上 下
104 / 200

葛藤4

しおりを挟む
久堂は美咲の看病を続けていた。と言っても、タオルを変えることしか出来なかった。

「んっ・・。」

暑いのか、布団を剥いでしまう。その度にきちんと掛け直していた。
不意に、インターホンが鳴った。
ドアを開けると白衣を着た中年の男性が立っていた。

「あれ?ここ、美咲さんの部屋ですよね?」

「ああ、俺は如月さんの上司の久堂といいます。先程電話したのも私です。」

「そうでしたか。私は医師の美園といいます。美咲さんはどんな状態ですか?」

「あ、どうぞ。今は眠っています。」

室内に案内するとベッドに横たわる美咲を見た。

「どういった状況ですか?」

取り急ぎ、美咲の状態を伝えた。
話を聞くと美園は美咲の額に手を当てた。その後、血圧を測ったり酸素濃度を計ったりした。極力美咲を起こさない様に流れるような動きだった。

「ちょっと、熱が高いですね。酸素濃度もあまり良くない。」

「えっ?大丈夫なんですかっ?」

久堂が詰め寄る。

「とりあえず、美咲さんから話を聞きましょう。」

そう言うと美咲の肩を揺する。

「美咲さん?美園です。わかりますか?」

気怠そうに目を開ける。視線が暫く宙を彷徨うと美園に向けた。

「せんせぇ・・。」

「うん。大丈夫だよ?今少し診させて貰ったけど恐らくインフルエンザだと思う。ちょっと熱計ってくれる?」

体温計を渡す。

「ごめん・・なさい。」

「何で謝るの?」

美園は笑顔を浮かべて美咲の頭を撫でた。

「俺には気を使わないでほしいな?」

そんな話をしていると体温計のアラームが鳴る。見ると、やはり40℃を越えていた。 

「ちょっと熱が高いな。食事は取れてるの?」

「いえ・・、食欲無くて・・。」

「まぁ、そうだよね?とりあえず、点滴しとく。一応、インフルエンザの検査もしとこうか?」

「・・はい。」

力なく美咲がこたえた。インフルエンザの検査をすると点滴の用意をする。やはり、陽性反応が出た。

「やっぱりインフルエンザだったよ。今は点滴をして、後は薬を出すからそれ飲んでくれる?」

「わかりました。」

「うん。じゃあ、俺の方で処置するから寝ちゃっても大丈夫だからね?」

「ありがとう・・ございます。」

美園に言われた通り目を閉じた。
点滴や薬の準備をしている間に美咲は眠ってしまった。
全て処置が終わると久堂に視線を移す。

「これで少しは楽になれると思いますけど、暫くは高熱が続くと思います。」

「そう・・ですか。」

「久堂さん・・でしたっけ?美咲に付き添ってあげれますか?」

美園に核心をつかれる。

「・・・ずっと、という訳にはいかないです。」

「そうですかぁ。じゃあ、どうしようかな?俺がついてても良いんだけどこの時期なんで往診が多いんですよね?」

「・・俺は時間が許す限り付き添います。」

「そうですか?とりあえず、往診の予約が入っているので出ますけど久堂さんは出来る限りで結構ですので美咲に付き添ってあげてください。」

「わかりました。」

久堂と話が終わると美園は次の患者の所に行ってしまった。
一人残された久堂は美咲の手を握る。
苦しそうな呼吸をする美咲の頬に手を伸ばして優しく撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?

樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」 エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。 他に好きな女ができた、と彼は言う。 でも、それって本当ですか? エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

【連載版】おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、同名の短編「おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/981902516)の連載版です。連作短編の形になります。 短編版はビターエンドでしたが、連載版はほんのりハッピーエンドです。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

処理中です...