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狂い咲き12

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「ねえ?トウジさん。本当はわかってるんでしょ?」

「うん?」

「私が『サキ』さんじゃないってこと。」

「何言って・・。」

「聴いて?トウジさん。貴方は最初からわかってた。私がサキさんじゃないって・・、でもそう思い込む事で自分を納得させたんじゃないの?」

「違う!!俺がサキを間違えるはず無いんだ!君がサキだ!!俺がずっと待ち続けたサキなんだっ!!」

美咲はトウジの目を見ると首を横に降った。

「トウジさん?目を閉じてくれる?」

「えっ?」

「大丈夫だから、お願い。」

トウジは美咲に言われるがまま目を閉じた。

「心を穏やかにして?目に見えることだけが真実じゃない。心の目で身体で感じるの。愛しいサキさんの事を思って?」

「・・・・。」

「自然から、大地や空や水や木々を感じるの。感覚で。」

「・・・・。」

『・・ジ・さ・・ん。』

「!?」

明らかにトウジの身体が強張った。

「怖がらなくても大丈夫。そのまま受け入れて?」

『トウジ・・さん・・。』

「はっ・・!!さ・・きなのか?」

恐る恐る目を開けるとそこには愛しい待ち人のさきが優しい笑顔を浮かべながら立っていた。

『は、い。・・・・やっと、やっとお会い出来ましたね・・。』

「ほ・・んとうに、さきなのか??」

『はい・・。』

手を伸ばしさきの顔に優しく手を伸ばした。

「ずっと・・ずっと待っていたんだ。」

『待たせてしまって申し訳ありません・・。』

「いや、良いんだ・・。」

トウジは優しくさきを抱きしめた。この時を、愛しい人をこの腕で抱きしめられただけで満足だった。

「俺は・・俺は・・」

『良いんです。私を見付けてくれてありがとうございます。もう、これからはずっと一緒です。ずっと・・。』

「咲っ!!」

トウジの目から涙が零れた。咲に縋るように泣いた。

『藤治さん。一緒に眠りましょう?これからはずっと一緒です。』

「あぁ、一緒に眠ろう。」

二人を金色の光が包み込んだ。キラキラと藤の花ビラが二人を包む。

『美咲さん、ありがとう。これで藤治さんと一緒に眠れる・・。本当に本当にありがとう。』

「ううん。咲さん?良かったね?二人で静かに眠って?もう貴女達を引き離す者は誰も居ない。」

『はい・・。』

光に包まれた二人がすっと消えていった。その場に残された美咲の瞳から涙が一粒零れた。
辺りを見渡すと、あんなに咲きほこっていた花々が・・藤の花が枯れていた。藤棚は今にも崩れそうだった。
美咲が藤の葉に手を伸ばす。

「あなた達もユックリ休んで?」

答えるように一陣の風が頬を撫でた。
気が付くと、この場所に来た時と同じ様に人が一人通れる位の小径が出来ていた。

「・・・・。」

美咲は振り返り主の居なくなった『約束の場所』を目に焼き付けた。
小径を抜けて別荘からの通りに出る。
誰も受け付けないように小径は閉ざされ鬱蒼とした木々だけがあった。


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