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Case 2 ~インドア男子⑤~
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「ど、どどどどどどどどうしましょう!!! こ、ここここれから!!」
「お、おおおおおおおお落ち着け! 大丈夫だから!」
豊橋さんは一足先に駅へ着くなり、早速電話で泣きついてきた。
あの様子だ。
本来であれば、今すぐ自宅のベッドに潜り込み、自らの黒歴史の数々を懺悔し、そのまま過去として永遠に封印するという応急処置を行う必要がある。
しかし、恋愛はテンポが命だ。
ここでデートを後日に回してしまえば、ただでさえ半信半疑の安城が完全に心を閉ざしてしまう。
くれぐれも念を入れておくが、安城の中ではまだ何も始まっていない(米原のせいで)。
そのため、豊橋さんには悪いが血まみれのまま、作戦続行と行かせてもらう。
無論、ここで彼女に対して『己の信ずるままやってみろ!』などと、どこぞの毒親の如き体の良い放任主義ならぬ厄介払いで、突き放す気はさらさらない。
何故なら、キャラにないことをするシンドさというものは、俺自身がよく分かっているつもりだからだ。
だから、ここは人生の先輩(言い出しっぺ)として、ある程度の道を示してやる必要がある。
「とりあえず、だな……。まずは安城のタイプから、おさらいだ。豊橋さん。安城はどんなタイプだ?」
「え、えっと……。羽島さんと同じ陰キャです!」
よし。米原を○そう。
まさか、アイツの悪い影響がこうしてカタチになって現れてしまうとは……。
「……まぁそういうことだ。それを踏まえて聞く。俺が喜びそうなことは何だ?」
「ごめんなさい。分かりません」
「お、おう。そう食い気味に即答されると、何とも言えん気分になるな……。じゃあ今度は逆説的に聞く。俺が嫌がりそうなことは何だ?」
「わ、分かりませんが、好きな映画を馬鹿にされたり、とか? ですか?」
「そう! それだ! 要するにな。俺みたいなタイプは一丁前に自分の世界ってモンを持ってんだよ。それを否定されるのが一番傷つくし、それを侵害してきた相手をこれでもかというほど敵視する」
「な、なるほど……」
「だから、まずは加点されるよりも減点されないように気をつけろ。ヤツの趣味はサブカル全般だが、中途半端に知ったような口で喋ることだけは避けた方が良い。アイツの趣味に興味を示してやることは大事だが、知識で太刀打ちできない話題に深入りするべきではない」
「で、でもそれなら、何の話をすればいいんでしょうか?」
「例えば、だな。アイツの私物でキャラ物とかあったりするだろ? それで『あっ! この子、私の好きなブランドでコラボしてた~(棒)』とか言ってみろ。勝手にベラベラ話し出すから。その流れだと自己開示もしてる分、話も弾みやすい」
「な、なるほど。勉強になります……」
「どっちにしてもだな。趣味への言及は良いが、干渉は絶対にNGだ。趣味の否定は、価値観の否定だ。逆に言えば、それ以外は何をしても大丈夫とも言える。押しに弱いところもあるから、豊橋さんが積極的にリードすればイチコロのメロメロだ(死語)」
「は、はぁ……」
「ただ気をつけろ。ヤツは今、失恋っつぅ、20数年間で免疫を身につけられなかった病に冒されている。突発的に精神がおかしくなる可能性も否定できないから、何かあったら連絡をくれ」
「わ、分かりました! 不安ですけど、やってみます!」
彼女はそう高らかに宣言し、電話を切った。
「ふぅ……」
「おっ! 終わったか? 彼女、大丈夫そうか?」
「あぁ。まぁ何とかな」
「そっか! いやぁ、彼女も大変だな。お前の趣味に付き合わされて」
「ぐっ。それを言われると弱い……」
「自覚してんなら、あんまり無理はさせるなよ! さっきも言ったけど、お前の意図はなんとなく分かる。けど、所詮はお前のエゴでもあるからな」
「分かってるよ……」
他人に言われずとも、分かる。
そのくらい自分自身で何度も問うている。
俺のエゴに彼女を付き合わせる筋合いなどどこにもない。
「まぁお前のことだから、ノイローゼになるくらいイロイロ考えてんだろうけどよ。『あー! 俺はどこまで彼女に踏み込むことが許されるのだろうかー(棒)』みたいな?」
うるさい。
イチイチ見透かしたような口を利くな。
「……俺のことなんてどうでもいいだろ。これから米原お得意のストーキング活動だ」
「あれ? 俺もうそんな位置付けなの? 俺は不審者だけど、ストーカーじゃねぇぞ!!」
「何だよそのよく分からんプライド……。まぁどうでも良い。行くぞ!」
「あっ! ちょい待てっての!」
相も変わらず、分かったような口を利く米原に気分を害されながらも、俺たちは豊橋さんと安城の待つ決戦場へ急いだ。
「お、おおおおおおおお落ち着け! 大丈夫だから!」
豊橋さんは一足先に駅へ着くなり、早速電話で泣きついてきた。
あの様子だ。
本来であれば、今すぐ自宅のベッドに潜り込み、自らの黒歴史の数々を懺悔し、そのまま過去として永遠に封印するという応急処置を行う必要がある。
しかし、恋愛はテンポが命だ。
ここでデートを後日に回してしまえば、ただでさえ半信半疑の安城が完全に心を閉ざしてしまう。
くれぐれも念を入れておくが、安城の中ではまだ何も始まっていない(米原のせいで)。
そのため、豊橋さんには悪いが血まみれのまま、作戦続行と行かせてもらう。
無論、ここで彼女に対して『己の信ずるままやってみろ!』などと、どこぞの毒親の如き体の良い放任主義ならぬ厄介払いで、突き放す気はさらさらない。
何故なら、キャラにないことをするシンドさというものは、俺自身がよく分かっているつもりだからだ。
だから、ここは人生の先輩(言い出しっぺ)として、ある程度の道を示してやる必要がある。
「とりあえず、だな……。まずは安城のタイプから、おさらいだ。豊橋さん。安城はどんなタイプだ?」
「え、えっと……。羽島さんと同じ陰キャです!」
よし。米原を○そう。
まさか、アイツの悪い影響がこうしてカタチになって現れてしまうとは……。
「……まぁそういうことだ。それを踏まえて聞く。俺が喜びそうなことは何だ?」
「ごめんなさい。分かりません」
「お、おう。そう食い気味に即答されると、何とも言えん気分になるな……。じゃあ今度は逆説的に聞く。俺が嫌がりそうなことは何だ?」
「わ、分かりませんが、好きな映画を馬鹿にされたり、とか? ですか?」
「そう! それだ! 要するにな。俺みたいなタイプは一丁前に自分の世界ってモンを持ってんだよ。それを否定されるのが一番傷つくし、それを侵害してきた相手をこれでもかというほど敵視する」
「な、なるほど……」
「だから、まずは加点されるよりも減点されないように気をつけろ。ヤツの趣味はサブカル全般だが、中途半端に知ったような口で喋ることだけは避けた方が良い。アイツの趣味に興味を示してやることは大事だが、知識で太刀打ちできない話題に深入りするべきではない」
「で、でもそれなら、何の話をすればいいんでしょうか?」
「例えば、だな。アイツの私物でキャラ物とかあったりするだろ? それで『あっ! この子、私の好きなブランドでコラボしてた~(棒)』とか言ってみろ。勝手にベラベラ話し出すから。その流れだと自己開示もしてる分、話も弾みやすい」
「な、なるほど。勉強になります……」
「どっちにしてもだな。趣味への言及は良いが、干渉は絶対にNGだ。趣味の否定は、価値観の否定だ。逆に言えば、それ以外は何をしても大丈夫とも言える。押しに弱いところもあるから、豊橋さんが積極的にリードすればイチコロのメロメロだ(死語)」
「は、はぁ……」
「ただ気をつけろ。ヤツは今、失恋っつぅ、20数年間で免疫を身につけられなかった病に冒されている。突発的に精神がおかしくなる可能性も否定できないから、何かあったら連絡をくれ」
「わ、分かりました! 不安ですけど、やってみます!」
彼女はそう高らかに宣言し、電話を切った。
「ふぅ……」
「おっ! 終わったか? 彼女、大丈夫そうか?」
「あぁ。まぁ何とかな」
「そっか! いやぁ、彼女も大変だな。お前の趣味に付き合わされて」
「ぐっ。それを言われると弱い……」
「自覚してんなら、あんまり無理はさせるなよ! さっきも言ったけど、お前の意図はなんとなく分かる。けど、所詮はお前のエゴでもあるからな」
「分かってるよ……」
他人に言われずとも、分かる。
そのくらい自分自身で何度も問うている。
俺のエゴに彼女を付き合わせる筋合いなどどこにもない。
「まぁお前のことだから、ノイローゼになるくらいイロイロ考えてんだろうけどよ。『あー! 俺はどこまで彼女に踏み込むことが許されるのだろうかー(棒)』みたいな?」
うるさい。
イチイチ見透かしたような口を利くな。
「……俺のことなんてどうでもいいだろ。これから米原お得意のストーキング活動だ」
「あれ? 俺もうそんな位置付けなの? 俺は不審者だけど、ストーカーじゃねぇぞ!!」
「何だよそのよく分からんプライド……。まぁどうでも良い。行くぞ!」
「あっ! ちょい待てっての!」
相も変わらず、分かったような口を利く米原に気分を害されながらも、俺たちは豊橋さんと安城の待つ決戦場へ急いだ。
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