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王妃様は最強です

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「さてアーサー、此度は少々おいたが過ぎたのう」

王妃様は、右手に持っていた扇子を、左手にペシペシとやりながら、第一王子殿下を見下ろします。

そして一言、

「落とし前は必要ですわね」

と、おっしゃいました。正直怖いです。


「義母上!私はただヘンリエッタとの愛を貫きたいだけなのです!」

第一王子は、相変わらず芝居がかったセリフを、ほざいています。

「どこぞの男爵令嬢と婚姻を結ぶと宣言したそうですけれど、相違はありませんか」

ですが、王妃様はそのような訴えをガン無視して話を進めています。震えます。怖い。

王妃様は、先ほどまで王が座っていた玉座に座り、王同様、入室を許可していないピンク色の男爵令嬢を無視しながら、第一王子を見下ろして問いかけました。

「はい。私はこのヘンリエッタとの愛を貫きたいのです。」

「アーサー様!」

すかさずピンク色の男爵令嬢の合いの手が入ります。手を胸元でにぎりしめ、クネクネしながらの上目遣い。
お胸を強調するように、自らの両腕で挟み込んだり、持ち上げたりしているのは、もう癖になってしまった動きということでしょうか。
正直、下品過ぎて気持ち悪いですが、第一王子には効果的なのでしょうね。


「その男爵家には当主を代わってもらう必要がありますが、良いのですか」

「どういうことですか?」

「そなたが降夫するのだから、当然そうなると思ったのですが、もしや平民になって男爵令嬢とやらとの愛を貫くつもりでしたか?それならそれで…むしろそちらの方がよろしいですね」

王妃は少し感心したようにうなづく。

「私は平民になどなりませんが…?」

第一王子はまったくわからないといった顔で返しています。本当に理解していなかったようですね。驚きです。

「そうですか。では、婚姻をし、爵位を継いだら報告するがよいぞ」

有無を言わさぬ勢いで、王妃は言い放ち席を立たれます。

「は、義母上!お待ちください!どういうことですか?…私はこの国の第一王子で、時期国王です。…いったいどこの爵位を継ぐというのですか?あと、私の婚姻の儀は国を挙げて催されるはずでは」

王妃は立ち上がったまま、さも面倒くさそうに第一王子を見下ろし、

「何を言うておる。シャーロットと婚姻しなければ、お主は王になどならぬわ」

貴族であるなら誰でも知っている事実を突きつけました。
…誰でも知っていると思ってたのですけれどもね。

「はぁ?!」

この鳩に豆鉄砲くらったようなポカン顔をしているお二方は、認識されていなかったのですね。

「庶子のお主には王位継承権などないと知っておろう。」

「「はぁぁ?!」」

「王位継承権を持っているのはシャーロットじゃ。だが、シャーロットが女王は嫌だと申すでの、婚約者であるそなたが王になり、シャーロットが王妃になって実質的には、シャーロットが執政を取り仕切ることになっていると以前より説明しているはずじゃ。でなければ、時期国王が帝王学や政治、外交などを学びもせず、王や私の補佐もせず、女の尻を追いかけてばかりいられまい」

「そんな…」

「そうじゃ、妾妃予定であった四人の姫には、そなたから断りを入れよ。平民の姫であればそのまま妾に収まるやもしれぬが、伯爵令嬢であれば周りの反対もあろう」

「私は幼少の頃から王になると言われ続けて…」

第一王子は、ここにきてようやく己が仕出かしたことの重大さを理解し始めたようです。

真実を認識して、顔面蒼白な第一王子の隣で、近衛兵達に囲まれながらもお元気な様子のピンク色の男爵令嬢は、その面の皮の厚さに尊敬の念すら浮かんできます。

「そんなのおかしいです!第一王子と結婚すれば、普通は王妃ですよ?どうしてシャーロットなんかが王妃なんですか?どう考えてもあたしの方がふさわしいですよね?」

発言権のない者からのあまりにもの不敬な行動に、ガチャリと近衛兵が動きます。

「よい。放っておけ。これ以上、私から話すことはない。」

入室した時以上に冷たい威圧感を放ちながら王妃が退出し、私もそれに続きます。

第一王子はただただ見送るしかないようです。

「アーサー様!どういうことですか?あたしが王妃になるんですよね?…ちょっと!シャーロット!待ちなさいよ!あんた悪役令嬢の癖になんでのうのうとエラそーにしてるわけ?あたしちゃんと第一王子エンドしたじゃない!どうして王妃になれないの?バグなの?」

ピンク色の男爵令嬢の意味不明な金切り声が響きます。おっしゃってることはわかりませんが、私を貶めているということは伝わってきます。

もういいでしょう。

「この者たちを【灰の間】に、連れていって下さい。お二人一緒にです。監視の者は、部屋の中に二人と、部屋の外は通常通りに。」

「はっ!」

近衛兵は直ちに二人を丁寧に拘束し、部屋の外に連れ出しました。

灰の間とは、身分の高めな者を取り敢えず監禁するお部屋です。
調度品などは、それなりに整えておりますが、地下にあって窓がなく、扉も重く頑丈で、逃げ出すことは不可能に近いと言われています。

「何するのよ!あたしはヒロインなんだからねー!」

彼女のある意味強い心は、この国のために活かすことは出来ないでしょうかね。
たしかに、一昔前の勇者並みの素晴らしい鈍感力をお持ちのようです。
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