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13 特別な人だから
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院長にサウリと同じことを言われ、今後中央教会に行く時には連絡することを約束させられたメルディは、ため息をつきながら院長の部屋を出る。
すると、それを待っていたかのようにアニタとトニが駆け寄ってきた。
「メルディ、おかえり。院長先生にメルディが出掛けたって伝えたら、サウリ様に連絡しないといけないって慌てていたけれど。何かあったの? 大丈夫だった?」
「うん。別に何もないわ。何かあるといけないから、一人で行動しないようにって言われたけれど」
「まあ、聖女候補だもんな。最近、人攫いの噂もあるらしいし、気を付けるこしたことはないのか」
双子と共に食堂に向かうと、コップに水を入れて一気に飲み干す。
「それで、サウリ様が馬車で迎えに来てくれたんでしょう?」
「うん。サウリ様とアレクシスもいたわ」
迷惑をかけたという負い目はあるものの、サウリが心配してくれたのは事実だ。
たとえメルディの望む好意はないのだとしても、嬉しい気持ちが膨らむ。
「でも、アレクシスまで怒るなんて意外だったわ。私のことは嫌いでも、そのあたりの正義感はあるということかしら。あるいはサウリ様に何か言われたんでしょうね」
すると、トニが何とも言えない哀れみに似た表情でメルディを見ている。
「何?」
「いや。……ちょっと、同情するなあ、と」
「だから、メルディにはツンデレなんて無理なんだってば」
聞き捨てならない言葉に、メルディは空のコップを机に置いた。
「アニタ、酷い。私だって頑張っているのに」
「人には向き不向きがあるのよ」
「向いてなくても、私はツンデレになるの!」
すべては、サウリのそばにいるために。
――だって、サウリはメルディにとって特別な人だから。
――あれは、十歳の頃だった。
メルディは孤児院の近くにある木の根元でどんぐりを拾っていた。
途中まではアニタとトニが一緒だったが、二人はトイレに行き、メルディ一人でどんぐり拾いを続けていたのだ。
その時、見知らぬ男が二人近付いて来た。
何かを言っていたが、もう憶えていない。
突然腕を掴まれて、引きずるようにして連れ去られそうになった。
メルディは必死に抵抗したが、十歳の子供の力なんてたかが知れている。
どうにか逃げようと男の腕に噛みつくと、頬を殴られた。
痛みと恐怖で涙が出てきて、体が言うことを聞いてくれない。
――この男に連れ去られるのだ、殺されるのかもしれない。
そんな絶望に心が染まりそうになった時、一人の少年が声をあげた。
少年がメルディを背に庇うが早いか、声を聞きつけた男性がやって来た。
貴族と思しき男性は、あっという間に男二人を倒して少年と共にいたメルディに声をかけてくれた。
その少年がアレクシス、貴族の男性がサウリだ。
安心して大泣きしたメルディは、サウリに抱っこされている間に寝てしまった。
サウリの腕の中はいい匂いがして、その匂いで安心したのを覚えている。
トイレから戻ったアニタとトニにより修道院の人間だとわかり、送ってもらい……今日に至る。
あれ以来大人の男性が怖くて、養子の話も流れに流れたが、あの時サウリが来なかったらと思うとぞっとする。
話によると、サウリは昔騎士だったことがあるらしく、だからあんなに強いのだとわかった。
サウリは恩人で、同時にメルディの初恋の相手だ。
颯爽と助けてくれたこともそうだが、その後の修道院への関わり方や優しい心配りにますます好意をつのらせた。
――結婚するなら、サウリがいい。
小さい頃はそれがかなうものだと愚かにも信じていたが、年を重ねるごとに自身とサウリの境遇の差を痛感していく。
相手は伯爵、対してメルディはただの孤児で、年の差も十四もある。
サウリに会ってからそれなりに身だしなみには気を付けるようにしているが、所詮は子供。
大人の男性を夢中にさせるだけのものなど持っていない。
妻になるのは無理だろうと気付き、せめて愛妾でもと思うようになっていたが、最近ではそれすらも厳しいだろうと薄々わかってきた。
メルディは孤児院にいるから、その様子を見に来たサウリに会えるのだ。
孤児院を出てしまえば、話しかけることすらも難しい間柄になる。
サウリに会えるのは、あと少ししかないのだ。
だが聖女になれば、ただの孤児のメルディと違って、公の立場を得ることができる。
これがおそらく最後のチャンス。
だからメルディは諦めるわけにはいかないのだ。
……なのに、大人の男性は手強かった。
ツンツンした物言いにしても、サウリは笑顔で流してしまう。
懸命に『素直じゃない』を実行してはいるが、ただの子供のわがままのような気がしてきた。
ツンがろくに効果をあげられていないだけでもつらい。
だが、それでも素直じゃない感じは、ほんのり伝わっているはずだ。
そして今日はついに『ツン9:デレ1』のデレを実行する日。
これできっと印象が変わるはず。
――目指せツンデレ、ギャップ萌え。
心の中で自分を鼓舞すると、メルディはサウリのそばに近付いた。
すると、それを待っていたかのようにアニタとトニが駆け寄ってきた。
「メルディ、おかえり。院長先生にメルディが出掛けたって伝えたら、サウリ様に連絡しないといけないって慌てていたけれど。何かあったの? 大丈夫だった?」
「うん。別に何もないわ。何かあるといけないから、一人で行動しないようにって言われたけれど」
「まあ、聖女候補だもんな。最近、人攫いの噂もあるらしいし、気を付けるこしたことはないのか」
双子と共に食堂に向かうと、コップに水を入れて一気に飲み干す。
「それで、サウリ様が馬車で迎えに来てくれたんでしょう?」
「うん。サウリ様とアレクシスもいたわ」
迷惑をかけたという負い目はあるものの、サウリが心配してくれたのは事実だ。
たとえメルディの望む好意はないのだとしても、嬉しい気持ちが膨らむ。
「でも、アレクシスまで怒るなんて意外だったわ。私のことは嫌いでも、そのあたりの正義感はあるということかしら。あるいはサウリ様に何か言われたんでしょうね」
すると、トニが何とも言えない哀れみに似た表情でメルディを見ている。
「何?」
「いや。……ちょっと、同情するなあ、と」
「だから、メルディにはツンデレなんて無理なんだってば」
聞き捨てならない言葉に、メルディは空のコップを机に置いた。
「アニタ、酷い。私だって頑張っているのに」
「人には向き不向きがあるのよ」
「向いてなくても、私はツンデレになるの!」
すべては、サウリのそばにいるために。
――だって、サウリはメルディにとって特別な人だから。
――あれは、十歳の頃だった。
メルディは孤児院の近くにある木の根元でどんぐりを拾っていた。
途中まではアニタとトニが一緒だったが、二人はトイレに行き、メルディ一人でどんぐり拾いを続けていたのだ。
その時、見知らぬ男が二人近付いて来た。
何かを言っていたが、もう憶えていない。
突然腕を掴まれて、引きずるようにして連れ去られそうになった。
メルディは必死に抵抗したが、十歳の子供の力なんてたかが知れている。
どうにか逃げようと男の腕に噛みつくと、頬を殴られた。
痛みと恐怖で涙が出てきて、体が言うことを聞いてくれない。
――この男に連れ去られるのだ、殺されるのかもしれない。
そんな絶望に心が染まりそうになった時、一人の少年が声をあげた。
少年がメルディを背に庇うが早いか、声を聞きつけた男性がやって来た。
貴族と思しき男性は、あっという間に男二人を倒して少年と共にいたメルディに声をかけてくれた。
その少年がアレクシス、貴族の男性がサウリだ。
安心して大泣きしたメルディは、サウリに抱っこされている間に寝てしまった。
サウリの腕の中はいい匂いがして、その匂いで安心したのを覚えている。
トイレから戻ったアニタとトニにより修道院の人間だとわかり、送ってもらい……今日に至る。
あれ以来大人の男性が怖くて、養子の話も流れに流れたが、あの時サウリが来なかったらと思うとぞっとする。
話によると、サウリは昔騎士だったことがあるらしく、だからあんなに強いのだとわかった。
サウリは恩人で、同時にメルディの初恋の相手だ。
颯爽と助けてくれたこともそうだが、その後の修道院への関わり方や優しい心配りにますます好意をつのらせた。
――結婚するなら、サウリがいい。
小さい頃はそれがかなうものだと愚かにも信じていたが、年を重ねるごとに自身とサウリの境遇の差を痛感していく。
相手は伯爵、対してメルディはただの孤児で、年の差も十四もある。
サウリに会ってからそれなりに身だしなみには気を付けるようにしているが、所詮は子供。
大人の男性を夢中にさせるだけのものなど持っていない。
妻になるのは無理だろうと気付き、せめて愛妾でもと思うようになっていたが、最近ではそれすらも厳しいだろうと薄々わかってきた。
メルディは孤児院にいるから、その様子を見に来たサウリに会えるのだ。
孤児院を出てしまえば、話しかけることすらも難しい間柄になる。
サウリに会えるのは、あと少ししかないのだ。
だが聖女になれば、ただの孤児のメルディと違って、公の立場を得ることができる。
これがおそらく最後のチャンス。
だからメルディは諦めるわけにはいかないのだ。
……なのに、大人の男性は手強かった。
ツンツンした物言いにしても、サウリは笑顔で流してしまう。
懸命に『素直じゃない』を実行してはいるが、ただの子供のわがままのような気がしてきた。
ツンがろくに効果をあげられていないだけでもつらい。
だが、それでも素直じゃない感じは、ほんのり伝わっているはずだ。
そして今日はついに『ツン9:デレ1』のデレを実行する日。
これできっと印象が変わるはず。
――目指せツンデレ、ギャップ萌え。
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