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深水灣警匪槍戰
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ユンたちが撤退してから10分後。
ホンダCBX650白バイに先導された応援の車輛群が香島道を走ってきた。
白バイの後はフォード・コーティナのワゴン、ランドローバー、更に後には、ダークブルーに塗られた、荷台が丸屋根の木製コンテナになっているベッドフォードやいすゞの大型トラック-警官達の間では猪籠車と呼ばれるものだ。
多数の猪籠車の車列の後には、白塗りのトヨタ・ハイエースが3台。
更に後には大型のバスのような車輛。これは現場指揮車だ。無線や電話、カメラやモニターなどの機材を搭載し、前線本部となる。
その更に後には6輪のFV603サラセン装甲車と続く。
多数の警察車輛は路肩に止まったり、ゴルフクラブや海水浴客の駐車場に乗り入れたりして次々に陣取った。
猪籠車の荷台からは紺色のベレー帽を被った警官たちが降りて来た。機動部隊‐PTUだ。降りて間もなくズラっと整列する。
一方、ハイエースからは目出し帽を被った集団が降りてきた。
特殊部隊SDU。通称飛虎隊。香港警察の最精鋭部隊だ。英陸軍のSASから戦術指導を受けており、武装犯罪集団とまともに渡り合える数少ない存在と言える。
応援到着から数分後、ユンたちは現場指揮車内にいた。李修丹に状況を説明していた。
「人質は少なくとも六人。レオンの他はおそらく人身売買でフィリピンから連れて来られたと思われる子供か…それをお前たちが暴こうとして銃撃戦になったのか?」
李はユンを睨みつける。
「いや…。」
ティンがフォローする。
「どうやら、韓彪は誰かに狙われていたらしいです。」
「狙われていた?」
「はい。韓ハン…彥英は、夫が強盗を装った殺し屋に殺されたと思い込んでいるらしく、それで我々のことも殺し屋だと誤解したようで…。」
「話が分かるような分からないような…。」
「ともかく、韓彥英は正気じゃない。いつレオンや子供たちを殺してもおかしくない。
こんなことなら、さっき助けておけば…。」
「いや。引き下がって応援を待ったのは賢明だった。」
李はキッパリと言った。
「まだ用心棒は相当数残っている。武器も相当あると見える。お前達だけじゃどうにもならん。今度は飛虎隊と一緒に行け。」
その飛虎隊-SDUの隊員たちは指揮車の周りに集まっていた。
隊員たちを率いていた白人の中年男が指揮車の中に入ってきた。
「ポールか。」
「リー。やぁ、元気か。ユン、キン、ティンも。」
「おい、お前らもう一度説明しろ。」
「ああ…。」
ティンが書いた見取り図を見せ、説明する。
「人質は最低六人。程刑事と子供たちだ。」
「二階はちゃんとチェックできなかったが、大体こんな感じだろうと思う。」
「この一階廊下のここ。ここに隠し部屋がある…。」
「なるほどな…。」
「突入できそうか?」
「まだだ。」
ポールは気難しい顔をした。
「これだけじゃ突入できない。二階の構造がもう少し詳しく分からないと、突入時に危険だ。
リー、詳細な見取り図は?」
「今、屋敷を設計した技師に連絡して、詳細な見取り図を用意してもらっているところだ。」
「それまで何分かかる。」
「目一杯急がせている。焦るんじゃない。」
更に10分後。屋敷を設計したという建築技師が現場に到着した。
白國民という背の低い痩せた老人だった。
「OCTBの李です。」
「どうも…。」
「捜査への協力、感謝いたします。」
「へぇ…。」
「では早速ではありますが、問題の屋敷の見取り図を…。」
「へぇ…。」
机いっぱいに見取り図が広げられた。
「この屋敷はわっしが30年ほど前に設計しやした。」
「隠し部屋もか?」
ユンが割り込む。
「へぇ…前の持ち主…韓彪先生のお父さんが、地下にコレクションルームをと注文を付けてきやしてね。」
見取り図を見る限り、隠し部屋は地下部分にあるようだ。
ユンたちがいた隠し扉のところから下り階段が伸び、面積20平方メートル、高さ3メートルほどの部屋に繋がっている。
「正門と勝手口、それに裏側の斜面以外に屋敷から出る道は?」
「ないです。」
「間違いないな?」
「へぇ…。」
屋敷内のとある部屋。
レオンは鎖に手をつながれ、吊るされた状態で、韓彥英と向かい合っていた。
「正直に答えな。あんたは誰?」
「程志良。警察總部、組織犯罪・三合会調査科、刑事…。」
言い終わる前に鞭が飛んだ。腹に電気が走るような感覚がする。
「っ…!!!」
「そうじゃない!分かってるんだよ?あんたが誰なのか?とぼけるんじゃないよ!」
また鞭で‐今度は頬のあたりを‐叩かれた。
「つっ…!」
「23年ぶりにコレで叩かれるのがそんなに痛い?」
「23年…ぶり?何のことだ…。」
「またとぼけて!」
ビシッ!
「分かってるんだよ。ここに戻ってきて復讐しようってんだね?」
「…復…讐…何を…。」
ビシッ!
「グワッ」
「いっそぶち殺してやろうか!?」
韓彥英は鞭を投げ捨て、テーブルに置いてあったベレッタM70オートを手に取った。
銃口がレオンのこめかみに向けられた。
「さぁこれが最後だ。あんたは…。」
「彥姐ユージェ!」
用心棒たちがやってきた。
「警察は突入するつもりらしいです!」
「…それで?あいつと連絡は付いたの?」
韓夫人はいらいらしながら聞いた。
「はい…例の場所で待つと。」
「よし…足止めは任せたよ。」
「…作戦は次の通りだ。」
SDUの指揮官であるポールが、黒板に張られた見取り図を指しながら説明する。
目の前にはSDU隊員二十人弱と、ボディアーマーを着た刑事たち。
「まず、Aチームを乗せた装甲車が正門から突入し、用心棒たちの気を引く。
その間にBチームが屋敷の背面から接近。スナイパーチームが屋敷の裏側にいる用心棒を倒した後、屋敷内にフラッシュバンを投げ込み、一気に突入する。
Aチームは正面玄関と窓から、Bチームは屋敷の裏口と二階の窓から突入する。」
「ユンはAチーム、キンとティンはBチームと一緒に行け。」
李が指示した。
「何か質問は?」
李が突入に参加する全員に聞いた。が、答えはなかった。
「OK. All unit, action!」
「Yes,Sir‼」
ユンはSDU隊員と共にFV603サラセン装甲車へ乗り込んだ。
窮屈な兵員室には椅子が左右向かい合わせで四座ずつ配置されている。
体格のいい、しかも防弾ベストや戦術ベストなどを身に付けた隊員たちと隣合わせ座ると息が詰まりそうだった。
リアドアが閉められた時、ユンは一瞬、たまに通っているサウナを思い出した…がすぐにもっと酷いと考え直した。
装甲車のエンジンのようなうるさい音は、サウナで聞くことはなかった。
「よし、行くぞ。」
車内がゆっくり揺れ始める。
ユンは前方覗き窓から外を見ようとしたが、覗き口が小さすぎて無理だった。
「運転手、今どうなってる?」
「何だ、不安なのか?正門の真正面だ。突破する。」
装甲車が若干スピードを上げた。
ガシャンという音が-エンジン音にかき消されそうだったが-かすかに聞こえた。
「今、門を突破したぞ。下車展開まであと10秒だ。用意しろ。」
MP5サブマシンガンやショットガンを抱えたSDU隊員たちが身構えた。
「5、4、3、2、1…。」
SDU隊員たちはリアドアを開け、下車した。ユンも急いで続く…と。
ダルルルルルウルルルル!!!
予想通りの抵抗。用心棒たちは屋敷内や物陰からサブマシンガンやショットガンを撃ってきた。
サラセン装甲車の車体に銃弾が当たり、煩い音を立てる。
SDU隊員たちは装甲車の陰に隠れながらじわじわと近づいていく。
流石はSASを参考にした部隊である。用心棒を一人また一人と倒す。
が。屋敷の窓から放り投げられた手榴弾はどうにもできなかった。
「!Take cover!(隠れろ!)」
バン!!!
サラセン装甲車のボディは手榴弾程度ではびくともしなかった。
が、飛んできた破片がSDU隊員一名を傷つけた。足に傷を負った隊員はかろうじて装甲車の陰に隠れた。
「大丈夫か?」
「I'm Ok…。」
よく見ると隊員の太ももに手榴弾と思われる破片が刺さっていた。足元には血だまりが出来ていた。
「しっかりしろ。」
ユンはハンカチを彼の傷口に巻き、きつく縛った。
「Thank you…。」
「…そうだ。お前、そのベストをよこしてくれ。それと銃も。」
「え?」
「早く…。」
「は…はい。」
隊員は戦術ベストを脱ぎ、MP5と一緒にユンに手渡した。
ユンが貰ったベストは、左下に小さなスプレー缶のような缶を収めたポーチが二つ付いていた。
缶には手榴弾そっくりのレバーやピンが付いていた。突入部隊用の装備だ。
煙幕弾やフラッシュバンなどの種類があるが、フラッシュバンの場合はピンが抜かれ、レバーが外れてから2、3秒ぐらいで起爆。凄まじい爆発音と閃光を発し、その場にいた人間が一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りに陥っている間に部隊が突入、制圧する。
「よし…おい。」
ユンはベストを着用すると、別の隊員を呼んだ。
「いいか。俺が接近してこいつを投げ入れる。お前らで援護してくれ。」
「は?無茶言わないでください。ハチの巣にされますよ。」
「俺はそんなヤワじゃねぇ。」
「それに…耳と目をやられますよ。」
ユンはズボンのポケットからサングラスとひしゃげたタバコの箱を取り出した。
サングラスをかけた後、箱からタバコを一本抜き、それを真ん中でちぎって二つにし、両耳に突っ込んだ。
「これでどうだ?」
「無茶です。」
「え?何だ聞こえないな?」
「だから、無茶…。」
「もう行くぞ!」
「周Sir!」
隊員が止める前にユンは駆けだした。
MP5を小刻みに撃ちながら屋敷に近づく。
目の前にショットガンを持った用心棒が二人立ちはだかった。
ユンはMP5を撃ちっぱなしにした。
二人とも銃弾を受けたが、倒れなかった。
MP5が弾切れになった瞬間、ユンは二人のうち一人にタックルした。
そのまま羽交い絞めにする。
銃声が鳴った。もう一人がユンを狙って撃ったのだ。
が、羽交い絞めにしていた一人が盾になり、ハチの巣になった。
ユンは、撃たれた奴が持っていたショットガンを握り、もう一人に発砲した。
用心棒は吹っ飛んだ。
ユンはそれをろくに見ず、窓のそばへ。
中腰で伏せつつ、ポーチからフラッシュバンを取り出して握り、ピンを抜いた。
間髪入れず窓の内側に投げ入れた…。
一方、キンとティンは屋敷の裏の林から接近していた。
むろん別のSDUの部隊-ガスマスクを着用していた-と一緒だ。
彼らは、銃声が激しくなり、爆発音が聞こえ始めたあたりで、屋敷に接近。
チームは二手に分かれており、一方は梯子をかけ、二人ほど二階の方へ上り始めた。
もう一方は一階窓に近寄り、向こうに見えないように中の様子をうかがう。
その際、バルコニーにいた用心棒たちに気づかれたが、そいつらはすぐにバルコニーから転げ落ちた。スナイパーに始末されたのだ。
「どうだ?ポール。」
キンは一階の一室をチェックしていた隊員に聞いた。
「この部屋に二人ほどいる。フラッシュバンを使う。」
「よし…。」
キンとティンは腰に付けていた大き目のポーチから中身を取り出した。
S6ガスマスク。一緒にいるSDU隊員たちが着用しているのと同型のものだ。
これを着用すれば、催涙ガスなどに耐えられる。
キンとティンはそれを被った…。
バーン!!!
凄まじい音が鳴り、ユンがフラッシュバンを投げ込んだ部屋は一瞬白色に染まった。
ユンが室内を覗くと、中にいた用心棒たちが目や耳を押さえているのが見えた。
すかさずユンは窓から飛び込んだ。
まともに銃も拾えなくなっている用心棒たちを蹴り飛ばし、廊下に出た。
無事だった用心棒たちが姿を見せ、撃ってきた。
ユンは隠れて回避しつつ、ショットガンをぶっ放して蹴散らした。
弾が切れると、弱っている用心棒からUZIを失敬し、乱れ撃った。
そうしていると、七,八人ほどが集中砲火を浴びせてきた。
隠れて応戦したが、用心棒たちは被弾して倒れながらもじわじわと近づいてきた。
「やばいかも…。」
ユンは突入したのがまずかったと思い始めていた…。
屋敷の裏側。
「いや、ちょっと待て。」
「?」
「…部屋から出て行った。手順変更だ。」
SDU隊員はフラッシュバンの缶をポーチに戻し、別の缶を手にした。
形状はほぼ同じだが、こちらは煙を出すだけの煙幕弾だった。
ピンを外して投げ込むと、室内はたちまちボヤを起こしたような状態になった。
「GO!GO!」
隊員たちが突入した。
ユンは屋敷の中で追い詰められていた。
用心棒たちがサブマシンガンを乱射しながら近づいている。
ユンも応戦したが、UZIが弾切れになった。
窮鼠だと思ったその時。
「動くな。」
ダルルル!!!ダダダダダダダ!!!
「グワッ!!」
「ウワーッ!!」
用心棒たちが突然後から次々と撃たれ、倒れるのが見えた。
「やっと着いたか。」
ガスマスクを着用したSDU隊員たちが姿を現した。
「ユン、何をしている?突入と制圧は我々の仕事…。」
「突入するのが遅いんだよ。」
ユンはサングラスを外し、耳に詰めていたタバコを取って捨てた。
「何て身勝手な。」
「いつもの事だ。怒らないでくれ。」
キンの声がした。
「キンか。」
「ユン。」
キンもガスマスクをしていた。
「それ、似合うぞ。」
「冷やかすな。」
「ユン、キン、無事か?」
今度はティンが階段を下りてきた。彼は梯子を上って二階から進入していたのだ。
「ああ。そっちは?」
「二階は制圧済みだ。」
「一階もこの分だと、お前がほとんど片付けたかもな」
「そうか…例の部屋、今度こそじっくり見れそうだ…。」
「よし。」
ユンたち三人は隠し部屋の所まで走った。
来てみると、ちょうどSDU隊員たちが突入しようとしているところだった。
隊員の一人が、隠し扉-本棚はもう殆ど残っていなかった-をハンマーで破壊。
すると、内側にはもう一つドアがあった。
すかさず別のSDU隊員が、そっちに爆薬を仕掛ける。
「下がって。」
「はいはい…。」
隊員たち-とユンたち-は物陰まで後退した。
爆薬を仕掛けた隊員がスイッチを握り、押した。隠し扉は吹っ飛んだ。
すかさず他の隊員が突入…する前にユンが飛び込んだ。
「ユン!」
「馬鹿かお前!」
飛び込んだユンの視界に、UZIを持ったスーツ姿の男がいた。
その瞬間、ユンは階段からジャンプし、コルト・ティテクティブを用心棒たちに向かって連射した。
ユンが着地して転がると同時に、用心棒二人は腹や肩を押さえながら倒れた。
「ユン!」
キンが怒鳴っていた。
「お前いい加減にしろよ!」
「悪ぃ…。」
キンとティン、それにSDU隊員たちが入ってくる間に、ユンは室内を見回した。
隠し部屋は大体見取り図の通りで、縦横約10メートル、高さ3メートルほどの地下室だった。
床には赤いカーペットが引かれ、天井からぶら下がるフープ型の小さなシャンデリアに照らされていた。
右側には特大サイズのベッド、左側には牢屋のような檻があった。
その檻の中で子供が五,六人、縮こまって震えていた。うち二人は男の子のようだった。
「みんな、もう大丈夫だ。」
ユンが声をかけた後、SDU隊員たちが檻を開け、子供たちを連れ出していった。傷ついた用心棒二人も同じだ。
「ここはやっぱり…。」
「ああ。韓彪の秘密の趣味部屋だ。」
「子供をここに監禁して…。」
ベッドのそばの壁には、ムチやロープ、鎖のついた足枷などが並べられていた。
壁には赤茶色の小さなシミもいくつかあった。
「韓彪は何て奴だ。殺されても文句は言えないな。」
「周Sir.」
SDU隊員の一人が話しかけてきた。
「他の部屋をチェックしていたチームより連絡です。程刑事と韓彥英の姿が見当たらないそうです。」
「ちゃんと調べたのか?」
ティンが食ってかかる。
「ん…?」
ユンは足元に違和感を覚えた。
「どうした。」
「ここ…。」
足元をトントンと踏みつける。
「もしかして…。」
ユンはしゃがんでカーペットをめくった。
「あっ!」
小さなマンホールだった。
「ここか…。」
ユンは蓋を持ちあげ、放り投げた。
マンホールの直径は40cm程度。梯子で下に降りられるようになっている。
底をよく見ると、水が流れていた。水道だ。
「あのクソ親父め!他に出口はないなんてヌカしやがって…。」
ティンが毒づく。
「行こう。」
「待てよ!」
ユンはさっさと降りていく。
キン、ティン、SDU隊員たちも後に続いた…。
水道内は暗かったが、MP5の上部に取り付けられた大型のライトが先を照らしていた。
ユンたちは警戒しながら進んでいた…と。
「!」
一瞬、人影が見えた。誰かいる。
「咪郁!(動くな!)」
じわじわと近づいていった…が。
「咪開槍!(撃つな!)」
「?レオン?」
「やっと来てくれたか。」
レオンは両手に手錠をかけられ、服はボロボロでよれよれの状態だった。何より顔が血まみれだった。
「お前…その血は…。」
ユンは駆けより、レオンの手錠を外した。
「あ、ああ…この血は俺のじゃない。」
「それじゃ…。」
「周Sir!」
先に進んだSDU隊員が何か見つけたらしい。
「どうした?」
行ってみると…。
「あっ…。」
「韓彥英…。」
仰向けで倒れていた。顔面には生気がなく、頭から噴き出したものが水道を真っ赤に染めていた。
ユンは振り返ってレオンを見た。
「どういうことだ?」
「すまない…俺の不手際だ…。」
レオンが忌々しげに話し始めた。
「10分ぐらい前に、韓彥英は俺を連れてここに逃げ込んだ。
計画では、出口付近に待っている手下の車で逃げる気だったらしい。
で、俺は途中でこいつを取り押さえようとしたんだ。それでもみ合っているうちに…。」
「暴発。頭をぶち抜いたわけか。」
「ああ…。」
足元にはベレッタM70が転がっていた。
「この女、何か言っていなかったか。」
「何かつっても…俺のこと殺し屋呼ばわりするばかりだったよ…23年前の恨みを晴らしに来たんだろって。」
「恨みを?」
「ああ…韓彪は20年以上にわたって、あの部屋で子供をいたぶるのが趣味にしてきたらしい。
それで、虐待されていた中の一人が、大人になってから復讐で韓彪を殺したと思っていたとさ。」
「それがお前だと勘違いしていたのか?」
「23年前にいた一人だろと言うんだ。とんだとばっちりさ。あぁ酷い目に遭った…痛て…。」
「おい大丈夫か。」
手を貸してやる。
「ありがとうな。いてて…。」
「お前も災難だな。」
「何…命は助かったんだ。」
「糸まじないのおかげか?」
レオンは小指をひくひく動かした。
ホンダCBX650白バイに先導された応援の車輛群が香島道を走ってきた。
白バイの後はフォード・コーティナのワゴン、ランドローバー、更に後には、ダークブルーに塗られた、荷台が丸屋根の木製コンテナになっているベッドフォードやいすゞの大型トラック-警官達の間では猪籠車と呼ばれるものだ。
多数の猪籠車の車列の後には、白塗りのトヨタ・ハイエースが3台。
更に後には大型のバスのような車輛。これは現場指揮車だ。無線や電話、カメラやモニターなどの機材を搭載し、前線本部となる。
その更に後には6輪のFV603サラセン装甲車と続く。
多数の警察車輛は路肩に止まったり、ゴルフクラブや海水浴客の駐車場に乗り入れたりして次々に陣取った。
猪籠車の荷台からは紺色のベレー帽を被った警官たちが降りて来た。機動部隊‐PTUだ。降りて間もなくズラっと整列する。
一方、ハイエースからは目出し帽を被った集団が降りてきた。
特殊部隊SDU。通称飛虎隊。香港警察の最精鋭部隊だ。英陸軍のSASから戦術指導を受けており、武装犯罪集団とまともに渡り合える数少ない存在と言える。
応援到着から数分後、ユンたちは現場指揮車内にいた。李修丹に状況を説明していた。
「人質は少なくとも六人。レオンの他はおそらく人身売買でフィリピンから連れて来られたと思われる子供か…それをお前たちが暴こうとして銃撃戦になったのか?」
李はユンを睨みつける。
「いや…。」
ティンがフォローする。
「どうやら、韓彪は誰かに狙われていたらしいです。」
「狙われていた?」
「はい。韓ハン…彥英は、夫が強盗を装った殺し屋に殺されたと思い込んでいるらしく、それで我々のことも殺し屋だと誤解したようで…。」
「話が分かるような分からないような…。」
「ともかく、韓彥英は正気じゃない。いつレオンや子供たちを殺してもおかしくない。
こんなことなら、さっき助けておけば…。」
「いや。引き下がって応援を待ったのは賢明だった。」
李はキッパリと言った。
「まだ用心棒は相当数残っている。武器も相当あると見える。お前達だけじゃどうにもならん。今度は飛虎隊と一緒に行け。」
その飛虎隊-SDUの隊員たちは指揮車の周りに集まっていた。
隊員たちを率いていた白人の中年男が指揮車の中に入ってきた。
「ポールか。」
「リー。やぁ、元気か。ユン、キン、ティンも。」
「おい、お前らもう一度説明しろ。」
「ああ…。」
ティンが書いた見取り図を見せ、説明する。
「人質は最低六人。程刑事と子供たちだ。」
「二階はちゃんとチェックできなかったが、大体こんな感じだろうと思う。」
「この一階廊下のここ。ここに隠し部屋がある…。」
「なるほどな…。」
「突入できそうか?」
「まだだ。」
ポールは気難しい顔をした。
「これだけじゃ突入できない。二階の構造がもう少し詳しく分からないと、突入時に危険だ。
リー、詳細な見取り図は?」
「今、屋敷を設計した技師に連絡して、詳細な見取り図を用意してもらっているところだ。」
「それまで何分かかる。」
「目一杯急がせている。焦るんじゃない。」
更に10分後。屋敷を設計したという建築技師が現場に到着した。
白國民という背の低い痩せた老人だった。
「OCTBの李です。」
「どうも…。」
「捜査への協力、感謝いたします。」
「へぇ…。」
「では早速ではありますが、問題の屋敷の見取り図を…。」
「へぇ…。」
机いっぱいに見取り図が広げられた。
「この屋敷はわっしが30年ほど前に設計しやした。」
「隠し部屋もか?」
ユンが割り込む。
「へぇ…前の持ち主…韓彪先生のお父さんが、地下にコレクションルームをと注文を付けてきやしてね。」
見取り図を見る限り、隠し部屋は地下部分にあるようだ。
ユンたちがいた隠し扉のところから下り階段が伸び、面積20平方メートル、高さ3メートルほどの部屋に繋がっている。
「正門と勝手口、それに裏側の斜面以外に屋敷から出る道は?」
「ないです。」
「間違いないな?」
「へぇ…。」
屋敷内のとある部屋。
レオンは鎖に手をつながれ、吊るされた状態で、韓彥英と向かい合っていた。
「正直に答えな。あんたは誰?」
「程志良。警察總部、組織犯罪・三合会調査科、刑事…。」
言い終わる前に鞭が飛んだ。腹に電気が走るような感覚がする。
「っ…!!!」
「そうじゃない!分かってるんだよ?あんたが誰なのか?とぼけるんじゃないよ!」
また鞭で‐今度は頬のあたりを‐叩かれた。
「つっ…!」
「23年ぶりにコレで叩かれるのがそんなに痛い?」
「23年…ぶり?何のことだ…。」
「またとぼけて!」
ビシッ!
「分かってるんだよ。ここに戻ってきて復讐しようってんだね?」
「…復…讐…何を…。」
ビシッ!
「グワッ」
「いっそぶち殺してやろうか!?」
韓彥英は鞭を投げ捨て、テーブルに置いてあったベレッタM70オートを手に取った。
銃口がレオンのこめかみに向けられた。
「さぁこれが最後だ。あんたは…。」
「彥姐ユージェ!」
用心棒たちがやってきた。
「警察は突入するつもりらしいです!」
「…それで?あいつと連絡は付いたの?」
韓夫人はいらいらしながら聞いた。
「はい…例の場所で待つと。」
「よし…足止めは任せたよ。」
「…作戦は次の通りだ。」
SDUの指揮官であるポールが、黒板に張られた見取り図を指しながら説明する。
目の前にはSDU隊員二十人弱と、ボディアーマーを着た刑事たち。
「まず、Aチームを乗せた装甲車が正門から突入し、用心棒たちの気を引く。
その間にBチームが屋敷の背面から接近。スナイパーチームが屋敷の裏側にいる用心棒を倒した後、屋敷内にフラッシュバンを投げ込み、一気に突入する。
Aチームは正面玄関と窓から、Bチームは屋敷の裏口と二階の窓から突入する。」
「ユンはAチーム、キンとティンはBチームと一緒に行け。」
李が指示した。
「何か質問は?」
李が突入に参加する全員に聞いた。が、答えはなかった。
「OK. All unit, action!」
「Yes,Sir‼」
ユンはSDU隊員と共にFV603サラセン装甲車へ乗り込んだ。
窮屈な兵員室には椅子が左右向かい合わせで四座ずつ配置されている。
体格のいい、しかも防弾ベストや戦術ベストなどを身に付けた隊員たちと隣合わせ座ると息が詰まりそうだった。
リアドアが閉められた時、ユンは一瞬、たまに通っているサウナを思い出した…がすぐにもっと酷いと考え直した。
装甲車のエンジンのようなうるさい音は、サウナで聞くことはなかった。
「よし、行くぞ。」
車内がゆっくり揺れ始める。
ユンは前方覗き窓から外を見ようとしたが、覗き口が小さすぎて無理だった。
「運転手、今どうなってる?」
「何だ、不安なのか?正門の真正面だ。突破する。」
装甲車が若干スピードを上げた。
ガシャンという音が-エンジン音にかき消されそうだったが-かすかに聞こえた。
「今、門を突破したぞ。下車展開まであと10秒だ。用意しろ。」
MP5サブマシンガンやショットガンを抱えたSDU隊員たちが身構えた。
「5、4、3、2、1…。」
SDU隊員たちはリアドアを開け、下車した。ユンも急いで続く…と。
ダルルルルルウルルルル!!!
予想通りの抵抗。用心棒たちは屋敷内や物陰からサブマシンガンやショットガンを撃ってきた。
サラセン装甲車の車体に銃弾が当たり、煩い音を立てる。
SDU隊員たちは装甲車の陰に隠れながらじわじわと近づいていく。
流石はSASを参考にした部隊である。用心棒を一人また一人と倒す。
が。屋敷の窓から放り投げられた手榴弾はどうにもできなかった。
「!Take cover!(隠れろ!)」
バン!!!
サラセン装甲車のボディは手榴弾程度ではびくともしなかった。
が、飛んできた破片がSDU隊員一名を傷つけた。足に傷を負った隊員はかろうじて装甲車の陰に隠れた。
「大丈夫か?」
「I'm Ok…。」
よく見ると隊員の太ももに手榴弾と思われる破片が刺さっていた。足元には血だまりが出来ていた。
「しっかりしろ。」
ユンはハンカチを彼の傷口に巻き、きつく縛った。
「Thank you…。」
「…そうだ。お前、そのベストをよこしてくれ。それと銃も。」
「え?」
「早く…。」
「は…はい。」
隊員は戦術ベストを脱ぎ、MP5と一緒にユンに手渡した。
ユンが貰ったベストは、左下に小さなスプレー缶のような缶を収めたポーチが二つ付いていた。
缶には手榴弾そっくりのレバーやピンが付いていた。突入部隊用の装備だ。
煙幕弾やフラッシュバンなどの種類があるが、フラッシュバンの場合はピンが抜かれ、レバーが外れてから2、3秒ぐらいで起爆。凄まじい爆発音と閃光を発し、その場にいた人間が一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りに陥っている間に部隊が突入、制圧する。
「よし…おい。」
ユンはベストを着用すると、別の隊員を呼んだ。
「いいか。俺が接近してこいつを投げ入れる。お前らで援護してくれ。」
「は?無茶言わないでください。ハチの巣にされますよ。」
「俺はそんなヤワじゃねぇ。」
「それに…耳と目をやられますよ。」
ユンはズボンのポケットからサングラスとひしゃげたタバコの箱を取り出した。
サングラスをかけた後、箱からタバコを一本抜き、それを真ん中でちぎって二つにし、両耳に突っ込んだ。
「これでどうだ?」
「無茶です。」
「え?何だ聞こえないな?」
「だから、無茶…。」
「もう行くぞ!」
「周Sir!」
隊員が止める前にユンは駆けだした。
MP5を小刻みに撃ちながら屋敷に近づく。
目の前にショットガンを持った用心棒が二人立ちはだかった。
ユンはMP5を撃ちっぱなしにした。
二人とも銃弾を受けたが、倒れなかった。
MP5が弾切れになった瞬間、ユンは二人のうち一人にタックルした。
そのまま羽交い絞めにする。
銃声が鳴った。もう一人がユンを狙って撃ったのだ。
が、羽交い絞めにしていた一人が盾になり、ハチの巣になった。
ユンは、撃たれた奴が持っていたショットガンを握り、もう一人に発砲した。
用心棒は吹っ飛んだ。
ユンはそれをろくに見ず、窓のそばへ。
中腰で伏せつつ、ポーチからフラッシュバンを取り出して握り、ピンを抜いた。
間髪入れず窓の内側に投げ入れた…。
一方、キンとティンは屋敷の裏の林から接近していた。
むろん別のSDUの部隊-ガスマスクを着用していた-と一緒だ。
彼らは、銃声が激しくなり、爆発音が聞こえ始めたあたりで、屋敷に接近。
チームは二手に分かれており、一方は梯子をかけ、二人ほど二階の方へ上り始めた。
もう一方は一階窓に近寄り、向こうに見えないように中の様子をうかがう。
その際、バルコニーにいた用心棒たちに気づかれたが、そいつらはすぐにバルコニーから転げ落ちた。スナイパーに始末されたのだ。
「どうだ?ポール。」
キンは一階の一室をチェックしていた隊員に聞いた。
「この部屋に二人ほどいる。フラッシュバンを使う。」
「よし…。」
キンとティンは腰に付けていた大き目のポーチから中身を取り出した。
S6ガスマスク。一緒にいるSDU隊員たちが着用しているのと同型のものだ。
これを着用すれば、催涙ガスなどに耐えられる。
キンとティンはそれを被った…。
バーン!!!
凄まじい音が鳴り、ユンがフラッシュバンを投げ込んだ部屋は一瞬白色に染まった。
ユンが室内を覗くと、中にいた用心棒たちが目や耳を押さえているのが見えた。
すかさずユンは窓から飛び込んだ。
まともに銃も拾えなくなっている用心棒たちを蹴り飛ばし、廊下に出た。
無事だった用心棒たちが姿を見せ、撃ってきた。
ユンは隠れて回避しつつ、ショットガンをぶっ放して蹴散らした。
弾が切れると、弱っている用心棒からUZIを失敬し、乱れ撃った。
そうしていると、七,八人ほどが集中砲火を浴びせてきた。
隠れて応戦したが、用心棒たちは被弾して倒れながらもじわじわと近づいてきた。
「やばいかも…。」
ユンは突入したのがまずかったと思い始めていた…。
屋敷の裏側。
「いや、ちょっと待て。」
「?」
「…部屋から出て行った。手順変更だ。」
SDU隊員はフラッシュバンの缶をポーチに戻し、別の缶を手にした。
形状はほぼ同じだが、こちらは煙を出すだけの煙幕弾だった。
ピンを外して投げ込むと、室内はたちまちボヤを起こしたような状態になった。
「GO!GO!」
隊員たちが突入した。
ユンは屋敷の中で追い詰められていた。
用心棒たちがサブマシンガンを乱射しながら近づいている。
ユンも応戦したが、UZIが弾切れになった。
窮鼠だと思ったその時。
「動くな。」
ダルルル!!!ダダダダダダダ!!!
「グワッ!!」
「ウワーッ!!」
用心棒たちが突然後から次々と撃たれ、倒れるのが見えた。
「やっと着いたか。」
ガスマスクを着用したSDU隊員たちが姿を現した。
「ユン、何をしている?突入と制圧は我々の仕事…。」
「突入するのが遅いんだよ。」
ユンはサングラスを外し、耳に詰めていたタバコを取って捨てた。
「何て身勝手な。」
「いつもの事だ。怒らないでくれ。」
キンの声がした。
「キンか。」
「ユン。」
キンもガスマスクをしていた。
「それ、似合うぞ。」
「冷やかすな。」
「ユン、キン、無事か?」
今度はティンが階段を下りてきた。彼は梯子を上って二階から進入していたのだ。
「ああ。そっちは?」
「二階は制圧済みだ。」
「一階もこの分だと、お前がほとんど片付けたかもな」
「そうか…例の部屋、今度こそじっくり見れそうだ…。」
「よし。」
ユンたち三人は隠し部屋の所まで走った。
来てみると、ちょうどSDU隊員たちが突入しようとしているところだった。
隊員の一人が、隠し扉-本棚はもう殆ど残っていなかった-をハンマーで破壊。
すると、内側にはもう一つドアがあった。
すかさず別のSDU隊員が、そっちに爆薬を仕掛ける。
「下がって。」
「はいはい…。」
隊員たち-とユンたち-は物陰まで後退した。
爆薬を仕掛けた隊員がスイッチを握り、押した。隠し扉は吹っ飛んだ。
すかさず他の隊員が突入…する前にユンが飛び込んだ。
「ユン!」
「馬鹿かお前!」
飛び込んだユンの視界に、UZIを持ったスーツ姿の男がいた。
その瞬間、ユンは階段からジャンプし、コルト・ティテクティブを用心棒たちに向かって連射した。
ユンが着地して転がると同時に、用心棒二人は腹や肩を押さえながら倒れた。
「ユン!」
キンが怒鳴っていた。
「お前いい加減にしろよ!」
「悪ぃ…。」
キンとティン、それにSDU隊員たちが入ってくる間に、ユンは室内を見回した。
隠し部屋は大体見取り図の通りで、縦横約10メートル、高さ3メートルほどの地下室だった。
床には赤いカーペットが引かれ、天井からぶら下がるフープ型の小さなシャンデリアに照らされていた。
右側には特大サイズのベッド、左側には牢屋のような檻があった。
その檻の中で子供が五,六人、縮こまって震えていた。うち二人は男の子のようだった。
「みんな、もう大丈夫だ。」
ユンが声をかけた後、SDU隊員たちが檻を開け、子供たちを連れ出していった。傷ついた用心棒二人も同じだ。
「ここはやっぱり…。」
「ああ。韓彪の秘密の趣味部屋だ。」
「子供をここに監禁して…。」
ベッドのそばの壁には、ムチやロープ、鎖のついた足枷などが並べられていた。
壁には赤茶色の小さなシミもいくつかあった。
「韓彪は何て奴だ。殺されても文句は言えないな。」
「周Sir.」
SDU隊員の一人が話しかけてきた。
「他の部屋をチェックしていたチームより連絡です。程刑事と韓彥英の姿が見当たらないそうです。」
「ちゃんと調べたのか?」
ティンが食ってかかる。
「ん…?」
ユンは足元に違和感を覚えた。
「どうした。」
「ここ…。」
足元をトントンと踏みつける。
「もしかして…。」
ユンはしゃがんでカーペットをめくった。
「あっ!」
小さなマンホールだった。
「ここか…。」
ユンは蓋を持ちあげ、放り投げた。
マンホールの直径は40cm程度。梯子で下に降りられるようになっている。
底をよく見ると、水が流れていた。水道だ。
「あのクソ親父め!他に出口はないなんてヌカしやがって…。」
ティンが毒づく。
「行こう。」
「待てよ!」
ユンはさっさと降りていく。
キン、ティン、SDU隊員たちも後に続いた…。
水道内は暗かったが、MP5の上部に取り付けられた大型のライトが先を照らしていた。
ユンたちは警戒しながら進んでいた…と。
「!」
一瞬、人影が見えた。誰かいる。
「咪郁!(動くな!)」
じわじわと近づいていった…が。
「咪開槍!(撃つな!)」
「?レオン?」
「やっと来てくれたか。」
レオンは両手に手錠をかけられ、服はボロボロでよれよれの状態だった。何より顔が血まみれだった。
「お前…その血は…。」
ユンは駆けより、レオンの手錠を外した。
「あ、ああ…この血は俺のじゃない。」
「それじゃ…。」
「周Sir!」
先に進んだSDU隊員が何か見つけたらしい。
「どうした?」
行ってみると…。
「あっ…。」
「韓彥英…。」
仰向けで倒れていた。顔面には生気がなく、頭から噴き出したものが水道を真っ赤に染めていた。
ユンは振り返ってレオンを見た。
「どういうことだ?」
「すまない…俺の不手際だ…。」
レオンが忌々しげに話し始めた。
「10分ぐらい前に、韓彥英は俺を連れてここに逃げ込んだ。
計画では、出口付近に待っている手下の車で逃げる気だったらしい。
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「ああ…。」
足元にはベレッタM70が転がっていた。
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