彼と彼女の365日

如月ゆう

文字の大きさ
上 下
25 / 284
April

4月24日(水) ハッピーバースデー①

しおりを挟む
「せーの……」

『誕生日おめでとう!』

「菊池さん」
「詩音」
「詩音さん」

 現在はお昼休み。
 早々に弁当を食べ終えた俺たちは、当初より予定していたプレゼント渡しを行っていた。

「まぁ、まずは俺からだな。はい、コレ」

「あ、ありがとう……蔵敷くん」

 差し出したのは、普通に包装された直方体の箱。
 店員にお願いして包んでもらっただけの簡易なソレを開ければ、中にはメモ帳と付箋のセットが入っている。

「へぇー、カバーにクッションが入っているんだ……」

「そそ。枕ノートって商品名で、その名の通り枕としても扱えるらしいよ。まぁ、そういう使い方をしなくても、見た目的に良いかなって思ってのチョイスだけど」

 そしてもうひとつの付箋は、かなたから教えてもらった菊池さんの大好きなキャラクター付箋だ。

 なるべく普段使いもできるようなものを選んだので、大丈夫だと思いたい。

 一頻り喜んでもらえた後に渡した次の人物は翔真。

「はい詩音さん、俺からも」

 細長い、ペンケースにも似た箱を差し出すと、何故か菊池さんは驚いたような視線を向けていた。

「えっ……なん――」

 途中まで紡がれた言葉が不自然に途切れる。

「――……ありがとう、翔真くん」

 お互いににこやかな笑顔を交わす二人。
 けれど、その少し前に妙な目配せをしていた男がいたことに、俺は気づいていた。

 そうして箱から姿を見せたのは、木目がオシャレな木製のシャープペンシル。
 天然木らしく、柔らかくも上品なデザインとなっている。俺も欲しい。

「……わぁ、素敵!」 

「本当は名前やメッセージを表面に入れることもできたんだけど、俺が詩音さんの名前を入れるのもおかしな話だし、『Happy Birthday』なんて入れるのも見栄え的にどうかと思って止めたんだ。ごめんね」

「うぅん、すごい嬉しい……! ありがとう!」

 そんな心温まる光景を目の当たりにしていると、ツンツンと肩をつつかれた。

「……ねぇ、畔上くんにしてはチョイスが普通じゃない? 身に付ける系のあざといやつだと思ってた」

 見やれば、かなたが耳に口元を寄せて話しかけてくる。
 そして、予想が鋭い。

「女性が相手だから気を使ったんじゃねーの? ほら、アイツにはファンが多いから、下手なものあげると嫉妬でどうなるか分からんだろ」

 まぁ、だからこうやってカモフラージュまでして、あの石のストラップをあげたんだろうけどな。

 イケメンって大変だ。

「…………そっか」

 納得したのか、渋々と引き下がった。
 そして最後が、その彼女の番である。

「詩音、コレどうぞ」

 そう言って手渡したのは、これまでの男性陣とは少し異なり、オシャレにデコレーションされた紙製の袋。ドーナツ屋やパン屋で包まれる系のアレ。

「かなちゃんも、ありがとう!」

 中身を取り出せば、そこには一緒に行った買い物で購入していたヘアアクセサリーと、そしてマスキングテープだった。

「……あっ、このヘアアクセ…………」

「そ、詩音と一緒に見に行ったやつだよ」

 そして同時に、俺と買いに行ったやつでもある。

「やっぱり可愛いなぁ。さすがに学校には付けてこられないけど……」

「だねー。プライベートのお供にして」

 だがまぁ、ブレスレットとしても扱えるという話だったし、装飾華美で校則違反の扱いを受けることだろう。
 それ故に紡がれた会話だった。

「わー、こっちのマスキングテープも可愛い……!」

 また、一緒に入っていたもうひとつのプレゼントへと話題は移る。

 こちらは俺にも心当たりがない品物なのだが……おそらくは、俺がプレゼントを買った店で見つけたのだと思う。
 会計の時は、互いに別行動をしていたしな。

「うん、だと思った。詩音が好きそうな柄だったから、一緒に買ってみたんだ」

 かなたがそう伝えれば、菊池さんは嬉しそうに頷いて俺たちのプレゼントを抱える。
 何度もお礼を言いながら――。


 ♦ ♦ ♦


「……で、何を隠してるの?」

 昼休みも終わり五限目に入ろうかという最中、背もたれに体重を預けたかなたは俺にそう問いかけてきた。

「……は? 何のことだ?」

 しかしまぁ、心当たりが全くと言っていいほどにない。
 いくら俺たちの仲とはいえ、目的語は明確にしてもらわないと汲み取れんぞ。

「畔上くんのプレゼントのこと。そら、何か隠してるでしょ?」

「…………………………………………」

 だからか、咄嗟のこと故に何も答えられなかった。
 わずかな沈黙が過ぎ、俺はようやく口を開く。

「……なんでそう思った?」

 そう問えば、少し悩んだように小首を傾げ、語尾に疑問調を残したままこう答えた。

「んー、何となく……?」

「…………そうかい」

 なんという勘。最早どうしようもない。
 チョイチョイと手招きをすると、後頭部をペタンと俺の机に乗せて俺の顔を見上げるような姿勢を取る。

 俺はその耳元に口を寄せた。

「……あくまで俺の予想だぞ? だから、本人たちにも伝えるなよ」

 コクリと小さく頷かれる。

「菊池さんがこの前から石のストラップを付け始めただろ?」

「あぁー、うん。あったね。……というか、今もあるね」

「それ……多分、翔真の本命のプレゼントだぞ」

 俺の言葉に、静かに姿勢を戻したかなたは前の様子を窺う。
 同じように俺も見てみれば、こっそりと、しかし確かに指先で例の石を突っついて遊んでいた。

 それも、口角が僅かに上がった状態で。

「マジか……畔上くん、やるなー」

 …………違いない。

 入れ違いに登場した先生のせいで伝えられなかった返答を、心の中でそっと呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです

珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。 それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

私の日常

友利奈緒
青春
特になし

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...