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14 デレが、かすりもしません

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「ああ、メルディおはよう。今日は中央教会に行くんだろう? 私は用があって一緒に行けないけれど、アレクシスが一緒に行くからね」
 眩い笑顔と共に、デレチャンス到来だ。

「私は、サウリ様と一緒がいいです」
 久しぶりの心からの本音に思わず感情がこもり、上目遣いにも気合が入る。
 だが、サウリは特に感銘を受ける様子もなく、メルディの頭を優しく撫でた。

「ごめんね。また今度ね」
 そう言うと、あっという間にメルディの前から立ち去っていく。
 まさに子供をあしらうそれだ。


「デレすら、かすりもしない……」
 打ちひしがれ、その場にしゃがみこんだメルディの傍らに、一つの影が近付く。

「……サウリ叔父さんじゃなくて、悪かったな」
 見上げてみればアレクシスが不満そうに口を尖らせている。
 だが、メルディはそれどころではない。

 ここひと月ほどずっと頑張ってきたが、まったくツンデレの成果は出ていないし、今後の見込みも正直厳しい。
 やはり、試練十年コースか。
 いや、このままだと十年経っても成果は期待できない。
 悲しくなってきて、思わず涙ぐんでしまう。

 俯いたメルディの目の前に手が差し出され、見上げてみればアレクシスが不機嫌そうな顔のままこちらを見ていた。
 メルディの潤んだ目に気付いたらしいアレクシスは何かを言いかけたようだが、そのまま口を引き結んだ。

「……中央教会、行くんだろう? 俺が一緒に行く。サウリ叔父さんにはなれないけれど、ちゃんとメルディを守るから」

 嫌っているはずのメルディに対しても、この真摯な態度とは。
 どうやらメルディ程度でも、涙にはそれなりの効力があるようだ。
 今度サウリに試してみようか。

 ……いや、ますます子ども扱いされて終わる気がする。
 何とも、ままならないものだ。

 とりあえずは中央教会に行かなければいけない。
 中央教会に出掛けると連絡したから、サウリとアレクシスが孤児院に来たのだ。
 これで出かけないとなれば、それはツンデレではなくて、ただの嘘つきだ。
 メルディはサウリに好かれたいだけなので、嘘つきになる気もないし、迷惑もかけたくない。
 アレクシスの手を取ると、そのまま馬車に乗り込んだ。



 動き出した馬車の中でふと見てみると、心なしかアレクシスの顔が赤い。
 陰になっているから、そう見えるだけだろうか。
 今日も腰には剣を佩いており、揺れる馬車に合わせて時折鞘と椅子がぶつかる音が聞こえる。

 アレクシスは一つ年下だが、数年前に身長を抜かれて以来、差は開くばかりだ。
 こうして改めて見てみると、年下という感じがあまりしないし、十五歳にしてはなかなか大人っぽく見えると思う。
 対してメルディは十六になったのに、色気も胸もろくに出てこない。
 出てくるのはため息ばかりだ。

「……どうしたんだ?」
「え?」
 いつの間にか俯いていた顔を上げると、アレクシスが不思議そうにこちらを見ている。

「ため息をついているし。さっきも何だか泣きそうだったし……」
「何でもないの。ちょっと、色々……ままならないだけ」
 教会に行くからと同行してもらっているのに、ため息をついているなんてさすがに失礼な話だろう。
 メルディは気を引き締めて、姿勢を正した。


 ――そうだ。
 一応アレクシスも男性で、しかも貴族で、サウリの甥だ。
 貴族的な視点で、メルディの改善点を教えてもらえるかもしれない。

「ねえ、アレクシス。私、少しは魅力があると思う?」
「――は?」
 アレクシスの眉間に一気に皺が寄る。

「だから、女性として。ちょっと色気はないのよね。孤児だから生まれと育ちも微妙だろうし。教養やマナーも最低限教わっていても、貴族のお嬢様の足元にも及ばないでしょう? ……まあ、髪と瞳の色は悪くないと思っているけど」

 メルディの淡い金髪は日の光を紡いだようと褒められたことがあるし、浅緑の瞳も綺麗だと言われたことがある。
 どちらもサウリが褒めてくれたのだが……どう考えても、女性として見た言葉ではない気がする。
 どちらかと言えば、野に咲く花に美しいというのに似ている。
 あるいは、畑の作物が豊作だと褒めるようなものだ。

「……あ、やっぱりいいわ。何だか空しくなってきた」
 ここでメルディを嫌っているアレクシスにぼろくそに言われるのも切ないし、気を使われたらそれも切ない。

「何なんだよ、一体」
 眉間の皺をさらに増やして、アレクシスがメルディを見つめる。
「何でもないわ。ごめんなさい」

 今は聖女を目指して頑張るしかない。
 本当に、それくらいしかメルディにできることはないのだ。
 それならば、もっと前向きなことを聞いた方がいいだろう。 


「……ねえ。貴族男性からすると、どんな女性が魅力的なものなの?」
「はあ? さっきから何なんだ、おまえ」

「教えてくれてもいいでしょう? 近所のお兄さんやお姉さんを見る限り、平民では器量よし愛嬌よしで、家事能力の高い女性が早めに結婚しているのよね。貴族だとどう違うの? やっぱり血筋や家柄? 本人同士よりも、家の繋がりの方が大事って聞いたことがあるけれど」

 血筋や家柄ならば、メルディには付け入る隙が欠片もない。
 だが、逆にそう言った権威が有効ならば、聖女の肩書に意味があるとも言える。
 縋るような気持ちで見つめていると、アレクシスが視線を逸らした。
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