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4 邪な祈りと、浮かぶツンデレ
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大木の根元まで来ると、マルコは恭しく大木に頭を下げた。
「世界樹、ですか」
「名前を聞いたことはありますか?」
「教会で、少しだけなら」
確か、この世界を作った神が汚れを清めるために遺したとか何とか。
信仰心が薄いメルディからすると、そういうおとぎ話の一種なのだと思っていたが、実在するものだったのか。
「中央教会の崇める神の分身と言われていますね」
「……それで、何故私はここに連れて来られたのでしょうか」
どう考えても、ただの孤児がふらりと覗ける場所ではないはずだが。
だがマルコはその質問には答えず、メルディにその場にひざまずくように言った。
「ではメルディさん。この世界樹に祈ってください」
「祈る?」
笑顔を向けられても、指示の意味がよくわからない。
「何をですか?」
「何でも結構ですよ」
何でもと言われても、困る。
とりあえず言われた通りにひざまずいてみるが、やはり祈ることなどない。
普通に考えれば、教会で祈るのだから神への感謝あたりだろう。
だが、メルディは孤児だし、誘拐されかかったこともある。
その程度で済んだと言われればそうかもしれないが、何となく神という存在が自分を大切にしてくれているという感覚はなかった。
なので、当然感謝の心は薄い。
こんな適当な気持ちで祈られても、神も世界樹も困るだろう。
となると、メルディが本当に祈りたいこと、望むことの方がいいかもしれない。
メルディは手を組むと、目を閉じて一心に祈った。
――メルディ・マキラになりたい。
邪な祈り……というか願いを捧げていると、頭上がにわかに騒がしくなってきた。
何事かと見上げると、世界樹の枝葉がざわざわと音を立てている。
風が吹いているわけではない。
メルディの頭上の枝葉だけが、忙しなく揺れているのだ。
謎の光景に目を奪われていると、突然低い枝に花の蕾のようなものが現れ、あっという間に薄い緑色の花が咲いた。
マルコは混乱するメルディの手を取って立たせると、花をじっと見てうなずいた。
「メルディさん、この花を見つめてください」
「……はい」
ここで抵抗する理由もないので、素直に視線を花に固定する。
じっと見ていると、メルディの瞳の浅緑色に似ている気がしてきた。
その瞬間、冷たい風のようなものがメルディの体と頭を吹き抜け、一つの言葉が脳裏に浮かんだ。
―― 『ツ ン デ レ』
「え?」
思わず眉を顰めると、マルコが慌てて手を振っている。
「今、頭に浮かんだ言葉は、口にしないでください」
「は、はい」
「メルディさんは、聖女を知っていますか?」
「教会にいる尊い人、ですよね」
昔教会で聞いた話を必死に思い出して答えると、マルコはうなずいた。
どうやら、当たっていたらしい。
「大体、そんな感じです。その聖女を選ぶのがこの世界樹で……メルディさんは、聖女候補のようです」
「え? でも、聖女って尊い人なんですよね? 私はただの孤児ですけれど」
平民の中でも、立場的にはかなり下の方にいるはずだ。
間違っても、尊い人なんてものに縁はない。
「聖女か否かは、血筋や立場や年齢などに関係ありません。この世界樹に花を咲かせた時点で、聖女候補として扱われます」
「花」
見上げてみれば、確かに浅緑色の花が咲いている。
急に咲いたのは確かに不思議ではあるが、だからと言って受け入れられる話ではない。
「候補になると、どうなるんですか?」
もしかして、候補だからと言って無償で働かされたりするのだろうか。
だがマルコはサウリと知り合いらしいから、さすがにそんな詐欺の様な真似をするとは思いたくない。
「ここから神の試練を乗り越えると、この花が実をつけます。そこまで行けば、ほぼ聖女で間違いありません」
だから安心しろと言わんばかりの笑顔に、どうやらそもそもの認識が違いすぎるのだと気付く。
「そう言われても。私は別に、聖女になりたいわけじゃありません」
メルディのその一言に、マルコの笑顔が固まった。
どうやら、聖女を否定されるとは思わなかったらしい。
「あ、ええと。そもそも聖女って何をするんですか?」
あまりの狼狽ぶりに少し可哀そうになり質問をすると、マルコの表情が一気に明るくなった。
いい歳だろうに、ちょっと面倒臭い。
「そうですね。主に世界樹の世話や祭事に出席することです。基本的には存在するだけで浄化の力がありますね。希少な存在ですから、国から金銭的な補助もありますし、手厚い保護を受けられます。もちろん、大変に名誉なことです」
「金銭的援助、ですか」
いくら出るのかは知らないが、それならば今までお世話になった孤児院に恩返しができるかもしれない。
少し心が動いたところで、ふと疑問が湧いてくる。
「あの、何故私はここに連れて来られたのですか?」
結果的には世界樹に花が咲いたので、聖女候補なのかもしれない。
だが、それは試してみるまで誰にもわからないことではないか。
「聖女は性別を問わないとはいえ、女性が圧倒的に多いです。また、瞳の色に特徴があります。貴族では社交界デビューの時に教会の神官が確認をして、可能性のある者は今と同じ選定を受けることになっています」
「世界樹、ですか」
「名前を聞いたことはありますか?」
「教会で、少しだけなら」
確か、この世界を作った神が汚れを清めるために遺したとか何とか。
信仰心が薄いメルディからすると、そういうおとぎ話の一種なのだと思っていたが、実在するものだったのか。
「中央教会の崇める神の分身と言われていますね」
「……それで、何故私はここに連れて来られたのでしょうか」
どう考えても、ただの孤児がふらりと覗ける場所ではないはずだが。
だがマルコはその質問には答えず、メルディにその場にひざまずくように言った。
「ではメルディさん。この世界樹に祈ってください」
「祈る?」
笑顔を向けられても、指示の意味がよくわからない。
「何をですか?」
「何でも結構ですよ」
何でもと言われても、困る。
とりあえず言われた通りにひざまずいてみるが、やはり祈ることなどない。
普通に考えれば、教会で祈るのだから神への感謝あたりだろう。
だが、メルディは孤児だし、誘拐されかかったこともある。
その程度で済んだと言われればそうかもしれないが、何となく神という存在が自分を大切にしてくれているという感覚はなかった。
なので、当然感謝の心は薄い。
こんな適当な気持ちで祈られても、神も世界樹も困るだろう。
となると、メルディが本当に祈りたいこと、望むことの方がいいかもしれない。
メルディは手を組むと、目を閉じて一心に祈った。
――メルディ・マキラになりたい。
邪な祈り……というか願いを捧げていると、頭上がにわかに騒がしくなってきた。
何事かと見上げると、世界樹の枝葉がざわざわと音を立てている。
風が吹いているわけではない。
メルディの頭上の枝葉だけが、忙しなく揺れているのだ。
謎の光景に目を奪われていると、突然低い枝に花の蕾のようなものが現れ、あっという間に薄い緑色の花が咲いた。
マルコは混乱するメルディの手を取って立たせると、花をじっと見てうなずいた。
「メルディさん、この花を見つめてください」
「……はい」
ここで抵抗する理由もないので、素直に視線を花に固定する。
じっと見ていると、メルディの瞳の浅緑色に似ている気がしてきた。
その瞬間、冷たい風のようなものがメルディの体と頭を吹き抜け、一つの言葉が脳裏に浮かんだ。
―― 『ツ ン デ レ』
「え?」
思わず眉を顰めると、マルコが慌てて手を振っている。
「今、頭に浮かんだ言葉は、口にしないでください」
「は、はい」
「メルディさんは、聖女を知っていますか?」
「教会にいる尊い人、ですよね」
昔教会で聞いた話を必死に思い出して答えると、マルコはうなずいた。
どうやら、当たっていたらしい。
「大体、そんな感じです。その聖女を選ぶのがこの世界樹で……メルディさんは、聖女候補のようです」
「え? でも、聖女って尊い人なんですよね? 私はただの孤児ですけれど」
平民の中でも、立場的にはかなり下の方にいるはずだ。
間違っても、尊い人なんてものに縁はない。
「聖女か否かは、血筋や立場や年齢などに関係ありません。この世界樹に花を咲かせた時点で、聖女候補として扱われます」
「花」
見上げてみれば、確かに浅緑色の花が咲いている。
急に咲いたのは確かに不思議ではあるが、だからと言って受け入れられる話ではない。
「候補になると、どうなるんですか?」
もしかして、候補だからと言って無償で働かされたりするのだろうか。
だがマルコはサウリと知り合いらしいから、さすがにそんな詐欺の様な真似をするとは思いたくない。
「ここから神の試練を乗り越えると、この花が実をつけます。そこまで行けば、ほぼ聖女で間違いありません」
だから安心しろと言わんばかりの笑顔に、どうやらそもそもの認識が違いすぎるのだと気付く。
「そう言われても。私は別に、聖女になりたいわけじゃありません」
メルディのその一言に、マルコの笑顔が固まった。
どうやら、聖女を否定されるとは思わなかったらしい。
「あ、ええと。そもそも聖女って何をするんですか?」
あまりの狼狽ぶりに少し可哀そうになり質問をすると、マルコの表情が一気に明るくなった。
いい歳だろうに、ちょっと面倒臭い。
「そうですね。主に世界樹の世話や祭事に出席することです。基本的には存在するだけで浄化の力がありますね。希少な存在ですから、国から金銭的な補助もありますし、手厚い保護を受けられます。もちろん、大変に名誉なことです」
「金銭的援助、ですか」
いくら出るのかは知らないが、それならば今までお世話になった孤児院に恩返しができるかもしれない。
少し心が動いたところで、ふと疑問が湧いてくる。
「あの、何故私はここに連れて来られたのですか?」
結果的には世界樹に花が咲いたので、聖女候補なのかもしれない。
だが、それは試してみるまで誰にもわからないことではないか。
「聖女は性別を問わないとはいえ、女性が圧倒的に多いです。また、瞳の色に特徴があります。貴族では社交界デビューの時に教会の神官が確認をして、可能性のある者は今と同じ選定を受けることになっています」
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