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1-9.薬師になる方法
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この国の薬師は、3つの要件が揃っていないとなることはできない。
(1)薬草と製法の知識
(2)機材の調達と調合技術の習得
(3)鑑定や錬成の魔法行使
1つ目は独学でもなんとかなるが、2つ目は調合技術が本の記述などにはなく、実地で学ぶしかない。
魔法も一般書物の知識だけでは不足を埋められず、魔力の使い方や魔法発動の仕方を体で覚えるしかない。
そのため、薬師になる人の多くは、現役の師匠に弟子入するか、学院で学ぶかしかない。このどちらかがあれば、技術も魔法もまとめて学べるからである。
ミラにとって、知識はすでに頭の中にあるため1つ目はクリアしているが、機材はお金がまだ足りずにかえておらず、弟子入りや学院入学のツテもない。
弟子入りの場合、師匠となる人を探さねばならず、お願いする必要がある。弟子を取らない人も多いため、この方法は難儀する。
だが、学院の場合は結構なお金と後ろ盾が必要となる。しかし、あの家から離れたミラは貴族の名前を使うことはできず、着の身着のまま家を出た後も、なんとか逃げ延びただけに過ぎないため、通えそうにない。
この街には薬師が3人居て、1人は引退、2人はその弟子が新たな薬師として冒険者ギルドに所属している。
その弟子の2人は立派な薬師ではあるが、弟子は取らないらしい。
そうなると、消去法で学院しかなくなる。だが、それは無理。
この話をギルド受付のスフィアに聞いて、ミラはつい考え込んでしまう。
「どうしましょう……」
薬草採集で知識と実際の経験が足りないことを知ったミラ。それは薬師として知識だけではポーション作りができないことを意味していた。
「意外な盲点だったわ」
作り方がわかれば試行錯誤でどうにかできないかを思案する。
けれど、薬師の作業は危険も伴うため、下手をすると死んでしまう。死ななくても、不治性の症状が出ることもあるという。
確かに文献でそういう実験に失敗するリスクは目にしていたが、正しい方法を学べる師匠がすぐに見つからないことは想定していなかった。
「学院に通うようなお金なんて用意できないし、後ろ盾も身分もないわ……。やっぱり、その弟子の2人、どちらかにダメ元で頼み込んでみようかしら」
そこで考えるのをやめて、とりあえず、行動を起こすことにした。
スフィアに2人の居場所を聞くことにする。
「スフィアさん。それで、その方たちはどこにいるのでしょうか?」
「工房の場所でしたら、こちらに」
地図の書かれた羊皮紙と、目印があった。
「ありがとうございます」
「まあ、難しいと思いますけどね。2人とも癖が強くて、弟子なんて取らない。そうおしゃっていましたから」
ミラはギルド内のカウンター周辺を見回した。
「今日はやけに人が少ないですよね? いつもスフィアさん以外に何人か働いていましたけど」
「ああ、なんかお偉いさんが王都から来るらしいです。まあ、冒険者ギルドのことだと思いますから、私達には関係なくても、こういう日は人手が出払ってしまうんです」
「そうでしたか。忙しい中ありがとうございます」
そういってミラは冒険者ギルドを後にした。外を出る時、一応、周囲を見回す。
(王都からって言っていたし、来たのは実家の者ではないわよね?)
ミラの顔を知っているのは、家族と家に出入りしていた中でもごく一部、そして、使用人くらいだった。
それらしい人影もいない。取り越し苦労だったらしい。
街を北西の方に歩いて地図と照らし合わせながら工房に向かう。
15分ほど歩いただろうか。こじんまりとしたレンガ造りの建物があった。
独特のセンスなのか、周囲の自然な景観をぶち壊すような色合いで、黒や黄色が縞模様のように着色レンガは並んでいた。
「ごめんください」
こんこん。ミラは扉を叩いた。
すると、男性の声が聞こえた。
「は~い、どちら様?」
顔を出したのは蜂蜜色の髪をした爽やかな若い男性だった。薬師のイメージとは少し違う。
「ルーベック様ですか? 私、ミラと申しまして、弟子入りに――」
ばたん。
勢いよく扉が閉まる音がして、ミラは扉の前に取り残された。
「帰ってくれ」
「あの、弟子入りをお願いしに来たんですけど!」
扉を何度か叩くが反応がなくなった。
(会話さえしてくれないなんて……)
まさか、ここまで拒絶されるとは思っていなかったミラは、仕方なく踵を返した。
もう一軒の工房に行くべく、今度は南東方向に歩き出す。
工房を見つけると、そこはベーシックなタイル作りに桃色の着色がされた独自のセンスが際立つ建物になっていた。
「ごめんください」
こんこん。ミラは扉を叩いた。
すると、若い女性の声が聞こえた。
「は~い、どなた?」
顔を出したのは黒髪で綺麗な大人っぽい女性だった。雰囲気は魔女そのもの。
「メリエラ様ですか? 私、ミラと申しまして、弟子入りに――」
ばたん。
勢いよく扉が閉まる音がして、ミラは扉の前に取り残された。
デジャブだ。
「え? こっちも同じ!?」
ミラは思わず小声で叫んだ。
まったく同じ対応をされたことで、ついその場に立ち尽くしてしまった。
そもそも、なぜそこまで弟子をトルことを嫌うのか、よくわからない。だが、弟子は取りたくないという拒否の態度を明確に示されたらしい。
少しだけショックだった。
ミラは、とぼとぼとその場を離れて、ギルド近くの宿まで戻ることにした。
「やっぱり、弟子入りはダメなのかしら……」
ミラは少し考える。
兄と姉が私を軟禁して閉じ込めていたのは、私が色々覚える頭があったからだろう。
「そうよ……調合の経験になるような作業を見せてもらえれば良いんだわ」
それなら、弟子になって丁寧に教わらなくても、正しいやり方を見ることができれば何とかなるかも知れない。
「弟子になるのではなく、普通に調合しているところをただ見せてもらえればいいのよ!」
元気を取り戻したミラは、明日、もう一度工房に行くことにした。
(1)薬草と製法の知識
(2)機材の調達と調合技術の習得
(3)鑑定や錬成の魔法行使
1つ目は独学でもなんとかなるが、2つ目は調合技術が本の記述などにはなく、実地で学ぶしかない。
魔法も一般書物の知識だけでは不足を埋められず、魔力の使い方や魔法発動の仕方を体で覚えるしかない。
そのため、薬師になる人の多くは、現役の師匠に弟子入するか、学院で学ぶかしかない。このどちらかがあれば、技術も魔法もまとめて学べるからである。
ミラにとって、知識はすでに頭の中にあるため1つ目はクリアしているが、機材はお金がまだ足りずにかえておらず、弟子入りや学院入学のツテもない。
弟子入りの場合、師匠となる人を探さねばならず、お願いする必要がある。弟子を取らない人も多いため、この方法は難儀する。
だが、学院の場合は結構なお金と後ろ盾が必要となる。しかし、あの家から離れたミラは貴族の名前を使うことはできず、着の身着のまま家を出た後も、なんとか逃げ延びただけに過ぎないため、通えそうにない。
この街には薬師が3人居て、1人は引退、2人はその弟子が新たな薬師として冒険者ギルドに所属している。
その弟子の2人は立派な薬師ではあるが、弟子は取らないらしい。
そうなると、消去法で学院しかなくなる。だが、それは無理。
この話をギルド受付のスフィアに聞いて、ミラはつい考え込んでしまう。
「どうしましょう……」
薬草採集で知識と実際の経験が足りないことを知ったミラ。それは薬師として知識だけではポーション作りができないことを意味していた。
「意外な盲点だったわ」
作り方がわかれば試行錯誤でどうにかできないかを思案する。
けれど、薬師の作業は危険も伴うため、下手をすると死んでしまう。死ななくても、不治性の症状が出ることもあるという。
確かに文献でそういう実験に失敗するリスクは目にしていたが、正しい方法を学べる師匠がすぐに見つからないことは想定していなかった。
「学院に通うようなお金なんて用意できないし、後ろ盾も身分もないわ……。やっぱり、その弟子の2人、どちらかにダメ元で頼み込んでみようかしら」
そこで考えるのをやめて、とりあえず、行動を起こすことにした。
スフィアに2人の居場所を聞くことにする。
「スフィアさん。それで、その方たちはどこにいるのでしょうか?」
「工房の場所でしたら、こちらに」
地図の書かれた羊皮紙と、目印があった。
「ありがとうございます」
「まあ、難しいと思いますけどね。2人とも癖が強くて、弟子なんて取らない。そうおしゃっていましたから」
ミラはギルド内のカウンター周辺を見回した。
「今日はやけに人が少ないですよね? いつもスフィアさん以外に何人か働いていましたけど」
「ああ、なんかお偉いさんが王都から来るらしいです。まあ、冒険者ギルドのことだと思いますから、私達には関係なくても、こういう日は人手が出払ってしまうんです」
「そうでしたか。忙しい中ありがとうございます」
そういってミラは冒険者ギルドを後にした。外を出る時、一応、周囲を見回す。
(王都からって言っていたし、来たのは実家の者ではないわよね?)
ミラの顔を知っているのは、家族と家に出入りしていた中でもごく一部、そして、使用人くらいだった。
それらしい人影もいない。取り越し苦労だったらしい。
街を北西の方に歩いて地図と照らし合わせながら工房に向かう。
15分ほど歩いただろうか。こじんまりとしたレンガ造りの建物があった。
独特のセンスなのか、周囲の自然な景観をぶち壊すような色合いで、黒や黄色が縞模様のように着色レンガは並んでいた。
「ごめんください」
こんこん。ミラは扉を叩いた。
すると、男性の声が聞こえた。
「は~い、どちら様?」
顔を出したのは蜂蜜色の髪をした爽やかな若い男性だった。薬師のイメージとは少し違う。
「ルーベック様ですか? 私、ミラと申しまして、弟子入りに――」
ばたん。
勢いよく扉が閉まる音がして、ミラは扉の前に取り残された。
「帰ってくれ」
「あの、弟子入りをお願いしに来たんですけど!」
扉を何度か叩くが反応がなくなった。
(会話さえしてくれないなんて……)
まさか、ここまで拒絶されるとは思っていなかったミラは、仕方なく踵を返した。
もう一軒の工房に行くべく、今度は南東方向に歩き出す。
工房を見つけると、そこはベーシックなタイル作りに桃色の着色がされた独自のセンスが際立つ建物になっていた。
「ごめんください」
こんこん。ミラは扉を叩いた。
すると、若い女性の声が聞こえた。
「は~い、どなた?」
顔を出したのは黒髪で綺麗な大人っぽい女性だった。雰囲気は魔女そのもの。
「メリエラ様ですか? 私、ミラと申しまして、弟子入りに――」
ばたん。
勢いよく扉が閉まる音がして、ミラは扉の前に取り残された。
デジャブだ。
「え? こっちも同じ!?」
ミラは思わず小声で叫んだ。
まったく同じ対応をされたことで、ついその場に立ち尽くしてしまった。
そもそも、なぜそこまで弟子をトルことを嫌うのか、よくわからない。だが、弟子は取りたくないという拒否の態度を明確に示されたらしい。
少しだけショックだった。
ミラは、とぼとぼとその場を離れて、ギルド近くの宿まで戻ることにした。
「やっぱり、弟子入りはダメなのかしら……」
ミラは少し考える。
兄と姉が私を軟禁して閉じ込めていたのは、私が色々覚える頭があったからだろう。
「そうよ……調合の経験になるような作業を見せてもらえれば良いんだわ」
それなら、弟子になって丁寧に教わらなくても、正しいやり方を見ることができれば何とかなるかも知れない。
「弟子になるのではなく、普通に調合しているところをただ見せてもらえればいいのよ!」
元気を取り戻したミラは、明日、もう一度工房に行くことにした。
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