彼と彼女の365日

如月ゆう

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June

6月22日(土) 戻り始めた日常①

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 変わってしまった日常。いつもと異なる現実。
 登校するも、誰一人として語り合ってくれる者はおらず、そのまま授業を受け、お昼を食べ、虚しく放課後へと突入する。

 今、流れているのはそんな廃れた、見るも無残な孤独な学園生活。
 ――などではない。

 文化祭の事件もどこ吹く風で、未だにクラスメイトの多くとは微妙な距離感を保っているものの、一方の俺たちはそらや倉敷さんとの仲を取り戻しつつあった。

 とはいえ、その距離感というのも悪意から発せられたようなものなどではなく、陰口を叩く者や邪推する者はもういない。
 ただ、あれだけ悪口を言った手前バツが悪く、今は様子見をしているというだけ。

 だからこそ、クラスの架け橋――というわけでもないけど、こうして俺や詩音さんが普段通りの振る舞いをすることで歩み寄るきっかけになればいいと思っていた。

 朝、登校してくる彼らの様子は、相も変わらず一緒である。
 低血圧らしい倉敷さんを、そらが手を握って連れる――そんな普段と同じ光景。

 休み時間であってもそれは変わらず、事件が起きる前も、後も、そして解決した今も殆ど変化のないありのままの二人だった。

 土曜補講ということで、午前授業を終えて銘々に教室を出て行くクラスメイトをよそに、そらは椅子を蹴ると立ち上がる。
 その手にはランチバッグが携えられていた。

「それじゃ翔真、飯食って部活行こうぜ」

「だな。大会まで一週間切ったし、頑張らないと」

 もう、ぎこちなさというものは殆ど消えた。
 彼ら同士は変わりなく、彼らと俺らでも変わりはなくなってきている。

 そんな日常的な行動に妙な安心感を覚えていると、倉敷さんも声を上げた。

「私たちも食べよ、詩音」

「うん……! というか、かなちゃんは今日も部活に来るの?」

「モチのロン。せっかくそらも大会に出るんだし」

 向こうも同じ。
 そして、そんな過ぎ行く日々にクラスメイトはモヤモヤしている。

 謝ればいい話。たった一言、あの日の俺たちのように伝え、許しをもらえればそれで済む。
 もちろん、それは彼らも分かっているのだろうし、逆にいえばそんなことをしなくとも二人は受け入れてくれると思う。

 だけど、その行為は思いのほか難しいようだ。

 彼らの気持ちは分からないでもない。
 自分の非を認め、強く吐いた言葉を撤回し、謝罪する――というのは誰しもができることではないだろう。

 大抵のことは時間が解決してくれる、という言葉があるようにほとぼりが冷めるまで待ちたくなる。
 時間こそかかれど、楽で、負担のない方法なのだから。

 また、そもそもの話、そらも倉敷さんも周りと距離が近いようなタイプではない。
 一部の――それこそ、俺や詩音さんくらいとしか話している姿を見ないが、そのことが起因している可能性も十分にある。

 でも、だからこそ、今のこの状況を距離を詰めるためのきっかけにしてもらいたいと、俺は切に願っている。

 部活動関連の生徒以外は残っていない静かな教室。その中で、四人で囲む騒々しい昼餉。
 食べているお弁当は、あの時に比べてとても温かかった。
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