59 / 75
夏の大会編
優梨華VS涼紀の妹
しおりを挟む
それから優梨華は、幸長の世話を積極的に行なった。
母親や兄から見れば今まで距離を置いていたのが嘘に思える程、家に帰るギリギリの時間まで幸長の側に寄り添っていた。
一方幸長は医者も驚くような回復を見せ、杖を突きながらも歩くけるようになり、予定より一週間早く退院することが出来た。
その後も幸長は毎日毎日、血の滲むようなリハビリやトレーニングをした。その結果普通に歩くどころか、事故前と変わらない速さで、走ることまで出来るようになった。
もちろん優梨華もリハビリやトレーニングを手伝った。その中でトレーニング、リハビリ中にも決して弱音を履かず常に全力で励んでいた幸長を見て、ますます惚れていった。
そうして、現在。もはや優梨華の愛は手に負えないものにまでなっていた。今も三塁側の中段の通路で、試合前の練習ではなく幸長の写真を見つめていた。
「お兄ちゃんが野球してるとこ、久しぶりに見るなあ。前来た時は凄く打っていたし。今日も、打ってくれて活躍して……。うん。きっと、喜んでくれる。んーー! 堪らないわ!」
優梨華が、妄想に入り浸っていたその時だった。
「あら、珍しいわね。氷の女帝と言われる大島さんが、こんな所にいて、おまけに、いつも見ないようなハイテンションに、いつもと違う、かわいい声出してるなんて。明日は嵐かしら?」
優梨華には聞き覚えのあるハリのある声だった。表情を引き締め咳払いをして後ろを振り返る。
「笠野さん。まさか、こんな所で会うなんてね」
優梨華は、学校の時の声に変えて、言った。
そこにいたのは涼紀の妹である笠野涼花だった。
数十分前。涼花は、兄である涼紀と会っていた。
「へー。ほぼ野球初心者の、バカ兄でもスタメンなんだ」
「まあ。俺は運動能力が高いからな!」
冷めた目の涼花に対し、自慢げにドヤ顔で答えるも涼花は華麗にスルーしていた。
「そういえば、今日はパパも来てるよ」
「え⁈ マジか! どこにいるんだ!!」
熱くなりすぎて、涼花の方へと迫っっていた。
「ちっ、近いし、ウザイし、熱くるしいから離れろ!」
両手で涼紀を突き放す。涼紀は少し深呼吸をして心を落ち着かせた。
「ご、ごめん。で、父さんはどこに?」
「うーんと、もう既に三塁側の観客席かな? パパったら、来るなり釘付けになって観てるんだから。だから、バカ兄に今日は来てるってのを伝えてこい、って伝言されたの」
「なーんだ。せっかく試合前になんかアドバイス貰おうと思ってたのに…」
涼紀は肩を落とした。
「あと、全力を尽くして来いだって。それじゃ、あたしは戻るから」
そう言って、涼花は、観客席の方へと向かった。
「えーっと、あたしは何処から来たんだっけ?」
涼紀のところに行ったのは良かったが、涼花は、元の場所に戻れずにいた。
「こっちだっけ? それともあっちだった……?!」
入口を探していると、涼花はふと、ある人物の気を感じ取り、その方へ振り向いた。
「あの髪の色は……、あいつしかいない!」
涼花は確信した。その気配の正体が、自分のおそらく最大のライバルである優梨華であることを。
涼花はすぐさま後をつけた。学校でライバルである以上、何かしらの弱みを握っておきたい。だが、学校生活ではそんな要素をあまり見せない。あるとしたら、胸のサイズくらいだ。
だが普段誰も見ていない所では、何か隠しているものも出てきたりする。いわば相手の癖などを見抜くチャンスでもあるのだ。
涼花は気づかれないように、ある程度の距離を保っている。
「あいつは気付いていない。大丈夫。けど、あいつはいつも通り、無表情、というか、偉そうな顔してんなー」
涼花はギュッと、拳を握りしめる。それと同時に若干早足になった。
「ちょっと自分が金持ちで、顔が良くて、私より経験がない癖にバスケ上手くて、頭がイイってだけで女王様のような態度取りやがって。本当、イライラするー!」
涼花は次第に、優梨華に対する愚痴をこぼし始めた。
「それにしても、なんでこんな所に来て……あ、表情がなんか緩くなった。珍しいな。恋人か、誰か見つ、え、なんでいきなり走り始めるの⁈」
おそらく、見つけた相手は、幸長である。だが、そんなことを知らない涼花は、戸惑いながらも、見失なわないように、走った。しかし、人混みの中に紛れ、見失ってしまった。
「えっと、どこにい………」
人混みから逃れ、優梨華を見つけた瞬間。涼花はあり得ない光景に、思わず言葉を失った。
「お兄ちゃん!!」
なんとあの優梨華が、頬を緩ませまるでご主人様を見つけた子犬のような態度をとっているではないか。
普段学校では絶対に見ない光景である。
もしも、この様子を写真で撮ってばら撒けば、あいつのイメージは大崩れするはず。
涼花はスマホを取り出し、写真を撮った。
そして、優梨華と対峙している、今に至る。
母親や兄から見れば今まで距離を置いていたのが嘘に思える程、家に帰るギリギリの時間まで幸長の側に寄り添っていた。
一方幸長は医者も驚くような回復を見せ、杖を突きながらも歩くけるようになり、予定より一週間早く退院することが出来た。
その後も幸長は毎日毎日、血の滲むようなリハビリやトレーニングをした。その結果普通に歩くどころか、事故前と変わらない速さで、走ることまで出来るようになった。
もちろん優梨華もリハビリやトレーニングを手伝った。その中でトレーニング、リハビリ中にも決して弱音を履かず常に全力で励んでいた幸長を見て、ますます惚れていった。
そうして、現在。もはや優梨華の愛は手に負えないものにまでなっていた。今も三塁側の中段の通路で、試合前の練習ではなく幸長の写真を見つめていた。
「お兄ちゃんが野球してるとこ、久しぶりに見るなあ。前来た時は凄く打っていたし。今日も、打ってくれて活躍して……。うん。きっと、喜んでくれる。んーー! 堪らないわ!」
優梨華が、妄想に入り浸っていたその時だった。
「あら、珍しいわね。氷の女帝と言われる大島さんが、こんな所にいて、おまけに、いつも見ないようなハイテンションに、いつもと違う、かわいい声出してるなんて。明日は嵐かしら?」
優梨華には聞き覚えのあるハリのある声だった。表情を引き締め咳払いをして後ろを振り返る。
「笠野さん。まさか、こんな所で会うなんてね」
優梨華は、学校の時の声に変えて、言った。
そこにいたのは涼紀の妹である笠野涼花だった。
数十分前。涼花は、兄である涼紀と会っていた。
「へー。ほぼ野球初心者の、バカ兄でもスタメンなんだ」
「まあ。俺は運動能力が高いからな!」
冷めた目の涼花に対し、自慢げにドヤ顔で答えるも涼花は華麗にスルーしていた。
「そういえば、今日はパパも来てるよ」
「え⁈ マジか! どこにいるんだ!!」
熱くなりすぎて、涼花の方へと迫っっていた。
「ちっ、近いし、ウザイし、熱くるしいから離れろ!」
両手で涼紀を突き放す。涼紀は少し深呼吸をして心を落ち着かせた。
「ご、ごめん。で、父さんはどこに?」
「うーんと、もう既に三塁側の観客席かな? パパったら、来るなり釘付けになって観てるんだから。だから、バカ兄に今日は来てるってのを伝えてこい、って伝言されたの」
「なーんだ。せっかく試合前になんかアドバイス貰おうと思ってたのに…」
涼紀は肩を落とした。
「あと、全力を尽くして来いだって。それじゃ、あたしは戻るから」
そう言って、涼花は、観客席の方へと向かった。
「えーっと、あたしは何処から来たんだっけ?」
涼紀のところに行ったのは良かったが、涼花は、元の場所に戻れずにいた。
「こっちだっけ? それともあっちだった……?!」
入口を探していると、涼花はふと、ある人物の気を感じ取り、その方へ振り向いた。
「あの髪の色は……、あいつしかいない!」
涼花は確信した。その気配の正体が、自分のおそらく最大のライバルである優梨華であることを。
涼花はすぐさま後をつけた。学校でライバルである以上、何かしらの弱みを握っておきたい。だが、学校生活ではそんな要素をあまり見せない。あるとしたら、胸のサイズくらいだ。
だが普段誰も見ていない所では、何か隠しているものも出てきたりする。いわば相手の癖などを見抜くチャンスでもあるのだ。
涼花は気づかれないように、ある程度の距離を保っている。
「あいつは気付いていない。大丈夫。けど、あいつはいつも通り、無表情、というか、偉そうな顔してんなー」
涼花はギュッと、拳を握りしめる。それと同時に若干早足になった。
「ちょっと自分が金持ちで、顔が良くて、私より経験がない癖にバスケ上手くて、頭がイイってだけで女王様のような態度取りやがって。本当、イライラするー!」
涼花は次第に、優梨華に対する愚痴をこぼし始めた。
「それにしても、なんでこんな所に来て……あ、表情がなんか緩くなった。珍しいな。恋人か、誰か見つ、え、なんでいきなり走り始めるの⁈」
おそらく、見つけた相手は、幸長である。だが、そんなことを知らない涼花は、戸惑いながらも、見失なわないように、走った。しかし、人混みの中に紛れ、見失ってしまった。
「えっと、どこにい………」
人混みから逃れ、優梨華を見つけた瞬間。涼花はあり得ない光景に、思わず言葉を失った。
「お兄ちゃん!!」
なんとあの優梨華が、頬を緩ませまるでご主人様を見つけた子犬のような態度をとっているではないか。
普段学校では絶対に見ない光景である。
もしも、この様子を写真で撮ってばら撒けば、あいつのイメージは大崩れするはず。
涼花はスマホを取り出し、写真を撮った。
そして、優梨華と対峙している、今に至る。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
彼女に思いを伝えるまで
猫茶漬け
青春
主人公の登藤 清(とうどう きよし)が阿部 直人(あべ なおと)に振り回されながら、一目惚れした山城 清美(やましろ きよみ)に告白するまでの高校青春恋愛ストーリー
人物紹介 イラスト/三つ木雛 様
内容更新 2024.11.14
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。
みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』
俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。
しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。
「私、、オバケだもん!」
出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。
信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。
ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる