上 下
182 / 200

忘却の楔32

しおりを挟む
雅也をホテルに送り、一旦自分の家に帰るとスーツに着替える。
襟元に社章を付けると心が引き締まった。

「よしっ!!」

一人掛け声をかける。
朝の8時前、出勤すると既に鍵が開いていた。

「・・・・、おはようございます。」

「あ、おはよう。」

事務所に入ると、相変わらず久堂がデスクワークをしていた。
美咲は自分の席に荷物を置くと何時もの朝のルーティンを始めようとした。

「如月さん?」

久堂が給湯室にいた美咲に声を掛けた。

「はい?どうしましたか?」

「・・・・、如月さんこそ何かあった?顔色、良くないよ?」

久堂が心配そうに顔を近付けた。

「な、何言ってるんですか?全然大丈夫ですよ〰。」

「俺にはわかるよ?無理・・してるでしょ?」

「・・・・。」

それ以上言われると何も言い返せなかった。ただ、視線を彷徨わせ俯いた。

「ごめん。責めてる訳じゃないんだ。俺は、如月さんの事が心配で・・。」

「久堂さん?私は本当に大丈夫ですから。」

笑顔を浮かべると久堂の横をすり抜けようとした。その時、久堂に肩を掴まれあっという間に抱き締められた。

「如月さん?俺の前で無理しないで?もっと、頼ってほしいな?」

「久堂さん、、、ここ会社・・。」

「大丈夫だよ。まだ皆来ない。」

「・・・・。」

「俺じゃ頼りにならない?」

「そ、そんな事・・ないです。でも・・。」

「でも?」

「私のプライベートな事です。会社や久堂さんに迷惑を掛けるのは違うと思います。」

「如月さん・・。そんなこと言わないで?」

久堂の顔を見上げると視線が絡んだ。久堂に縋れればどんなに楽か。でも、そんな事出来ない。

「久堂さんは心配性ですね?私は大丈夫ですよ。」

笑って久堂の腕の中からスルリと抜け出した。
それ以上、久堂は何も言わなかった。
朝礼が終わり各自朝にするべき事をこなす。美咲は早々に営業に出て行った。




「こちらで少しお待ち下さい。」

「ありがとうございます。」

顔見知りの職員に案内される。何時もの、結城の執務室だ。
朝から来客中ということで、執務室で待つことにした。もうすっかり事務所の人達とは顔見知りになっていた。

(来客中・・か。おじさん、忙しいんだな相変わらず・・。)

結城を待つ間に手帳を出して今後の予定を確認した。
小一時間過ぎたあたりに結城が部屋へ戻って来た。

「美咲?ごめん、待たせたね?」

「ううん。突然来たのは私だから・・。」

「・・・・、何かあった?」

「ははっ、おじさんには隠せないな・・。実は、雅也さんの記憶が戻ったんです。」

「記憶が?戻った?」

「はい。それで、ご相談なんですけど暫く身を隠したいんです。」

「えっ!?」

美咲のまさかの提案に結城は驚いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...