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夏の大会編
スタメン
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大会前日の夕方。
日が落ちかけ、野球部グラウンドに西日が差し込んでいた。部員は全員整列をして、スタメン発表の時を待っていた。
それから数分後、メモ用紙を持った薗部が、にっこりと笑顔を見せながら、グラウンドに現れた。やがて部員達の前に来ると、少し咳払いをして、視線を部員達に向けた。
「それじゃあ、スタメンを発表します。今から呼ぶメンバーは、僕が悩みに悩みぬいて考え出した明林の、現状のベストメンバーです」
ベストメンバー、という言葉に野球部員からどよめきの声が上がる。
「相手や調子、怪我などよって、多少の変動はありますが、基本はこのメンバーで行きます。なのでスタメンに選ばれた方は覚悟しておいて下さい。それでは、発表します」
薗部が、メモ用紙に視線を落とす。薗部の顔から笑顔が消える。その瞬間、部員達に緊張が走る。
「一番。センター、幸長君」
幸長は、ふーっと軽く息を吐くだけで、特に喜んでいる様子はなかった。
「二番。ピッチャー、伸哉君。三番。ショート、二蔵君。四番。キャッチャー、彰久君」
伸哉と二蔵も、そう大して喜ぶ様子を見せていなかった。一方の彰久は、よっしゃあっ、と声と右腕を突き上げて嬉しさを爆発させていた。
「えーっと、喜ぶのはけっこうですが、終わってからにしてくださいね?」
薗部は、少しだけ頬を緩めていた。
「それでは戻りますよ。五番。ファースト、須野君。六番。サード、日田君。七番。ライト、国能君。八番。セカンド、石浜君」
名前を呼ばれた部員が安堵の表情を浮かべる中、自分のポジションで呼ばれなかった部員はみな、下げた視線を上げられなかった。もう既に、すすり泣く声すらも聞こえてきた。
そして、まだ呼ばれていないポジションは、三年生で唯一メンバー登録されている馬場と、現在急成長中の野球初心者、涼紀のポジションであるレフトが残っていた。
「それでは、最後です」
二人はぐっと、組んだ拳を握りしめる。それぞれの、思いを込めて。
「九番。レフト……笠野君」
薗部が選んだのは勢いのある涼紀だった。涼紀が身体から溢れ出る感情を爆発させようと、拳を握り占めている。だが、その隣で立ち尽くしたまま青白い顔で、小刻みに震えていた馬場の姿が視界に入った。
その瞬間涼紀から、爆発しそうだった感情が一気に冷め、何故自分が選ばれたのか、という困惑の表情に変わっていた。
「どうしたの涼紀君」
薗部は前列にいる涼紀に駆け寄り、優しく声を掛ける。
「いや、監督……。なんで俺が……」
いつも熱苦しく明るい涼紀だが、この時ばかりはそうでなかった。
「ありとあらゆる事を想定した結果だからです。涼紀君。野球というのは残酷なのです。誰でもメンバーになれるわけではないのです。でも涼紀君。君は選ばれたんだ。君が取るべき態度は、今のような態度じゃない。もっと、誇らしく、堂々としていなさい」
そう言って、ポンポンと軽く肩を叩いき、再び自分のいたところに戻った。
「今回選ばれなかった人も、いつでも出られるように、準備を怠らないでください。野球の試合に同時に出られるのは九人です。けど、勝つためには、九人以外の力が必要です。だからこそ、ここで腐らずに、いつでもスタメンを奪ってやるっていう気持ちを見せて、練習に望んでください」
「はい!!」
選ばれなかった部員達が、顔を上げて返事をした。中には、赤目になっている者もいたが、今は誰も涙を流していなかった。
「それから、選ばれなかった益川君と加曽谷君には、それぞれ記録員とボールボーイとして、ベンチに入ってもらいます」
その話を聞いていなかった二人は、えっと声を同時に上げた。
「ですから、今年のウチは、全員がベンチ入りです。ベンチ一丸となって、目標の三回戦、いや、それ以上を目指して行きましょう」
「はい!!」
部員全員の声が、グラウンド上に響き渡った。
日が落ちかけ、野球部グラウンドに西日が差し込んでいた。部員は全員整列をして、スタメン発表の時を待っていた。
それから数分後、メモ用紙を持った薗部が、にっこりと笑顔を見せながら、グラウンドに現れた。やがて部員達の前に来ると、少し咳払いをして、視線を部員達に向けた。
「それじゃあ、スタメンを発表します。今から呼ぶメンバーは、僕が悩みに悩みぬいて考え出した明林の、現状のベストメンバーです」
ベストメンバー、という言葉に野球部員からどよめきの声が上がる。
「相手や調子、怪我などよって、多少の変動はありますが、基本はこのメンバーで行きます。なのでスタメンに選ばれた方は覚悟しておいて下さい。それでは、発表します」
薗部が、メモ用紙に視線を落とす。薗部の顔から笑顔が消える。その瞬間、部員達に緊張が走る。
「一番。センター、幸長君」
幸長は、ふーっと軽く息を吐くだけで、特に喜んでいる様子はなかった。
「二番。ピッチャー、伸哉君。三番。ショート、二蔵君。四番。キャッチャー、彰久君」
伸哉と二蔵も、そう大して喜ぶ様子を見せていなかった。一方の彰久は、よっしゃあっ、と声と右腕を突き上げて嬉しさを爆発させていた。
「えーっと、喜ぶのはけっこうですが、終わってからにしてくださいね?」
薗部は、少しだけ頬を緩めていた。
「それでは戻りますよ。五番。ファースト、須野君。六番。サード、日田君。七番。ライト、国能君。八番。セカンド、石浜君」
名前を呼ばれた部員が安堵の表情を浮かべる中、自分のポジションで呼ばれなかった部員はみな、下げた視線を上げられなかった。もう既に、すすり泣く声すらも聞こえてきた。
そして、まだ呼ばれていないポジションは、三年生で唯一メンバー登録されている馬場と、現在急成長中の野球初心者、涼紀のポジションであるレフトが残っていた。
「それでは、最後です」
二人はぐっと、組んだ拳を握りしめる。それぞれの、思いを込めて。
「九番。レフト……笠野君」
薗部が選んだのは勢いのある涼紀だった。涼紀が身体から溢れ出る感情を爆発させようと、拳を握り占めている。だが、その隣で立ち尽くしたまま青白い顔で、小刻みに震えていた馬場の姿が視界に入った。
その瞬間涼紀から、爆発しそうだった感情が一気に冷め、何故自分が選ばれたのか、という困惑の表情に変わっていた。
「どうしたの涼紀君」
薗部は前列にいる涼紀に駆け寄り、優しく声を掛ける。
「いや、監督……。なんで俺が……」
いつも熱苦しく明るい涼紀だが、この時ばかりはそうでなかった。
「ありとあらゆる事を想定した結果だからです。涼紀君。野球というのは残酷なのです。誰でもメンバーになれるわけではないのです。でも涼紀君。君は選ばれたんだ。君が取るべき態度は、今のような態度じゃない。もっと、誇らしく、堂々としていなさい」
そう言って、ポンポンと軽く肩を叩いき、再び自分のいたところに戻った。
「今回選ばれなかった人も、いつでも出られるように、準備を怠らないでください。野球の試合に同時に出られるのは九人です。けど、勝つためには、九人以外の力が必要です。だからこそ、ここで腐らずに、いつでもスタメンを奪ってやるっていう気持ちを見せて、練習に望んでください」
「はい!!」
選ばれなかった部員達が、顔を上げて返事をした。中には、赤目になっている者もいたが、今は誰も涙を流していなかった。
「それから、選ばれなかった益川君と加曽谷君には、それぞれ記録員とボールボーイとして、ベンチに入ってもらいます」
その話を聞いていなかった二人は、えっと声を同時に上げた。
「ですから、今年のウチは、全員がベンチ入りです。ベンチ一丸となって、目標の三回戦、いや、それ以上を目指して行きましょう」
「はい!!」
部員全員の声が、グラウンド上に響き渡った。
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