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September
9月17日(火) 畔上翔真の受難
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今日はいつもと何かが違う。
いつものように朝補習へと向かうため、朝早くから自転車に跨った俺は妙な空気を感じていた。
理由はない。根拠もない。
ただ何となく、居心地の悪さを覚えてそう思っただけ。
漕ぎ出すペダルは普段よりも重たく感じ、空模様も生憎の曇天。
どうか無事な一日でありますように……。
♦ ♦ ♦
などと思ってみても、そう上手くはいかないのが現実というものである。
朝補習の終わりまでは、何事もなく進んでいた日常であるが、予感の示すとおりにそれ以降は困った出来事の連続に見舞われてしまう。
「おい、翔真。お客さんが来てるぞ」
クラスメイトの声を聞き、指し示された教室入口に目を向けると、そこには小さくも可愛らしい少女が立っていた。
目が合い、ペコりと頭を下げる小動物感。学年で統一された校章などの色から一年生の後輩だと理解する。
「…………またか。今日で何度目だよ」
「……大漁?」
そらと倉敷さんは息の合ったように、そう呟いた。
その言葉通り、今回の分を数えずにかれこれ七回。
手紙が二、言葉が五と、普段なら一日に一回あるかないかの告白を今日に限り、何度も受けている。
「――そんで、あの子は手紙だったわけか」
カウントが増え、手紙が三、言葉が五の計八回。
綺麗な薄ピンク色の封筒を差し出され、「わ、私の気持ちです……! 読んでください!」などと一方的に告げられた俺は、自分の席に戻るなり、前に座る親友に経緯を説明していた。
「……手紙ってさ、一番困るんだよね。無理だ――って返事をしたいんだけど、そのためにこっちも手紙を送るのか、はたまた直接答えを言いに会いに行くのか……。どっちにしても、な行動でどう反応すればいいんだろうか……」
疲れてため息を吐く俺に、しかし、そらは厳しい言葉しか吐いてくれない。
「いや、恋愛経験のない俺に聞かれても困るんだが……。ていうか、それはモテない俺に対する嫌味か? あ? 喧嘩なら買うぞ」
「…………薄情者」
シュッシュっとその場でシャドーボクシングの真似事をする彼。
そもそもが誰とも付き合う気も、恋愛をする気もないくせによくもぬけぬけとそんなことが言えたものだ。
倉敷さんもその幼馴染と一緒に楽しんでいるだけだし、何故か詩音さんはこの話に一切関心を向けてくれないし……俺の味方はどこにもいない。
♦ ♦ ♦
驚くべきことに、それは放課後になっても続いた。
いや、勢いを増した。
授業が終わったのであろう別高校の生徒らが、体育館へと押し寄せてきたのだ。
何でも例のテレビ番組を見たことが原因らしく、わざわざ告白に来る者、一目見に来た者、中には差し入れを持ってきた者など枚挙にいとまがない。
おかげで、差し入れ禁止のルールを守るべくマネージャー達が止めに入ったり、それでも数が多すぎるため外練の一年生にも手伝ってもらったりと、対処に大忙しだった。
…………本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいである。
けれど、宥め終えたあともあとで、また大変。
そのまま見学ムードへと移行した彼女らは、黄色い声と絡みつく視線をともに向けてきた。
違った環境での練習は臨機応変さを生み、良い刺激にもなる――とは言うけれど、これはさすがに度が過ぎている。
自分たちが見られているわけでもないのだけど……いや、むしろそれが影響しているのか、部員たちも居心地が悪そうだ。
このことは、職員室でも話題になったのだろう。
顧問にすぐに呼び出されてしまった。
「――おい、畔上。……話は聞いた」
「……………………はい」
「お前が原因……とまでは言うつもりもないが、部長なんだ。部員と部活は、手前で守れよ」
「…………はい」
取り敢えず、帰ったら今日が厄日か調べよう……。
いつものように朝補習へと向かうため、朝早くから自転車に跨った俺は妙な空気を感じていた。
理由はない。根拠もない。
ただ何となく、居心地の悪さを覚えてそう思っただけ。
漕ぎ出すペダルは普段よりも重たく感じ、空模様も生憎の曇天。
どうか無事な一日でありますように……。
♦ ♦ ♦
などと思ってみても、そう上手くはいかないのが現実というものである。
朝補習の終わりまでは、何事もなく進んでいた日常であるが、予感の示すとおりにそれ以降は困った出来事の連続に見舞われてしまう。
「おい、翔真。お客さんが来てるぞ」
クラスメイトの声を聞き、指し示された教室入口に目を向けると、そこには小さくも可愛らしい少女が立っていた。
目が合い、ペコりと頭を下げる小動物感。学年で統一された校章などの色から一年生の後輩だと理解する。
「…………またか。今日で何度目だよ」
「……大漁?」
そらと倉敷さんは息の合ったように、そう呟いた。
その言葉通り、今回の分を数えずにかれこれ七回。
手紙が二、言葉が五と、普段なら一日に一回あるかないかの告白を今日に限り、何度も受けている。
「――そんで、あの子は手紙だったわけか」
カウントが増え、手紙が三、言葉が五の計八回。
綺麗な薄ピンク色の封筒を差し出され、「わ、私の気持ちです……! 読んでください!」などと一方的に告げられた俺は、自分の席に戻るなり、前に座る親友に経緯を説明していた。
「……手紙ってさ、一番困るんだよね。無理だ――って返事をしたいんだけど、そのためにこっちも手紙を送るのか、はたまた直接答えを言いに会いに行くのか……。どっちにしても、な行動でどう反応すればいいんだろうか……」
疲れてため息を吐く俺に、しかし、そらは厳しい言葉しか吐いてくれない。
「いや、恋愛経験のない俺に聞かれても困るんだが……。ていうか、それはモテない俺に対する嫌味か? あ? 喧嘩なら買うぞ」
「…………薄情者」
シュッシュっとその場でシャドーボクシングの真似事をする彼。
そもそもが誰とも付き合う気も、恋愛をする気もないくせによくもぬけぬけとそんなことが言えたものだ。
倉敷さんもその幼馴染と一緒に楽しんでいるだけだし、何故か詩音さんはこの話に一切関心を向けてくれないし……俺の味方はどこにもいない。
♦ ♦ ♦
驚くべきことに、それは放課後になっても続いた。
いや、勢いを増した。
授業が終わったのであろう別高校の生徒らが、体育館へと押し寄せてきたのだ。
何でも例のテレビ番組を見たことが原因らしく、わざわざ告白に来る者、一目見に来た者、中には差し入れを持ってきた者など枚挙にいとまがない。
おかげで、差し入れ禁止のルールを守るべくマネージャー達が止めに入ったり、それでも数が多すぎるため外練の一年生にも手伝ってもらったりと、対処に大忙しだった。
…………本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいである。
けれど、宥め終えたあともあとで、また大変。
そのまま見学ムードへと移行した彼女らは、黄色い声と絡みつく視線をともに向けてきた。
違った環境での練習は臨機応変さを生み、良い刺激にもなる――とは言うけれど、これはさすがに度が過ぎている。
自分たちが見られているわけでもないのだけど……いや、むしろそれが影響しているのか、部員たちも居心地が悪そうだ。
このことは、職員室でも話題になったのだろう。
顧問にすぐに呼び出されてしまった。
「――おい、畔上。……話は聞いた」
「……………………はい」
「お前が原因……とまでは言うつもりもないが、部長なんだ。部員と部活は、手前で守れよ」
「…………はい」
取り敢えず、帰ったら今日が厄日か調べよう……。
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