなく活躍 ストレスを感じさせない王道ストーリー)
佐藤醤油
ファンタジー
アイドルをやってる女生徒を家まで送っている時に車がぶつかってきた。
どうやらストーカーに狙われた事件に巻き込まれ殺されたようだ。
だが運が良いことに女神によって異世界に上級貴族として転生する事になった。
その時に特典として神の眼や沢山の魔法スキルを貰えた。
将来かわいい奥さんとの結婚を夢見て生まれ変わる。
女神から貰った神の眼と言う力は300年前に国を建国した王様と同じ力。
300年ぶりに同じ力を持つ僕は秘匿され、田舎の地で育てられる。
皆の期待を一身に、主人公は自由気ままにすくすくと育つ。
その中で聞こえてくるのは王女様が婚約者、それも母親が超絶美人だと言う噂。
期待に胸を膨らませ、魔法や世の中の仕組みを勉強する。
魔法は成長するに従い勝手にレベルが上がる。
そして、10歳で聖獣を支配し世界最強の人間となっているが本人にはそんな自覚は全くない。
民の暮らしを良くするために邁進し、魔法の研究にふける。
そんな彼の元に、徐々に転生者が集まってくる。
そして成長し、自分の過去を女神に教えられ300年の時を隔て再び少女に出会う。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
DNAの改修者
kujibiki
ファンタジー
転生させられた世界は、男性が少なく、ほとんどの女性は男性と触れ合ったことも無い者ばかり…。
子孫は体外受精でしか残せない世界でした。
人として楽しく暮らせれば良かっただけなのに、女性を助ける使命?を与えられることになった“俺”の新たな日常が始まる。(使命は当分始まらないけれど…)
他サイトから急遽移すことになりました。後半R18になりそうなので、その時になれば前もってお知らせいたします。
※日常系でとってもスローな展開となります。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
【完結】素直になれない意地っ張り令嬢、ツンデレ極めたら愛され令嬢になりまして。
Rohdea
恋愛
意地っ張りで、なかなか素直になれなれない伯爵令嬢アニエス。
ツンツンした態度と可愛くない言動のせいで、
いつしか、ついた渾名は“嫌味令嬢”
なかなか良縁に恵まれない日々が続いていた。
ある日、そんなアニエスの元に
数年前から突然行方をくらましていた幼馴染かつ淡い初恋の相手、ナタナエルが戻って来た。
アニエスの素直になれない性格もツンツンした可愛くない態度も
まるっと受け入れてくれようとするナタナエル。
そんな彼に、いつしか絆されて少しずつ心を開いていくアニエス。
しかし、そんなアニエスの元に、
彼の“婚約者”だと名乗る令嬢が現れる。
どうやら、ナタナエルはアニエスに秘密にしていたことがあったようで───?
★なぜか終わらずに現在も連載投稿中の
『王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして』
こちらの話の主人公から知らぬ間に
“大親友”
認定をされていたツンデレ苦労性令嬢の話★
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~
更楽 茄子
ファンタジー
テトテヲトッテ、略して『テトテト』
田舎出身の神官の少女と少し陰のある格闘家の青年のお話
テーマは『ほっこり時々異種族』
判り易さ重視のキャラ設定濃い目でお送りします
後付けで設定乗せれる緩い世界
荒かったけどなんかいい話だったって思ってもらえる様に頑張ります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる