彼と彼女の365日

如月ゆう

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April

4月22日(月) 石言葉

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 週の開けた月曜日。
 その度に感じるこの先一週間への倦怠感を押し殺しながら、俺たちは今日も登校をする。

「あっ……かなちゃん、蔵敷くん、おはよう」

「はよー、詩音」
「……おう、おはよう」

 いつも通りの挨拶、そして自席に鞄を置けば、かなたと菊池さんはおしゃべりを開始する。

 普段ならば俺も後ろを向いて、友と益体のない会話を興じるのだが、残念なことにそこには誰もいなかった。

 ……まぁ、鞄は横に掛けてあるしトイレにでも行ってるだけだろうけど。

「――あれ、詩音って鞄にそんなストラップ付けてたっけ? その白い石のやつ」

 布製のブックカバーを付けた読み差しの本を荷物から取り出し、栞の位置を開けば、ふとそんな会話が耳に入る。

「あっ…………えっと、うん……そうなの。実は土曜日に家族と買い物に行ったんだけど、その時に買ったんだ」

「へぇー、パワーストーンか何か?」

「うん、ムーンストーンって言うんだ」

 無数の文字が踊る世界から目を逸らし、チラと視線を向けた。
 すると、そこには鞄のチャック部分に取り付けられた、乳白色の石のストラップがある。

 ふぅーん、あれがムーンストーンね……。
 でもなんか、学生鞄には合ってない気がする。

「でも、通学バッグだと少し浮いて見えるよ。鍵とか普段使いのショルダーバッグに付けた方がいいんじゃない?」

 なんて思っていたら、かなたとシンクロしてしまった。
 やっぱり、女性視点から見ても少し気になるようだ。

「うん…………でもいいの、コレで」

「……………………? そう……まぁ、詩音がいいなら別にそれでいいけど…………」

 それで話は終わったとばかりに、二人は別の話題へと移っていく。
 俺も手元に意識を戻そうとすれば、今度は他方から声が掛かった。

「ようそら、もう来てたか」

「おっす、翔真」

 全く読み進んでいない――変わらぬページに再び栞を差し込むと、俺は本を閉じて後ろへと向き直る。

 ハンカチで手を拭い、軽く手を挙げて挨拶をしてきたため、同様の動作で返答した。

「……なぁ、翔真」

「何だ?」

「土曜日は珍しく部活が休みだったじゃん。何してた?」

 なんの脈絡もない、唐突な質問。
 雑談とは得てしてそういうものなのだが、不審に思ったのか、彼は少し顔色を曇らせた。

「……は? ……何だよ、急に?」

「別に……ただの雑談」

 それに対し、俺はさも何もないように肩を竦めて答える。

「そう……。その日は買い物に行ってたよ、一人で」

「マジか……実は俺とかなたも昨日、博多駅に買い物に行ったんだ」

 そこで一度言葉を切ると、前の席を少し気にして声を落とした。

「その目的が菊池さんの誕生日プレゼント選びだったんだけどさ、もしかしてそっちもか?」

「あぁ……まぁな」

「マジかよ、偉いな。俺なんて覚えてなくて、かなたに白い目で見られたぞ……。それに何を贈ったらいいか分からなくてな……意見聞いて文房具にしたんだけどさ、そっちは何にした?」

「……文房具」

 その答えに息が止まる。

「――というかシャーペン」

 そして、安堵のため息として漏れた。

「おぉ、被ってなくて良かったわ……。こっちはメモ帳と付箋だし、むしろ二人で完璧な組み合わせだな」

「だな、ちょうどいい」

 二人して笑い合い、そして俺は席を立ち上がる。

「悪い、トイレ行ってくるわ」

「おう」

 四階にある我らが教室ではあるが、男子トイレは構造上三階に設置されている。

 それ故に、そのまま教室の引き戸を閉めた俺は廊下を進むと、階段を上り始めた。

 そこには屋上へ繋がる扉と踊り場しかなく、そして当たり前なのだが鍵は閉まっている。
 つまり、何もない場所。

 そこへスマホを手にし、画面には「ムーンストーン石言葉」と文字を入力させていた。

 最初からおかしな点はあったのだ。
 オシャレ好きな菊池さんがそれを気にせずストラップを付けたり、二人の買い物をした曜日が不自然に同じだったり。

 そして、嘘とはほんのちょっぴりの真実を混ぜることで信憑性を増す。

 ならば、推理は容易い。
 ページを読み込み、スマホの画面は切り替わった。

 検索結果は『恋の予感・純粋な恋』。
 果たして、親友はこれを知っていて贈ったのだろうか?

「……いや、知らねぇだろうなー」

 だとするなら、あまりに露骨すぎる。
 それに、菊池さんも見せびらかすようには付けてこないはず。

 きっとこれは、彼女の覚悟なのだと思う。
 鈍感な男からの贈り物とその意味を、本物へと変えるべく――。
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