36 / 64
第5話 天狐
蒼矢VS紫縁
しおりを挟む
肌を刺すような空気が流れる中、にらみ合う紫縁と蒼矢。だが、二人とも口もとに笑みを浮かべている。
「相変わらず好戦的だな、蒼矢」
先に口を開いたのは、紫縁だった。呆れたような物言いだが、その実、蒼矢と刃を交えるのが楽しみだったのだろう。四尾がひっきりなしに揺れている。
「それは、お互い様だろ?」
彼の尻尾をちらりと見てそう告げると、蒼矢は愛用の大鎌を瞬時に作り出して構える。
「ふふっ、そうだな。また、お前と手合わせできてうれしいよ」
うれしいと言うものの、その目は笑っていなかった。紫紺の瞳には、蒼矢と同じように剣呑な光が浮かんでいる。
「そりゃどうも。で? 今回のルールは?」
「簡単だ。俺に傷を一つでもつけられたら、お前の勝ち。依頼を請け負ってやるよ」
「お~。そりゃ、本当に簡単なことで」
無理難題を突きつけられるかと思っていた蒼矢は、拍子抜けしたように素直な感想を述べる。しかし、紫縁にはそれが余裕を持っているように見えたようで。訝しげに眉をひそめるのだった。
「ずいぶんと余裕だな? 殺す気で来ないと、俺には勝てないぞ?」
「はっ! 昔の俺だと思うなよ!」
そう言うと、蒼矢は青白い炎を数個、瞬時に出現させて紫縁に放った。
直後、紫縁との間合いを詰める。
着弾と同時に鎌を振り上げ、一拍置いて思い切り振り下ろした。しかし、手応えが全くない。
盛大に舌打ちして視線を前方へと向けると、いつの間に移動したのか、数メートル先に先程と同じ姿勢で紫縁が立っていた。
蒼矢は低い姿勢で構えると、真っ正面から紫縁に突っ込んでいく。間合いをはかり大鎌をふるうが、ギリギリのところで避けられてしまう。何度斬りかかっても同じだった。
蒼矢は軽く舌打ちをして、距離をとるように後退する。
「ったく、相変わらず避けるよな、あんた」
蒼矢が不機嫌そうに言うと、
「そりゃ当たり前だろ、一回でも攻撃受けたら負けるんだから。それに、お前の攻撃は単純で読みやすいからな」
昔と変わらない彼の戦いぶりに呆れているのか、はたまた落胆しているのか。その表情からは判別できない。
「……そりゃどうも」
蒼矢は皮肉を込めて礼を言うと、青白い炎を作り出し紫縁へと放つ。
しかし、それは紫縁が立っていた場所に到達する前に爆発した。
「――っ!?」
予想外のことに驚く蒼矢。
突如、四散する煙の中から紫縁が現れ、蒼矢に襲いかかる。その手には、いつ作り出したのか一振りの刀が握られていた。
蒼矢は、とっさに武器で受け止める。紫縁の刃は大鎌の柄に当たり、軋むような耳障りな音を響かせる。
両者の力は拮抗しているのか、微動だにしない。だが、紫縁に分があるのは明白だった。表情を苦渋に歪ませる蒼矢と涼しい顔をしている紫縁。二人の表情がそれを物語っている。
唐突に、紫縁がにぃ……と口角を引き上げた。
刹那、蒼矢はヤバいと本能的に悟る。戦闘中に紫縁が笑みを浮かべるのは、何かをたくらんでいる時なのだ。
全体重を両腕に乗せるようにして、紫縁をその刃ごとはね返し、すぐさま後方に飛び退く。
蒼矢が後方へ避難するとほぼ同時に、真っ赤に燃え盛る炎が刃を包んだ。もし、判断がもう少し遅れていれば、大鎌だけでなく蒼矢自身も炎の餌食になっていたかもしれない。
「あっぶねぇ……」
無意識につぶやいた蒼矢の表情には、本気の焦りが見てとれた。
「さすがに避けるか」
紫縁はたいして気にした風もなく言って、刀を振り下ろし炎を消す。
「戦闘中のあんたのその笑顔、何回見たと思ってんだよ? その後に何回もひでえ目にあったの、今でも覚えてるっつの!」
「でも、そのおかげで、危機察知能力は向上しただろう?」
「おかげさまで、な!」
言い放ちざま、妖気で作り出した数本の刃を思い切り投げる。
しかし、それは紫縁が放った炎にかき消されてしまった。
「それがお前の本気なのか?」
殺す気で来いと言っただろう、本気を見せろ、と。紫縁の表情が告げている。
蒼矢はそれには答えず不敵な笑みを浮かべ、ぱちんと指を鳴らした。
すると、蒼矢の背後の空間から無数の青白い蝶が現れ、紫縁へと一直線に向かっていく。
「相変わらず好戦的だな、蒼矢」
先に口を開いたのは、紫縁だった。呆れたような物言いだが、その実、蒼矢と刃を交えるのが楽しみだったのだろう。四尾がひっきりなしに揺れている。
「それは、お互い様だろ?」
彼の尻尾をちらりと見てそう告げると、蒼矢は愛用の大鎌を瞬時に作り出して構える。
「ふふっ、そうだな。また、お前と手合わせできてうれしいよ」
うれしいと言うものの、その目は笑っていなかった。紫紺の瞳には、蒼矢と同じように剣呑な光が浮かんでいる。
「そりゃどうも。で? 今回のルールは?」
「簡単だ。俺に傷を一つでもつけられたら、お前の勝ち。依頼を請け負ってやるよ」
「お~。そりゃ、本当に簡単なことで」
無理難題を突きつけられるかと思っていた蒼矢は、拍子抜けしたように素直な感想を述べる。しかし、紫縁にはそれが余裕を持っているように見えたようで。訝しげに眉をひそめるのだった。
「ずいぶんと余裕だな? 殺す気で来ないと、俺には勝てないぞ?」
「はっ! 昔の俺だと思うなよ!」
そう言うと、蒼矢は青白い炎を数個、瞬時に出現させて紫縁に放った。
直後、紫縁との間合いを詰める。
着弾と同時に鎌を振り上げ、一拍置いて思い切り振り下ろした。しかし、手応えが全くない。
盛大に舌打ちして視線を前方へと向けると、いつの間に移動したのか、数メートル先に先程と同じ姿勢で紫縁が立っていた。
蒼矢は低い姿勢で構えると、真っ正面から紫縁に突っ込んでいく。間合いをはかり大鎌をふるうが、ギリギリのところで避けられてしまう。何度斬りかかっても同じだった。
蒼矢は軽く舌打ちをして、距離をとるように後退する。
「ったく、相変わらず避けるよな、あんた」
蒼矢が不機嫌そうに言うと、
「そりゃ当たり前だろ、一回でも攻撃受けたら負けるんだから。それに、お前の攻撃は単純で読みやすいからな」
昔と変わらない彼の戦いぶりに呆れているのか、はたまた落胆しているのか。その表情からは判別できない。
「……そりゃどうも」
蒼矢は皮肉を込めて礼を言うと、青白い炎を作り出し紫縁へと放つ。
しかし、それは紫縁が立っていた場所に到達する前に爆発した。
「――っ!?」
予想外のことに驚く蒼矢。
突如、四散する煙の中から紫縁が現れ、蒼矢に襲いかかる。その手には、いつ作り出したのか一振りの刀が握られていた。
蒼矢は、とっさに武器で受け止める。紫縁の刃は大鎌の柄に当たり、軋むような耳障りな音を響かせる。
両者の力は拮抗しているのか、微動だにしない。だが、紫縁に分があるのは明白だった。表情を苦渋に歪ませる蒼矢と涼しい顔をしている紫縁。二人の表情がそれを物語っている。
唐突に、紫縁がにぃ……と口角を引き上げた。
刹那、蒼矢はヤバいと本能的に悟る。戦闘中に紫縁が笑みを浮かべるのは、何かをたくらんでいる時なのだ。
全体重を両腕に乗せるようにして、紫縁をその刃ごとはね返し、すぐさま後方に飛び退く。
蒼矢が後方へ避難するとほぼ同時に、真っ赤に燃え盛る炎が刃を包んだ。もし、判断がもう少し遅れていれば、大鎌だけでなく蒼矢自身も炎の餌食になっていたかもしれない。
「あっぶねぇ……」
無意識につぶやいた蒼矢の表情には、本気の焦りが見てとれた。
「さすがに避けるか」
紫縁はたいして気にした風もなく言って、刀を振り下ろし炎を消す。
「戦闘中のあんたのその笑顔、何回見たと思ってんだよ? その後に何回もひでえ目にあったの、今でも覚えてるっつの!」
「でも、そのおかげで、危機察知能力は向上しただろう?」
「おかげさまで、な!」
言い放ちざま、妖気で作り出した数本の刃を思い切り投げる。
しかし、それは紫縁が放った炎にかき消されてしまった。
「それがお前の本気なのか?」
殺す気で来いと言っただろう、本気を見せろ、と。紫縁の表情が告げている。
蒼矢はそれには答えず不敵な笑みを浮かべ、ぱちんと指を鳴らした。
すると、蒼矢の背後の空間から無数の青白い蝶が現れ、紫縁へと一直線に向かっていく。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
家路を飾るは竜胆の花
石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。
夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。
ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。
作者的にはハッピーエンドです。
表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
(小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる