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第4話 猫
猫耳の女性
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二階堂が歩きながらから揚げを食べ終える間に、数軒の屋台があった。その中で、大判焼きといか焼きを購入する。
その他にも、ガラス細工の雑貨やスーパーボールすくいなどがあり、女性や子ども達が楽しそうにしていた。その笑顔を見ていると、不思議とこちらも楽しくなってくる。
ゴミを捨てた後、道端に設置されている自動販売機に向かった。わずかに思案して、天然水を購入する。
自動販売機の取り出し口からペットボトルを取り出そうとして、ふと、妖気を感じた。ゆっくりと立ちあがり、周囲を見回す。しかし、近くにそれらしい影は見当たらない。
妖怪達も祭りに参加しに来たのだろうと思い、次の露店へと行こうとした。だが、一歩が踏み出せない。
感じた妖気が弱々しいのが、とても気になったのである。
予定変更とばかりに、二階堂は大通りに背を向けた。妖気を追って路地に入る。
大通りの喧噪が少し遠くに聞こえるあたりまで進むと、一人の女性が路地の端の方で頭を抱えてうずくまっているのが見えた。
何かあったのだろうか。二階堂は慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
声をかけると、彼女は驚いたように体を震わせ、頭を抱えたまま怯えた眼差しを二階堂に向けた。二十代前半だろう彼女は、今にも泣き出してしまいそうだった。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんです。ここ、いいですか?」
二階堂はそう言って、彼女の隣に座った。
彼女は反射的に、二階堂から少し距離を取る。
警戒されているようだ。無理もない。見知らぬ男に声をかけられただけでなく、その男がなぜか自分の隣に座ったのだから。
二階堂は苦笑した。だが、立ち去る気はなかった。先程、自動販売機前で感じた妖気と同じものを彼女から感じたからというのもあるが、女性がたった一人で道端にうずくまっているのだ、放っておけるはずがない。
(さて、どう聞き出そうかな……)
二階堂が思案していると、隣からぐ~という大きな音が聞こえてきた。
顔を向けると、女性が恥ずかしそうに顔を赤らめている。どうやら、先程の音は彼女の腹の虫が鳴いた音だったらしい。
「これ、食べます?」
二階堂は、持っていた袋の中から長方形の箱を取り出し、彼女に差し出した。
きれいな翡翠色の大きな瞳で、二階堂の顔と箱とを交互に見る彼女。受け取っていいものか、悩んでいるらしい。
二階堂は箱のふたを開け、毒は入っていないと告げる。そこには、四個の大判焼きがきれいに並んで入れられていた。
その美味しそうな匂いに負けたらしい彼女は、二階堂からそれを受け取ると脇目も振らずにかぶりついた。
(相当、お腹空かせてたんだな……)
そんなことを思いながら、二階堂は彼女の食事風景を眺めていた。
あんことカスタードクリームが入った大判焼きを頬張る彼女は、とても幸せそうである。
夕日を思わせるようなオレンジ色のショートヘアと、同色のふさふさした毛をまとった猫耳が特徴的な女性。先程まで頭を抱えていたのは、それを隠そうとしてのことだったのだろう。
「……あの、あたしの顔に何かついてますか?」
二階堂の視線が気になったのか、彼女はおずおずと口を開いた。
「あ、いや、美味しそうに食べるなあと思って」
取り繕うように出た言葉は、半分本音。見ているこちらまで思わず食べたくなってしまうくらい、彼女の表情はとろけていて幸せに満ちていたのだ。
「……いります?」
もらった自分が言うのも何だけどと、彼女は大判焼きを一つ差し出した。
二階堂は首を横に振り、全部食べていいと告げる。
それを聞いて安心したのか、猫耳の女性は食事を再開した。
一心不乱に大判焼きをほおばっていた彼女だったが、
「――っ!?」
何も飲まずに食べていたからだろう、のどにつまらせてしまったらしかった。
二階堂は慌てて、先程買ったペットボトルの水を差し出す。
「大丈夫!? これ――」
よければ飲んでと言う前に、女性はそれをひったくるように取り、一気にのどに流し込んだ。
「……ぷはっ! 死ぬかと思った……。あの、ありがとうございます!」
「どういたしまして。でも、そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよ?」
二階堂が微笑みかけると、女性は赤くなってうつむいてしまった。
「……朝から何も食べてなくて。つい……」
大判焼きにがっついていた姿が、今頃になって恥ずかしくなったようである。
彼女の警戒心がゆるんだのを見て二階堂が名乗ると、彼女は朱音と名乗った。
「さっき、朝から何も食べてないって言ってましたけど、何かあったんですか?」
二階堂が尋ねると、朱音は口ごもったまま視線を外した。その行動により、彼女にとってとても言いにくいだろうことは、容易に推測できた。
どうしたものかと、少しばかり思案する。朱音が妖怪であることを彼女が自発的に言うのを待つか、それともこちらから尋ねるか。どちらかを選択しなければ、話は進まないだろう。
(……しかたない)
二階堂は小さく息をついて、
「朱音ちゃんは、妖怪だよね?」
わざとフランクに声をかける。
彼女から感じる妖気のおかけで、人間でないことはわかっている。だから、これは確認。
「――っ!」
警戒心をあらわにした朱音は、いつでも逃げられるようにと腰を浮かす。
(しまった! 失敗した)
二階堂は慌てて、自分には霊気や妖気を感じる力が備わっていて、普通の人間には見えないものを見ることができるということを告げた。
「妖怪だからどうこうしようとか、そんなことは考えてないよ。ただ、困ってる君の力になりたいんだ」
だから、何があったのか話してほしい、と。
二階堂の真摯な言葉に心動かされたのか、まだ警戒してはいるものの、朱音はその場に座り直した。視線が泳いでいるところをみると、迷っているらしい。
二階堂はそれ以上何も言わず、彼女が話し出すのを待つことにした。
その他にも、ガラス細工の雑貨やスーパーボールすくいなどがあり、女性や子ども達が楽しそうにしていた。その笑顔を見ていると、不思議とこちらも楽しくなってくる。
ゴミを捨てた後、道端に設置されている自動販売機に向かった。わずかに思案して、天然水を購入する。
自動販売機の取り出し口からペットボトルを取り出そうとして、ふと、妖気を感じた。ゆっくりと立ちあがり、周囲を見回す。しかし、近くにそれらしい影は見当たらない。
妖怪達も祭りに参加しに来たのだろうと思い、次の露店へと行こうとした。だが、一歩が踏み出せない。
感じた妖気が弱々しいのが、とても気になったのである。
予定変更とばかりに、二階堂は大通りに背を向けた。妖気を追って路地に入る。
大通りの喧噪が少し遠くに聞こえるあたりまで進むと、一人の女性が路地の端の方で頭を抱えてうずくまっているのが見えた。
何かあったのだろうか。二階堂は慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
声をかけると、彼女は驚いたように体を震わせ、頭を抱えたまま怯えた眼差しを二階堂に向けた。二十代前半だろう彼女は、今にも泣き出してしまいそうだった。
「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんです。ここ、いいですか?」
二階堂はそう言って、彼女の隣に座った。
彼女は反射的に、二階堂から少し距離を取る。
警戒されているようだ。無理もない。見知らぬ男に声をかけられただけでなく、その男がなぜか自分の隣に座ったのだから。
二階堂は苦笑した。だが、立ち去る気はなかった。先程、自動販売機前で感じた妖気と同じものを彼女から感じたからというのもあるが、女性がたった一人で道端にうずくまっているのだ、放っておけるはずがない。
(さて、どう聞き出そうかな……)
二階堂が思案していると、隣からぐ~という大きな音が聞こえてきた。
顔を向けると、女性が恥ずかしそうに顔を赤らめている。どうやら、先程の音は彼女の腹の虫が鳴いた音だったらしい。
「これ、食べます?」
二階堂は、持っていた袋の中から長方形の箱を取り出し、彼女に差し出した。
きれいな翡翠色の大きな瞳で、二階堂の顔と箱とを交互に見る彼女。受け取っていいものか、悩んでいるらしい。
二階堂は箱のふたを開け、毒は入っていないと告げる。そこには、四個の大判焼きがきれいに並んで入れられていた。
その美味しそうな匂いに負けたらしい彼女は、二階堂からそれを受け取ると脇目も振らずにかぶりついた。
(相当、お腹空かせてたんだな……)
そんなことを思いながら、二階堂は彼女の食事風景を眺めていた。
あんことカスタードクリームが入った大判焼きを頬張る彼女は、とても幸せそうである。
夕日を思わせるようなオレンジ色のショートヘアと、同色のふさふさした毛をまとった猫耳が特徴的な女性。先程まで頭を抱えていたのは、それを隠そうとしてのことだったのだろう。
「……あの、あたしの顔に何かついてますか?」
二階堂の視線が気になったのか、彼女はおずおずと口を開いた。
「あ、いや、美味しそうに食べるなあと思って」
取り繕うように出た言葉は、半分本音。見ているこちらまで思わず食べたくなってしまうくらい、彼女の表情はとろけていて幸せに満ちていたのだ。
「……いります?」
もらった自分が言うのも何だけどと、彼女は大判焼きを一つ差し出した。
二階堂は首を横に振り、全部食べていいと告げる。
それを聞いて安心したのか、猫耳の女性は食事を再開した。
一心不乱に大判焼きをほおばっていた彼女だったが、
「――っ!?」
何も飲まずに食べていたからだろう、のどにつまらせてしまったらしかった。
二階堂は慌てて、先程買ったペットボトルの水を差し出す。
「大丈夫!? これ――」
よければ飲んでと言う前に、女性はそれをひったくるように取り、一気にのどに流し込んだ。
「……ぷはっ! 死ぬかと思った……。あの、ありがとうございます!」
「どういたしまして。でも、そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよ?」
二階堂が微笑みかけると、女性は赤くなってうつむいてしまった。
「……朝から何も食べてなくて。つい……」
大判焼きにがっついていた姿が、今頃になって恥ずかしくなったようである。
彼女の警戒心がゆるんだのを見て二階堂が名乗ると、彼女は朱音と名乗った。
「さっき、朝から何も食べてないって言ってましたけど、何かあったんですか?」
二階堂が尋ねると、朱音は口ごもったまま視線を外した。その行動により、彼女にとってとても言いにくいだろうことは、容易に推測できた。
どうしたものかと、少しばかり思案する。朱音が妖怪であることを彼女が自発的に言うのを待つか、それともこちらから尋ねるか。どちらかを選択しなければ、話は進まないだろう。
(……しかたない)
二階堂は小さく息をついて、
「朱音ちゃんは、妖怪だよね?」
わざとフランクに声をかける。
彼女から感じる妖気のおかけで、人間でないことはわかっている。だから、これは確認。
「――っ!」
警戒心をあらわにした朱音は、いつでも逃げられるようにと腰を浮かす。
(しまった! 失敗した)
二階堂は慌てて、自分には霊気や妖気を感じる力が備わっていて、普通の人間には見えないものを見ることができるということを告げた。
「妖怪だからどうこうしようとか、そんなことは考えてないよ。ただ、困ってる君の力になりたいんだ」
だから、何があったのか話してほしい、と。
二階堂の真摯な言葉に心動かされたのか、まだ警戒してはいるものの、朱音はその場に座り直した。視線が泳いでいるところをみると、迷っているらしい。
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