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練習試合編
本領発揮
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守備のタイムが取られ、久良目商業の内野陣がマウンド上に集められる。ベンチからマウンド上へ西浦が急いで走って来る。
大地はマウンド上でうなだれる。やはり自分には早かったのだ。ニセモノの自分が本物の伸哉に勝つ、ましてやグラウンドで投げ合うなど夢のまた夢だ、という言葉が頭の中で渦巻いていた。
「なーにしょぼくれてやがんだアホ大地」
「西浦……」
うなだれている大地に最初に声をかけたのは、伝令に来た西浦だった。
「小代羅さんからの伝令はまず木場。とにかく六回までは絶対に投げてもらう。場合によっては七、八回までいく、とのことだ」
木場はベンチを向いたが、小代羅はわざと大きくマウンドから目線を外していたていた。
「それから古賀さんへ。もうちょっとバッターを考えたリードをしろ。明林の打線を舐めてただろ? 投手の良さを引き出すのもいいが、相手からは読まれてます。あのホームランも防げた失点です。普通なら僕に変えるところですが、六回までは変えないからそこをキチンと考えろ、とのことです」
この部分、実は西浦が勝手に自分の意見を、あたかも小代羅が言ったかのように伝えているだけだった。
当然その事を一切知らない古賀は怠そうに返事をした。それが非常におかしく思えたのか、一瞬西浦はニヤッとしたがすぐさま真剣な表情に戻った。
「内野陣の動きはいつも通りでいいぞ。以上です」
古賀に対する指示を除き、小代羅の指示をそのまま伝えて一度目の伝令は終わった。
「ふぅー。じゃあもう一度整えましょうか」
プレートの中心で手を合わせる。
「ここから巻き返して行こうぜ!!」
『おうっ!!』
古賀はマウンド上の内野陣に気合いを入れ直した。
「そうだ大地。初回に気づいててずっと言うのを忘れてたけど、今日のお前、球に怖さがない。無意識かも知れねえけど今日は腰を捻ってねえぞ」
マウンドからベンチへ戻る前に、思い出したように西浦が言った。
「それを最初に言えって!!」
まだ硬い表情をしていた大地は笑っていた。
「ストラックアウトォッ!」
西浦のアドバイスが緊張や動揺を消し去ったのか、続く須野には本来の投球を見せ、あっという間に三球三振に切って取った。
「戻してきてしまいましたか……」
この三球は今までの腰の捻りの小さいオーバースローから、本来のフォームであるトルネード投法に戻ったと同時に、ボールの迫力や球威が遠くからでも感じ取れるまでになっていた。
「やっぱり戻るとヤバイっすね」
これが今さっきホームランを打った投手なのか、とあまりの変化に彰久は驚いているようだった。
「うーん、今の三球で最も速かったのが二球目で百四十キロ後半くらい。彰久君に投げた三球目と同じくらいですが、いつものフォームで投げている分球威が増していますね。これでは、よほど乱調を起こさない限り打つのは難しいでしょう」
「じゃあ、どうするんですか?」
「苦し紛れですが、球数を投げさましょう。残念ですがうちの選手に今の木場君からヒットを打つのはちょっと厳しそうですから」
ありきたりな作戦を薗部は指示する。だが彰久はこの時の深刻そうな表情を見て、もうこれしか無いのだろうと感じ取っていた。
「ストライクアウトォッ!!」
当然ながら馬場も三振に倒れ、この回の攻撃は三点で終了した。
その後のイニングはヒットどころか、ボールが全くと言っていいほど当たらなくなってきた。
力でグイグイと押して三振の山を築く大地に対して、なにも有効な対策の立てられず、ただ攻撃を終えていくだけだった。
そんな状況の中迎えた六回の裏。先頭は一番の幸長が左バッターボックスに入いる。
「この回は一番期待出来る幸長君からですか」
彰久も薗部の言葉に同意していた。
「まあ、そうっすね」
「幸長君は前の打席で二回から五回の攻撃で、うちのチームで唯一どの球種も完璧に捉えていました。結果は三振でしたが、期待が持てるとしたら彼だけでしょうね」
「幸長、頼むぞ……」
彰久は幸長がヒットを打ってくれることを願っているようだった。
大地はマウンド上でうなだれる。やはり自分には早かったのだ。ニセモノの自分が本物の伸哉に勝つ、ましてやグラウンドで投げ合うなど夢のまた夢だ、という言葉が頭の中で渦巻いていた。
「なーにしょぼくれてやがんだアホ大地」
「西浦……」
うなだれている大地に最初に声をかけたのは、伝令に来た西浦だった。
「小代羅さんからの伝令はまず木場。とにかく六回までは絶対に投げてもらう。場合によっては七、八回までいく、とのことだ」
木場はベンチを向いたが、小代羅はわざと大きくマウンドから目線を外していたていた。
「それから古賀さんへ。もうちょっとバッターを考えたリードをしろ。明林の打線を舐めてただろ? 投手の良さを引き出すのもいいが、相手からは読まれてます。あのホームランも防げた失点です。普通なら僕に変えるところですが、六回までは変えないからそこをキチンと考えろ、とのことです」
この部分、実は西浦が勝手に自分の意見を、あたかも小代羅が言ったかのように伝えているだけだった。
当然その事を一切知らない古賀は怠そうに返事をした。それが非常におかしく思えたのか、一瞬西浦はニヤッとしたがすぐさま真剣な表情に戻った。
「内野陣の動きはいつも通りでいいぞ。以上です」
古賀に対する指示を除き、小代羅の指示をそのまま伝えて一度目の伝令は終わった。
「ふぅー。じゃあもう一度整えましょうか」
プレートの中心で手を合わせる。
「ここから巻き返して行こうぜ!!」
『おうっ!!』
古賀はマウンド上の内野陣に気合いを入れ直した。
「そうだ大地。初回に気づいててずっと言うのを忘れてたけど、今日のお前、球に怖さがない。無意識かも知れねえけど今日は腰を捻ってねえぞ」
マウンドからベンチへ戻る前に、思い出したように西浦が言った。
「それを最初に言えって!!」
まだ硬い表情をしていた大地は笑っていた。
「ストラックアウトォッ!」
西浦のアドバイスが緊張や動揺を消し去ったのか、続く須野には本来の投球を見せ、あっという間に三球三振に切って取った。
「戻してきてしまいましたか……」
この三球は今までの腰の捻りの小さいオーバースローから、本来のフォームであるトルネード投法に戻ったと同時に、ボールの迫力や球威が遠くからでも感じ取れるまでになっていた。
「やっぱり戻るとヤバイっすね」
これが今さっきホームランを打った投手なのか、とあまりの変化に彰久は驚いているようだった。
「うーん、今の三球で最も速かったのが二球目で百四十キロ後半くらい。彰久君に投げた三球目と同じくらいですが、いつものフォームで投げている分球威が増していますね。これでは、よほど乱調を起こさない限り打つのは難しいでしょう」
「じゃあ、どうするんですか?」
「苦し紛れですが、球数を投げさましょう。残念ですがうちの選手に今の木場君からヒットを打つのはちょっと厳しそうですから」
ありきたりな作戦を薗部は指示する。だが彰久はこの時の深刻そうな表情を見て、もうこれしか無いのだろうと感じ取っていた。
「ストライクアウトォッ!!」
当然ながら馬場も三振に倒れ、この回の攻撃は三点で終了した。
その後のイニングはヒットどころか、ボールが全くと言っていいほど当たらなくなってきた。
力でグイグイと押して三振の山を築く大地に対して、なにも有効な対策の立てられず、ただ攻撃を終えていくだけだった。
そんな状況の中迎えた六回の裏。先頭は一番の幸長が左バッターボックスに入いる。
「この回は一番期待出来る幸長君からですか」
彰久も薗部の言葉に同意していた。
「まあ、そうっすね」
「幸長君は前の打席で二回から五回の攻撃で、うちのチームで唯一どの球種も完璧に捉えていました。結果は三振でしたが、期待が持てるとしたら彼だけでしょうね」
「幸長、頼むぞ……」
彰久は幸長がヒットを打ってくれることを願っているようだった。
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