マウンド

丘多主記

文字の大きさ
上 下
38 / 75
テスト編

伸哉の家へ

しおりを挟む
 幸長と涼紀はすぐにでも出て行きたかった。

 しかし、あまりにも彰久が集中しすぎていたため、仕方なく冷たい視線を浴びながら一緒にいることになった。

 流石に閉館三分前になったところで彰久を椅子から引き剥がし、図書室から一階の昇降口へと向かう少し薄暗い廊下を歩いていた。

「いやー。久しぶりに集中して勉強したよ。この調子でいけば何とかなりそうだ」

 能天気に彰久は言ったが、幸長と涼紀は何も言えなかった。

「ありがとうな幸長。恩に着るぜ」

「いえ、どういたしまして」

 熱い彰久の言葉に対し、幸長の返事は棒読みに等しかった。教室から漏れた光が当たったその顔はどっと疲れを感じさせるものだった。

「借りは試合で返すからな。あ、そういや今日は伸哉いなかったけど涼紀知ってる?」

 階段に差し掛かったところで、彰久はそのことにようやく気づいたようだ。予想外の言葉に幸長と涼紀は思わず足を踏み外しそうになった。

「そうですね。確か熱をだして今日は学校を休んでる、って監督に聞きました」

 それを聞くと、彰久は顎に手を当てながらずいぶん物珍しそうな顔をしていた。彰久の記憶の中では熱をだしたり風邪を引いたりして休んだという日はあまりなかったようだ。

「それで先輩は伸哉の家知ってます? 明日軽くお見舞いに行こうかなと思ってるんですけども」

 最悪と言える初対面の時からは全く考えもつかないような一言だったせいか、彰久はお前がかと、大声で叫んだ。それを聞いた涼紀は不機嫌そうな顔をしていた。

「ごめんごめん。一応伸哉の家は知ってるんだけど、そう言えば一回も中に入ったことがないんだよなあ」

「小学校頃にバッテリーを組んでいたのにかい?」

 幸長は図書室での仕返しも込めて、彰久をおちょくるように言う。

「あのさあ俺と伸哉の家は昔は遠かったし、そもそも学校も違ってたんだよ。それに練習も夜遅くまでやるし、普段は別の人と遊んでるからそんな機会殆ど無かったんだよ」

 幸長の皮肉にムッときたのかかなりムキになって彰久は言い返した。幸長は涼しそうにそれを聞き流していた。

「とっ、とにかく知っているんですよね? だったら一緒に行きませんか?」

 涼紀はとりあえず話を元に戻すために、二人の会話の間に割って入った。

「おういいぜ。俺もちょっと家の中入りたいし」

「そうだねえ。面白そうだから僕も同行させて貰おうか」

 幸長がついてくると言った瞬間、またも二人の間で会話のドッヂボールが始まってしまった。

「あ、あのー。時間はどうしましょうか」

 涼紀はまた二人の会話の中に割って入った。涼紀の存在に気付けるほどには落ち着いているようである。

「そうだなあ。一時とかでどうだ?」

「いいっすね。幸長先輩は」

「うーん。僕もそれでいいかな」

 その後も度々幸長と彰久の軽い口論をはさみながらも集合場所等を決めた。こうして三人は翌日、伸哉の家へ行くことになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

放課後、理科棟にて。

禄田さつ
青春
寂れた田舎の北町にある北中学校には、都市伝説が1つ存在する。それは、「夜の理科棟に行くと、幽霊たちと楽しく話すことができる。ずっと一緒にいると、いずれ飲み込まれてしまう」という噂。 斜に構えている中学2年生の有沢和葉は、友人関係や家族関係で鬱屈した感情を抱えていた。噂を耳にし、何となく理科棟へ行くと、そこには少年少女や単眼の乳児がいたのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...